嫁の愛
「ごめんね?おにーさん」
「気にすんな、もう治った。でも、もう4の字固めは禁止な?」
「はーい……」
おい、しょんぼりするな。
4の字固め禁止されてしょんぼりする幼女なんて見たくなかった……。
あの後俺のタップをガン無視したカレンは俺の片足をしっかりぼっきりと折ってくれたのだ。
全く将来有望なガキだぜ……。
俺の足が完治した事を確認したアギレラは謝罪しながら仕事に戻っていった。
いやぁ、邪魔して悪かったな。
すると、何処かに行っていたカレンが近くの岩陰からゴソゴソと這い出てきた。
「おにーさん。はい、おべんと」
カレンが俺に弁当を差し出してくる。
カレンが毎日俺と遊んでいる事を知っているフェリアは俺の分とカレンの分の弁当を作ってカレンに持たせているのだ。
「お、サンキュ」
相変わらず美味そうな弁当だった。
しかし、やはりというかなんというか、肉が無い。一切無い。
フェリアは純粋なエルフなので肉を食えないだけではなく、生き物を調理する事も出来ないらしい。
生き物を殺したり、料理する事自体はエルフも許されているのだが、肉を全く食わない種族なので、殆どのエルフが動物を調理する技術を持っていないのだ。
それはフェリアも例外では無い。
一応結婚してから練習しているらしいが、アギレラやシエルが作ったほうがいくらかマシに出来上がるらしい。
ちなみに、リーシャは魔界育ちのハーフエルフなので肉を食う事に全く抵抗は無い。
「いただきまーす!」
「頂きます」
俺たちは元気良く飯をかっくらった。
しかし、肉が無い事を差し引いてもフェリアの料理は美味い。
アクアの飯と似たような味付けだ。これはアクアの味付けがフェリアの物に酷似しているのだろう。
アクアは元々料理は出来る方だったが、ここでフェリアに習ったのが大きな要因だ。
アクアの料理の腕もフェリアやリーシャに引けを取らない。
この世界の人って料理下手なやつ少ないな……。
普通のラノベならアクアは間違いなく料理ど下手くそなキャラになっていた事だろう。
しかし、長旅をする以上1人で料理くらいできなくては生きていけないからな。
勇者?知らない子ですね。
そんな俺をよそに、カレンはサラダをバリバリ食いながら楽しそうに俺に笑いかける。
「おいしーね、おにーさん!」
「そーだなぁ……。カレンの母さんの飯は美味いな」
「でしょ?アクアおねーさんは?」
「アクアの飯も美味いぞ?」
「おかーさんとどっちがおいしい?」
バカな……。
お父さんとお母さんどっちが好き?って聞かれる子供の気分を味わう事になるとは……。
「難しい質問だな……。んー、悪いけどアクアだな」
「なんで?ぜったいおかーさんのほうがおいしいよ!」
自分の母親がそう言われて自分も負けた気分になったのだろうか。
カレンは少しムキになったように言った。
俺は少し考えてこう返した。
「嫁からの愛情……かな?」
「え、どういういみ?もういっかいいって?」
「ごめん、やっぱり今の無し」
無邪気に聞き返すのやめてください。
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俺はカレンと昼飯を食って、また筋トレして家に帰った。
俺がドアを開けるとアクアが俺を出迎えてくれた。
「おかえり……。遅かったね……?」
「おう、ただいま。そうか?」
そう言いながら俺はリビングから漂う良い匂いに夢中だった。
肉だな。うん、肉だ。
「お昼は……?」
「カレンとフェリアの弁当食った」
「そう、晩御飯できてるよ」
そう言うとアクアはゆっくりとリビングに戻っていった。
食卓にはいつもと毛色の違う飯が並んでいた。
リーシャは俺が好きだとでも思っているのか、ゲテモノ料理ばっかり作るのだ。
俺は好き好んでゲテモノを食ってる訳じゃ無い。サソリは好きだけど。
普通に鳥とか豚とか牛が好きなんだよ。これでも元は日本人だぞ?慣れ親しんだ肉の方が良いに決まってるだろ。
百歩譲って猪とか鹿とか熊だな。サソリは好きだけども。あと、カエルも割といける。
そう言えば昨日からリーシャがいないんだったな。
「今日はアクアが作ったのか?」
「うん、今までずっとリーシャがやってくれてたから……。私も勘が鈍る」
「そっか」
なんか職人みたいな事言いだした。
俺の料理には焼くぐらいしかレパートリーが無いからな……。なんとも言えんが。
「あんま無理すんなよ?」
「余裕……。料理くらい出来る」
「ならいいけどさ……。何かあったら言えよ?」
「うん……。ちゃんと言う」
まぁ、杞憂だろうな。
前世で俺の親父は料理なんて全くできない人間だったが、毎日飯は食ってた。
飯を作るくらい特に母親の負担にはならないのだろう。
家事を全てこなす妊婦もいるらしいしな。それに比べればうちの嫁はまだ楽している方だろう。
「美味いな」
俺はアクアの作った飯を食いながら正直に感想を言った。
まず献立が肉。あと、俺の好みな濃いめの味付けにしてくれている。
最高だ。しかし、アクアはあまり濃いの食うべきじゃ無いんじゃないか?
「……リュートのために作った。私のは薄味」
アクアは俺の心を読んだかのように答える。
そんなに顔に出てたかな……。
「悪いな、気を使わせて」
「ありがとうって言ってくれた方が……私は良い」
「そっか、ありがとう」
俺が素直に言うと、アクアは俺の隣の席に座った。
「もっと褒めても良い」
「ありがとな!さすがは俺の嫁‼︎愛してる!」
「……そこまで言われると……、照れ臭い……」
アクアが俯きながら赤面する。可愛い。
しかし、テンション上がってる時の俺は少し言動がおかしいな。
うちの嫁は甘え上手では無いのだが、下手なりに甘えてくるのが可愛くて仕方が無い。
しかし、エロいことは禁止。
自分でも業の深い選択をしてしまったものだ……。
あぁ、畜生。手ぇ出してぇ……。
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俺が飯を食い終わったのを確認し、食器を片付けたアクアはあくびをかみ殺しながら立ち上がった。
「寝る」
「おう、俺ももうちょいしたら寝るわ。シエルさんは?」
「寝た」
「早いなおい」
遅寝遅起きって夏休み中の学生かよ。
もうちょっと活動しろよ。
「おやすみ……ふぁふ……」
「ああ、お休み」
小さくあくびをしながらアクアは寝室へと続く階段をトントンと上がっていった。
もうちょいしたら寝るとは言ったが、特に何もやることはないので俺も寝るかな。
「やっぱ寝よ」
無意味に起きていても次の日辛くなるだけだしな。
まぁ、特にやることは無いのだが。
俺はさっさと寝室に行ってベッドのアクアの隣に潜り込んだ。アクアの乳でも枕に寝よう。
本当に枕にしたら息苦しいからやらないけど。
と、思っていたら熟睡しているアクアに頭を抱き抱えられ、本当に乳を枕に寝てしまった。
煩悩を抑えるのに苦労したが、めっちゃ気持ちよかった。
しかし、次の日起きたらアクアは俺に背を向けて寝ていた。
寝苦しかったのか……。
リュートをアクアとイチャイチャさせたい。