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転生魔王の異世界征服  作者: 星川 佑太郎
七章 竜人界編 其の二
98/220

出立の朝


次の日の朝


「リュート……おはよう……起きて……」


耳元から小さな声が聞こえる。

今朝は珍しくアクアが早起きして俺を起こしてくれたようだ。

珍しくというか、多分俺がアクアに起こされるのは初めてなんじゃないだろうか?


「う、ああ、おはよう」


俺はゆっくりと体を起こした。

アクアは俺の隣にペタンと座っている。


「ご飯出来てるよ……?」


どうやらいつもより早起きして朝ご飯を作ってくれたらしい。


「お、おう、すぐ行く」


俺がそう言うと、アクアは微笑みながら部屋から出て行った。

俺もすぐに向かうとしよう。


---


俺がトントンと階段を降りるとそこにはエプロンをつけた俺の嫁の姿が。

エプロンはいつもアクアが愛用している藍色の生地に黄色い花のデザインのついたエプロンだ。

見慣れた姿ではあるが、朝にこの姿を見かけたことはただの一度も無い。


「おおお……」

「どうかした……?」

「あ、いや、お前如何したんだよ……、こんな早起きして」

「今日行くんでしょ……?じゃあ、早起きしなきゃ……。それに、この前リュートが見たいって……言ってた……」

「成る程な……。そんなこと言ったか?」

「言った。朝にお前のエプロン姿が見たいって言った」

「な、成る程な。そりゃ、ありがとな」

「ん、どういたしまして」


俺はそう言いながら席に着いた。実に美味そうな飯だ。

パンとスープと野菜と肉。

だいたい毎食この組み合わせになるな。あんまりこの世界では魚とか食わないのだ。


その時、家の外から大きな声が。


「リュート様ー!あさですよー!準備できてますかー⁉︎」


うるせーな。

起きてるよ。今、折角朝早く俺の為に起きてくれた嫁との最後のスキンシップをしてたんだろうがよ。

水差しやがって。


「アスタ……。早いね」

「あのバカ……。追い払ってくる」


俺が座っていた椅子から腰を浮かすとアクアがそれを遮った。


「いいよ、一緒にご飯食べよ……?」


え〜。


---


「いやぁ、すいません食事まで頂いちゃってー」


アスタは家の食卓で飯をパクつきながら嬉しそうに言った。


「いい、リュートのこと、お願い……」

「勿論!任せて下さいっす!」

「ん、任せる……」

「ところでアクア様!この肉美味いっすね!アクア様が作ったんすか?」

「そう……、それは朝早起きして作った」

「さすがは魔王のお妃様っす!めっちゃ美味いっす!」

「良かった……。まだある」

「いやぁ、本当に美味しいっす!ね、リュート様!」

「お、おう、そうだな」


突然騒がしくなった我が家の食卓に俺は辟易しながら食事を取った。

アスタの絶賛した通り、滅茶苦茶美味かった。


何でこいつこんなに馴染んでんの?意味わかんないんだけど。


俺は高校時代にいた、人懐っこい性格の後輩を思い出した。

アスタは俺よりだいぶ年上なのに。

って、上司の嫁ってネトラレキャラじゃねえか。アスタ連れて行くことにしてて良かった。


---


腹ごしらえをしたら、俺たちはカイル村を出発だ。

アギレラ、フェリア、シエル、アクア、ルシファー、ベルが見送りだ。

カレンは寝ているらしい。まぁ、まだ4歳だしな。仕方が無いか。


アギレラが俺の背中をぶっ叩きながら言った。


「お前の事だ。心配はしていない。無事に皆を連れて帰って来い」

「ああ、分かってる」


続いてフェリア。


「リュート。何かあったら私に音信してくれ」

「おう、悪いな」

「リュートくん、アクアちゃんの世話は私に任せて、安心して行ってきな」

「助かります。アクアのことよろしくお願いします」


シエルにはここに来てからずっと世話になりっぱなしだな……。

まぁ、朝弱いから朝方は役に立たないけど。

今も眠そうに目をこすっている。


「リュート様、どうかご無事で。アスタ、リュート様を絶対にお守りするのだぞ?」

「任せろ!リュート様には傷一つ付けさせねえぜ!」


心配そうなルシファーにアスタが安請け合いする。


「二人共、武運を」


ベルはいつも通り短くまとまった言葉を送ってきた。


「ああ、ありがとな」


最後にアクアだ。


「じゃ、ちゃちゃっと行って帰ってくる」

「ん、待ってる……」


俺はこれが最後とばかりにアクアを強く抱き締めた。

アクアもそれに応える様に俺の背に手を回す。


「リュート様のことは俺に任せて下さいっす!命に代えてもお守りしますから!」


アスタは良い笑顔でアクアに言った。

命までは賭けるなよ?

お前これフラグじゃ無いだろうな?


「じゃあな、その子が生まれるまでには絶対帰ってくるから」

「ん……、名前……考えててね……?」

「おう、任せろ」


俺はアクアの頭にぽんと手を置いていった。

最後に俺はアクアの腹に手を当て、撫で回しておいた。


「じゃあな、お前は元気に生まれてこいよ」


その時、まるで腹の中の赤ん坊が俺の言葉に反応したかの様に向こうから動きがあった。


「おい、今蹴ったぞ!」


俺は少し興奮気味に言った。


「お父さんが行ってくるって言ったから……、いってらっしゃいって言ったのかも……」

「そうか……。よし、じゃあ行ってくるわ!」

「ん、いってらっしゃい。アスタ、リュートのこと……よろしく」

「はい!みんなで帰って来ますとも!」


俺たちは別れを惜しみながら出発した。


---


俺たちは少し歩いたところで違和感に気がついた。


「なんか、騒がしくないっすか?」

「ああ、しかも嫌に近いな……」


近くからか細い声が聞こえる。

しかし、音が小さいだけでとても騒ぎ立てている様な雰囲気だ。


「まさか……」

「どうかしたんすか?」

「いや、まさかとは思うが……」


俺は嫌な予感がしながらもポケットの中をまさぐった。

やはりというかなんというか、案の定、ジジイの棺桶についていた髑髏の装飾品が出てきた。

例によって包帯でぐるぐる巻きだ。


「あー……」


俺はゲンナリした声を出した。

なんで爺さんがいるんだよ……。まぁ、俺がポケットに入れっぱなしにしてからなんだが……。

そうだ、カレンが怖がるから包帯で声が出せなくしたんだった……。

時間が経って結びが甘くなったのだろう。

それで、今になって声が漏れてきたと。


俺はこの後の爺さんの怒鳴り声を想像してまた沈んだ気分になってきたが、このままだと後が怖いので解く事にした。


「もしかして……ネルヴァ様っすか……?」

「ああ、カレンが怖がるから喋れなくしたんだけど……、忘れてたっぽいわ」

「ヤバイっすよ!それ!」

「ああ、ヤバイな」


ヤバイ。

コレはヤバイ。

爺さん絶対キレてる。

俺は恐る恐る包帯を解いた。


『こんのぉ馬鹿孫がぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎爺ちゃんを忘れるとは一体どういう了見じゃい!』


案の定ブチ切れてた。

霊体なのに血管ブチ切れてるだろコレ。

青筋がピクピクしてる。


「悪かったよ爺さん。わざとじゃねえんだ」

『ワザとじゃ無かったら何してもええんかボケェ‼︎』

「悪かったよ、この通りだ。な、許してくれ」


俺は素直に頭を下げて謝った。

流石に俺も悪いかとをしてしまった。逆の立場なら俺だってブチ切れる。


『フン、まぁ、そこまで言うなら許してやらんでも無い。もう儂を簀巻きにするなんぞ許さんからな!』

「え……あ〜……うん……」


正直、カレンが怖がったりしたらまた簀巻きにするかもしれん。

もう家に置いておくことも考えたが、シエルが何するか分からんからな。シエルはピカピカ光ったものが大好きなのだ。私物化しかねない。

あと、アクアと同じ空間にコレを置いておきたく無い。

うるさいし、不気味だし、あとなんかデザインが悪趣味だし。


『で、孫よ。儂も話は聞かせて貰ったぞ。竜人界いくんじゃろ?』


ジジイがキメ顔で言った。きめぇ。


「ああ、そうだけど」

『よっしゃ、わしがおったら百人力じゃ!儂も手伝ったろ!』

「あんた動けねえだろうがよ」

「そっすねー、また体奪われるの嫌ですし、大人しくしてて欲しいっすね」

『おいいいい!なんじゃその老人に対する仕打ちはぁぁあ‼︎』

「はいはい、元気元気」


俺は面倒くさくなってきたので爺さんをポケットに滑り込ませた。

また五月蝿く文句を言っていたが、知ったことでは無い。無視だ無視。

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