半年ぶりの再会
次の日の朝
「さてと、行くか」
俺は準備を終えて立ち上がった。
まぁ、朝飯はまた、カイリとマイルの世話になったが。
「じゃあ、行きましょうか」
アスタも傷が完治したらしく、元気そうに言った。
まさか寝たら治るとは言っていたが、本当に治るとはな……。マジバケモンな身体してやがる。
「私たちも準備完了」
「いつでも行けますよ!リュートさん」
「よし、行くか」
俺は家を出て、カイリとマイルを振り返った。
二人にはかなり世話になってしまった。やはりいつか恩は返さねばな。
返すあては今の所ないのだが。二人とも強いし。
「じゃあね〜。またきてね〜」
「近くに来る事があったらまた立ち寄って下さい。それと……」
カイリはそう言って俺の胸のあたりに手を当ててきた。
「音信魔力を交換しておきましょう。近くに来たら連絡をください。その代わり、何かあったら此方から連絡します」
「おぅ、任しとけ!」
俺は二つ返事で了承した。
カイリの手を伝って光が俺の中へと入ってくる。
よし、これで交換完了だ。
「じゃあな!本当に世話になった!ありがとう!」
「ありがとうねー!二人とも!」
「お世話になりましたっす!」
「感謝する」
俺たちは口々に礼を言って歩き出した。目指すはカイル村だ。
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俺たちはカイリとマイルに別れを告げ、森を突き進んだ。
この戦力なら野生の魔獣に襲われても問題ないので、森を突っ切る方が早い。
俺が歩いていると、ポケットの中から何やらカタカタと音が聞こえる。
確認してみると爺さんのドクロの装飾品だった。
訳あって俺の爺さんはこの中に住んでいるのだ。
「あ、やべ、忘れてた」
俺が黙ってろと言っても黙らないので包帯で簀巻きにしたのだ。
俺は急いで拘束を解く。
解いた瞬間、爺さんはデカイ怒鳴り声を上げた。
『こんの馬鹿孫ぉ!爺ちゃんに向かってなんちゅうことをするんじゃぁ!』
爺さんはカンカンに怒っていた。まぁ、当然か。
「悪かった悪かった。反省してるから」
「本当に反省しとるのか?儂、マジで傷ついたんじゃぞ?」
「はいはい、ごめんごめん。そんなことより、リーシャに連絡しとくか」
『今そんなことよりって言ったか⁉︎なぁ⁉︎』
爺さんの切実な声が聞こえてきたが無視だ無視。
「連絡?」
「『音信魔法』だよ」
「あ、そっか」
俺は短く答えるとリーシャに『音信魔法』を飛ばした。
そして、リーシャのレスポンスは早い。
『あ、リュート?今そっちにルシファーが行ったから。多分すぐに着くと思うよ』
「え?マジ?」
『マジマジ』
あいつは時間を凍結できるからなぁ……。多分文字通り一瞬で移動できるのだろう。
その時、ブオオッ!と風が吹いたかと思うと、俺のすぐ後ろにルシファーが立っていた。
「うおおおおお⁉︎」
俺はそれはそれは驚いて後ろへと飛びずさった。
「リュート様。お久し振りでございます」
ルシファーは俺の様子を意に介さず、恭しく膝をついた。
その時、アスタがルシファーに声を掛けた、
「ルシ!久し振りだな!」
「……?な、あ、アスタロト……⁉︎」
「久し振り」
ベルも小さく会釈する。
そういやこの三人は魔王軍三大将軍だっけか……。
「ベルゼビュートまで……。お前達今までどこへ行っていたのだ⁉︎」
「水臭いなー、昔みたいにアスタ、ベルって呼べよー」
「まずは質問に答えろ……」
ルシファーは額を押さえながら疲れたように言った。
「話せば長くなる」
三人の掛け合いは長い付き合いの友人同士のそれだった。
ルシファーは面倒臭そうな態度をとってはいるが、昔からの仲間との再会に内心嬉しく思っているのだろう。
「でもなんで迎えに来たんだ?」
「はい、私がリュート様と合流し、転送魔法で村まで行く手はずとなっております」
「えーと……?」
「転送魔法とはあらかじめ転送紋を刻んだものを任意の時間に自分の元へと転送する魔法です。そして、この通り、私の腕には転送紋が刻まれております。私に捕まれば、一緒に村までひとっ飛びということです」
ルシファーは俺に腕を見せながら言った。
な、成る程……。イマイチ分からんかったが、要するに村まで一瞬なんだな?
「そうとわかれば皆、ルシファーに捕まれ!」
全員がルシファーの腕を掴んだところでルシファーが空中に円を描きながら『音信魔法』を使用した。
「転送、お願い致します」
『了解した』
空間の向こう側から聞こえてきた声はなんだか聞き覚えのある声だった。
『なぁ、儂は大丈夫なんかの?』
「大丈夫大丈夫。……多分」
『おい、本当に大丈夫なんじゃろうな⁉︎』
「黙ってろ舌噛むぞ」
俺はそう言って爺さんをポケットに押し込んだ。
その時、周囲の空間が歪んだかと思うと、身体中を物凄い浮遊感が襲った。
「うおおおおお⁉︎」
そしてあたりが真っ暗になった。
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気がついたら目の前にはルシファーの顔があった。
「リュート様、大事ありませんか?転送酔いした様でございますね……」
転送酔い……?なんじゃそりゃ。乗り物酔いみたいなもんか?
「リュートさんもだらしないですねー。私は全然平気でしたよ」
「ふーん、歪みねえな」
「やめて下さいよ!」
お前本当に趣味の幅が広いな。そんなことまで知ってんのかよ。
俺と祐奈がギャーギャーとうるさく掛け合いをしていると村から1人の女性が。
「リュート。久し振りだな。私が分かるか?」
「馬鹿、分かんねえ訳ないだろ?フェリア。それよりよく俺がわかったな。俺は変わっただろ」
その女性の名はフェリア。
昔俺と共に少しの間旅をした仲間だ。
現在は獣人族のアギレラと結婚し、このカイル村に住んでいる。
「なに、分からん訳がないだろう?仲間なのだから当然だ」
「そりゃ嬉しい事言ってくれるね」
「リュート様、リーシャ殿が用があるとの事でございます」
再開をよろこぶ暇もないな。まぁ、そんな事は後でもできるか。それに、アクアの事も心配だ。
「リーシャは?」
「シエル殿の家でございます」
「分かった。すぐに向かう。アクアは無事なのか?」
あの時のリーシャの口ぶりが気になるところだ。アクアに何かあったのだろうか?
「は、アクア様の方は大事ありません。経過は順調でございます」
「え、何の話?」
何か致命的な食い違いが発生している気がするのだが。
とにかく俺は急いでシエルの家へと向かった。
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俺は勢いよくドアを開けた。
「リーシャ、いるか?」
「リュート!久し振り!無事だったのね!知ってたけど!」
「あら、リュートくん。大きくなったねぇ」
そう言ってリーシャが胸をぶるんぶるん揺らしながらこちらへ駆け寄ってきた。この目立ちたがり屋め。
シエルも一緒だ。
『おっぱい大きいのお……』
「ああ……そうだな、って黙れジジイ!」
俺は爺さんの髑髏を思いっきり握り、爺さんを黙らせる。
「そ、それより……アクアは⁉︎」
もう俺は心配で心配でたまらなかった。
大体なにがあったのかくらい話してくれてもいいだろうに。
「アクアちゃんなら二階にいるよ。行ってあげて」
俺はリーシャの言葉に返事もせずに階段を駆け上がった。
そして二階のドアを蹴破る様な勢いで開ける。
「アクア!」
すると、陽光の差し込むその部屋にはアクアがいた。
肘掛椅子に腰掛けている。
「リュート……?」
「ふぅ……無事っぽいな……。ただいま……アクア……」
「リュート……!」
アクアが椅子から立ち上がり、よたよたとこちらへと駆け寄ってくる。
なんだか足取りが覚束ない。
まさかどっか悪いのか……⁉︎
ってあれ?
「腹出てね?」
「……久し振りに会ったのに……失礼」
「す、すまん!」
俺はごまかす様にアクアを抱きしめた。
いや、ちょっと待て。おかしいだろ。この腹の出方って……。
俺はおずおずとアクアに問いかけた。
「お前、それ……まさか……」
俺は少し溜めて聞いた。
「赤ん坊?」
「うん、子供」
「ガチ?」
「うん」
「え……?マジで……?」
「マジ」
突然目頭が熱くなってきた。なんだか涙が出そうだった。
「いつから?」
「……結婚してからリュートがゲートの向こうに行くまでの間……かな?そろそろ、八ヶ月」
は、八ヶ月……⁉︎
え、ちょっと待て。俺は……妊婦の嫁を八ヶ月も放置してたってのか……?
嘘だろ……?
出産までに帰ってこれて本当に良かった……。マジでそれに間に合ってなかったら俺はもう自己嫌悪で死ぬところだったぞ。
と、既に軽い自己嫌悪に浸り始めた時、後ろから人の気配が。
ニヤニヤした顔のリーシャとシエルだ。
「リュート。アクアちゃんになんかないの?『でかした!』とか『ありがとう!』とか『やったぜ!』とかさ」
リーシャにそう言われて俺も自分が言葉少なだった事を自覚した。
何だか久し振りすぎて口がうまく動かん。
「そ、その……、アクア……。で、でかした……?」
「何故に疑問系……」
「えーと、その、あ、ありがとう!」
「ん……」
アクアは満足げに目を細めながら俺の胸元へ頭をくっつけてきた。
可愛過ぎか。
全く、情けない男だ。
これから俺は父親になるってのにこんなんで大丈夫かね?
アクアはローグに襲われた時、既に妊娠していたという事です。分かりにくかったかと思い補足しておきました。