行動開始
そんな平和な日々が二週間ほど続いたある日。
俺は筋トレしながら考え事をしていた。今日は久し振りにカレンがいない。
「……リーシャから連絡がこない……」
そう、リーシャから一向に連絡がこないのだ。
なんだか少し心配になってきた。
二週間経っても帰ってこれないようなら連絡してくれと言ったのだが、忘れているのか?
あいつは少しズボラなところがあるからな……。
しかし、先程からずっと音信魔法を使っているのだが、リーシャは一向に出ない。
何かあったのか……?
いや、竜人界にはジルもいるのだ。それに非常に高いレベルの戦闘能力を持つ祐奈もいるのだ。
流石に竜人族の戦士と勇者がいたら万に1つも何かが起ころうはずも無い。
神さえ絡んでいなければ、の話だが。
ローグが絡んできたとしたら俺がいても結果は同じだ。
リーシャとは連絡がつかない。
向こうの状況が全くわからない状態で迂闊に動くのは危険だが、やはり仲間の安全は確認しておきたい。
しかし、アクアの側にもいてやりたい。
クソッ……。どうすりゃ良いんだよ……?
「リュート様」
ザッ!と俺の背後に突然現れるルシファー。
「どうした」←慣れた
「何かお悩みのご様子……。このルシファー。何かあれば喜んで魔王様のお力となりましょう」
どうしたものか……。いくら俺が強くなったと言っても流石にローグに勝てるほど強くなってるとは思えない。
祐奈とジルとリーシャが居て対応できない事態が起こってるのなら俺に何が出来るというのだ
俺たちの仲間内で唯一ローグに太刀打ちできる戦力をここで投入するべきだろうか?
そもそも何故連絡が取れないんだ。
「リーシャ殿の事ですか?」
「全く、お前は頭良いな。なんで分かるんだ?」
「人の顔色を伺うのは得意なのです」
「嫌な特技だ……。この事はアクアには言うな。もう少し考えさせて欲しい」
「はっ」
俺の言葉にルシファーは恭しく跪き、後ろへ下がっていった。
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「あぁー、どーすっかなぁー」
俺は家のリビングで踏ん反り返って椅子に深くもたれかかった。
正直、こんなことをしていても妙案が浮かぶわけも無い。
時間がかかり過ぎてはいけない。明日の朝までには考えをまとめておかなければならない。
「リュート……、どうかした?」
「いや、何でもない」
アクアには考えがまとまるまでは黙っておく。
もしアクアに言うと「行け」って言われるに決まってるからな。
俺たちはローグに命を狙われているんだ。
アクアにはそれがどれ程危ない状況か、イマイチ飲み込めていないのだ。
「リーシャ達の……こと……?」
「なっ⁉︎な、何のことだよ……?」
「誤魔化さなくても良い。リュートは嘘が下手……」
ここまで言われると観念するしかないな。
俺ってばそんなに嘘が下手だったか?
「まぁ、リーシャ達のことだ」
「どうかしたの……?」
「二週間経つと連絡すると言っていたが、連絡がこない。まぁ、あいつの事だ……忘れてるんだろ」
俺は少し無理をするように言った。
しかし、多分俺の表情はぎこちなく固まっていることだろう。
「嘘」
アクアは俺の瞳の奥を見据えて言った。
それは決然とした表情で。
あぁ、アクアのことだ。
どうせ行けと言うのだろう。アクアはそういう女だ。
そう言う性格だから俺だって好きになったのだから。
でも、俺に……この、何よりも大切な存在を放って行けと言うのか?
俺のいない間に何かあったらどうするんだ?
もし何かあったら俺には耐えられない……。
「リュート……。もう、私の言うこと……分かってるよね?」
「ああ、分かってる」
俺はゆっくりと頷いた。
もう、アクアの心のうちは大体分かっていた。
それはアクアも同じだろう。俺の考えてる事なんて単純だからな。
「行く?」
「ああ、行くよ」
「そう…….。それでこそ……リュートだよ」
「悪い」
「良いの……」
アクアはそう言うと、俺を抱き締めた。
俺もアクアを抱き締め返した。
俺は嚙みしめる様に、強く抱き締めた。
「すまん……。すぐに帰ってくる」
「うん、ちゃんとみんなで帰って来て……。ジルにも久しぶりに会いたいし」
「それ本人に言ってやれよ。喜ぶぞ」
「どうだろ……」
分かってるくせに……。
よし、吹っ切れた。
明日にでも出発するか。
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俺は皆が寝静まった時間帯を見計らい、1人寝室から出てきた。
多分アクアにはバレているだろうな。
「ルシファー!」
俺は窓の外に向かって叫んだ。
「お呼びでしょうか」
ザザッ!と残像を残しながら現れるルシファー。
まるで忍者だな。
なんか慣れてきてる自分が怖くなってきた。
「明日、竜人界に行く。留守を頼む」
「しかし、リュート様。私も同行しなくてもよろしいので?」
「ああ、お前はここに残ってくれ。お前はここに居て、何かあった時にみんなを守ってくれ」
ルシファーはこの村の守りの要だ。
もしここにローグが来た場合は全てをルシファーに任せることになるだろう。
「はっ!承知致しました」
ルシファーは恭しく膝をつき、頷いた。
「代わりに、アスタを呼んできてくれ」
「はっ」
ルシファーは闇夜に一瞬で姿を消した。もう忍者で良いんじゃないかな?
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「リュート様、俺に用ってなんすか?」
今度はキョトンとした顔のアスタが眠そうな目をこすりながらやって来た。
かくんかくんと首が船を漕いでいる。
良い歳して一回寝たらそのまま熟睡かよ。
「明日竜人界に行くからついて来てくれ」
俺は単刀直入に切り出した。
俺の言葉にアスタは驚いたように返した。
「え、明日っすか⁉︎また急っすね……」
「明日だ」
「まぁ、良いっすよ。すぐに準備します」
しかし、そこは流石の魔王軍将軍だ。落ち着いて俺の命令に従う。
「日数は決まってないから、その辺は適当に頼む」
「うっす」
長旅に慣れてるやつはアバウトな説明でちゃんと準備してくるから助かるな。
明日は朝一番で出発しよう。
これで何もなかったら……そうだな……。リーシャの奴どうしてやろうか……。
取り敢えずシバく。
また出番が減るアクア……。
どうにかしたいものです。