プロレス幼女
「お前、アクアに何かあったのかと思って心配したんだぞ?何でああいう言い方するかな……」
俺はリーシャにぼやいた。
今回ばかりはどう考えてもリーシャの伝え方が悪い。
俺をびっくりさせようとしたんだろうけどさぁ……。言えよ。
「いや、でもアクアちゃん、本当に大変だったんだよ?いきなり吐くし……。つわりは酷いし。それにいつもあんまり表情変えないから辛いのか大丈夫なのかわかんないし」
あー、確かに。アクアはそういうとこあるなぁ。
「アンタが居れば何か変わったかもしれないのよ?」
「悪かったよ。俺もすぐに帰りたかったけど、色々と大変だったんだ」
俺は言い訳じみた事を言いながらアギレラの家へと向かった。
アクアは座っていると楽そうなのでシエルの家に置いてきた。
今夜また話をしようと思う。
アギレラとは久々に会えるからな……いろいろ話したいことも多い。
『なぁ、儂喋ってええか?』
「もうちょい黙っててくれ」
『えー、マジ?』
我ながら鬼だな。
---
「アギレラ!俺だ!」
扉をゴンゴン叩いてアギレラを呼び出す。
するとフェリアが扉を開けて出てきた。
「リュートか、さ、入ってくれ。アギレラは今奥にいるから。私は食事の用意をしないと」
「お、おぅ」
何で出てこないんだ?
俺は不審に思いながらも奥へと進むと。
「おとーさんおとーさん!みてみてコブラツイスト!」
「いてててててて!コラ!カレン!痛い!」
父親の威厳もへったくれも無いアギレラの姿があった。
必死の形相でタップしている。
てか獣人族の子供は女の子でもコブラツイストをかけることが出来るのか……。恐ろしい。
あの罪の意識の全く無い無邪気な笑顔……。そしてあの細腕から繰り出される完璧に関節が決まっているコブラツイスト……。将来はプロレス界の星だな。
「何やってんだ?アギレラ」
「リュートか!」
アギレラは俺を見つけるやいなや関節極めている女の子を引き剥がして立ち上がった。
お前の関節は一体どうなってるんだ。あの辛そうな顔は演技か?
女の子は俺の顔を見るとアギレラの後ろにサッと隠れて尻のあたりからこっそりと顔を半分だけ出した。
可愛いな。
久し振りに会ったのにアギレラはあんまり変わっていなかった。
「久し振りだな。元気だったか?」
「今は元気だけどな。ずっと元気だったかと聞かれればそうでもない」
「違いないな」
アギレラは陽気に笑った。
子供が生まれたからか、アギレラの表情は昔より柔らかい。
「で、何でこの子はコブラツイスト何て使えるんだ?」
「俺が教えたからな」
「何やってんだお前」
バカじゃねえの?
さて、少し変わったと言えばここだな。
「ほら、カレン自己紹介しろ」
アギレラは自分の後ろに隠れている女の子を前へ押しやりながら言った。
「か、カレンです!4さいです!」
カレンはぺこりとお辞儀した。可愛い。
四歳児にしては少し身体が大きいな。獣人族の血が半分入っているからか?
確かエルフは成長の遅い種族のはずなのだが……。アギレラの血が色濃く出たのか?
その割には可愛らしい顔をしている。見た目はフェリアから多くを受け継いだようだ。
女の子だしな。良かった良かった。こんなイカツイおっさんの顔を受け継いでたら不憫だもんな。
しかし、父親譲りの狼のようなピンと立った耳がちゃっかり頭部にある。
本当にハイブリットって感じだな。
「って事は……この子が?」
「ああ、この子がお前が名前をつけてくれたカレンだ」
「そっか……。俺はリュート。アギレラの仲間だ」
俺は屈んでカレンと目線を合わせながら言った。
「なかま?」
「友達だ」
「ほんと⁉︎」
「おう、ほんとほんと」
「うわぁーい!」
目を輝かせながら俺にまとわりついてきた。何だ何だどうしたどうした?
「おとーさんの友だちはコブラツイストきかないっておとーさんが言ってた!」
おいコラアギレラ。何てこと娘に吹聴してんだ。
「効くわ!」
「えー、おとーさんうそついたのー?」
「うぐ……」
娘にそんな事を言われてしまった哀れな父親は俺にこう耳打ちした。
「まぁ、コブラツイスト食らってやってくれ。で、痛みは我慢してくれ」
「鬼か!」
アギレラと話しているというのにカレンは俺の手をとって既に関節を極めようとしてくる。
「ちょ、待て、いっ、いてててててて!あ、アバラがッ!」
恐るべき早業。
するすると俺の左足に足を引っ掛け、俺の右脇腹から顔を出し、無慈悲に俺の脇腹を二つ折りにしようとしてくる。
これでまだ四歳児だというのだから将来有望だな。
しかもこの幼児。タップを無視しやがる。
「このガキ……!アギレラ、お前どんな育て方してんだ⁉︎」
「む……、この子は生まれつき力が強くてなぁ……」
「お前、アレは演技じゃなかったのか?」
「バカか、四歳児に力で負けるわけないだろ」
「俺は『強化魔法』無しだとギリギリなんだよ!」
カレンのやつ……バカみたいに力が強い!
ヤバイ!マジでヤバイ!肋骨が折れる!
あっ……。逝った。
「おい、カレン。辞めてやれ」
「はーい、つまんないの」
「こんのガキャ……」
アギレラが言うと、カレンはするりと俺を放した。
「お兄さんよわいね」
「…………そうだな」
正直言って面と向かって弱いとか言われたの久しぶりな気がする。
だが、こんな幼女に言われるのは多分最初で最後だろうけどな……。
ってかこの状況で「俺は強い!」って主張できる奴居る?俺は無理だ。
「おいおい……、リュートは強いぞ?」
「でもお兄さんのあばら、おれちゃったよ?」
「お前アバラ折ったのか⁉︎」
アギレラが驚いて顔を両手で覆った。
「あぁ、気にするな。すぐ治る」
「何でだ⁉︎」
何でって……、話すと長くなるんだよなぁ……。
「ってそんなことより……。カレン!ひとさまの肋骨は折っちゃダメだ!それは悪い事だ。分かったか?」
「はーい……」
「じゃあ、悪い事したらどうするんだ?」
「お兄さん、ごめんなさい」
カレンはぺこりと頭を下げる。
素直な良い子だ。
「いいさ、気にするな。それに、もう治った」
俺の肋骨の骨折はものの数分で治る。
俺の回復速度はそこまで早くはないが、それはエレボスに比べた場合だ。
普通の奴からしたらそりゃあぶっ飛んだ再生速度だ。
「お兄さんすごいね!ほんとはつよいの?」
「まぁまぁだ」
俺は謙遜したつもりで答えた。
まぁ、弱くはないわな。そこまで強くないけど。
「じゃあお兄さんはなんてわざがつかえるの?」
プロレス技の話か?そうだな……。
「んー、ブレーンバスターとか、延髄斬りとか?」
「なぁに?それ」
「今度教えてやるよ。この技でおとーさんをぶっ飛ばそうぜ」
ちなみにブレーンバスターとは別名脳天砕きとも呼ばれ、手加減無しでやったら人を殺しかねない荒技だ。断じて幼女に教えて良いものではない。
そして、延髄斬りとはジャンプしてまるで刀で切り裂くように相手の後頭部の延髄のあたりを蹴る技だ。やはり幼女に教えて良いものではない。
「やったー!」
「おいお前!娘に何教える気だ⁉︎」
冗談に決まってるだろ。
まぁ、固め技なら教えてやってもいいかな……。死なないし。
やはり卍固めとかリバースインディアンデスロックあたりが妥当かな……?コブラツイストと関係が深いしな。
世代は全然違うのですが、アントニオ猪木好きです。この前アリとの異種格闘技戦見て超震えました