男子会
俺たちは戦闘が終了し、カイリとマイルの家で休んでいた。
敵は全員縛ってほっぽって置いた。メンドイし。
「さぁ、これからどこへ向かうんです?」
祐奈が切り出した。
そうだ、長いことここにいるわけにはいかない。
「やはり、アクア達の待っているカイル村に向かおう」
「了解っす……!」
「分かりました!」
「了解」
3人は二つ返事で了承した。
「カイリ、マイル。お前達には本当に助かった。ここらでお別れだ」
「そうですか。でも恩返しをしてもらってないですね」
「うっ……そ、それは……」
「はいはい、固いこと言わないの〜。じゃあ皆んな、元気でね〜」
カイリの耳を引っ張りながら、マイルは笑顔で俺たちに手を振った。
「絶対いつかここにも来るよ。そんで、何かあったら絶対助けに来る!」
「期待しないで待ってるね〜」
そこは期待しててくれよ。
「取り敢えず今日は泊まっていくのでしょう?部屋が無いので野外テントで寝て下さいね?私達はベッドで寝ますので」
カイリが俺たち四人を横目で見ながらそう言った。
意外と鬼だなお前。
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結局ベルと祐奈が女性なので家で寝る事となり、俺とアスタはテントで寝ることになった。
アスタは一応怪我人なんだから家に入れてやれよ。大体、ベルも祐奈も人一倍丈夫だろうに。
「良かったのか?外で」
「良いんですよ。俺は頑丈なのが取り柄なので!こんな傷、寝たら治りますよ!」
アスタはそう言ってニッと口角を上げた。人好きのする笑顔だ。
俺はそんな事より本当に寝たら治るのか気になったが、さっさと寝袋に入った。
何だかキャンプみたいでワクワクするな……。
こちらの世界に来てからはこういうアウトドアな感じは結構好きだ。昔はインドア派だったけどな。
アスタもゴソゴソと寝袋に潜り込む。
「おやすみ」
「おやすみっす」
…………。
数時間が経過した。
辺りは静寂に包まれていた。
テントの外からはカエルの鳴き声のような音が聞こえてくる。まるで田舎だな。
布団越しに自分の体へと地面の感触が伝わってくるのがわかる。これがアウトドアの醍醐味だな。ウン。
いやぁ……しかし……、寝れねえ。
全っ然寝れねえ。
なんで俺がこんな周辺の環境を実況しているのかというと単に滅茶苦茶暇だからだ。
眠気が襲ってこない。完全に意識が覚醒している。
修学旅行の夜みたいだ。
「なぁ、アスタ。起きてる?」
「起きてるっすよ」
レスポンスは非常に早かった。
「起きてんのかよ」
「身体中が痛くて眠れないんですよ」
アスタが恨みがましくそう言った。
「そりゃ悪かったな」
「いや、リュート様の所為じゃあないっすよ。ところで、リュート様はなんで起きてたんです?」
「いや、俺にもわからんけど……」
俺はぽりぽりと頰を掻きながら呟くように言った。
「そっすか」
アスタが短く話を締めた。
あ、バカ。締めやがったな。これでまた暇な時間がやってくるじゃねえか。
俺は少し唐突だったが、新しい話題を作って話し始めた。
「じ、じゃあ、恋バナでもするか」
「なんで上司と恋バナなんですか!」
アスタが半笑いで噴き出したように突っ込んでくる。
「俺は年下じゃねえか。上司とか言うなよ」
「将軍にとって魔王は絶対の上司です」
「まぁ、そう言わず。結婚とかしてないの?」
俺はアスタを無視して無理矢理話を再開させた。
「してませんよ」
「意外だな。ルシファーはしてるんだろ?」
「はい、してますね。あいつは嫁との結婚生活のために執務をボイコットしてましたからね」
「マジか」
結婚生活ガチ勢じゃねえか。俺も見習わないとな……。
「ルシファーは嫁にぞっこんでしたからね。それはそれは気持ち悪いくらいでした」
「ふんふん、それでそれで?」
俺はルシファーの恋バナに興味津々だった。あいつはカタブツなイメージがあったが、やはりやることやってるんだなぁ……。
てか、もうアスタの恋バナはどうでもよくなってきていた。
「で、数年したら子供も出来て、幸せに暮らしたんじゃないですか?」
「ほぉほぉ、それから?」
「いや、それで奥さんは亡くなって、今は独り身ですよ」
「突然の⁉︎何でだ!何があったんだ⁉︎」
「老衰ですよ。ルシファーの奥さんは普通に大往生でしたよ」
「へ?ルシファーの奥さんって……他種族なの?」
この世界の種族は基本的に長寿だ。
人間は大体80歳くらいまでは生きる。前世の世界と全然変わらないな。治療魔法があるからかな?
しかし、他種族はその比ではない。
魔族は平均はよく知らんが、アスタが言うには200歳とかの奴も現役の戦闘要員としてやっていくそうだ。
魔族は成長が早く、12〜15歳の間に大人の体つきへと成長する。そして、大体2、300歳くらいまで生きる。
事実、アスタは98歳だそうだ。
それを聞いた時の俺の表情はご想像にお任せするが、相当に驚いたとだけ言っておこう。
ちなみにベルの年齢は秘密らしい。
亜人族は種族にもよるが、概ね人間より少し長生きという程度で、そんなにぶっ飛んで長生きの種族ではない。
大体100〜150歳くらいが寿命といったところだ。
そして妖精族。
エルフやドワーフ達がそうだが、概ね人間の倍近くの寿命を持つ。まぁ、亜人族よりも少し長生きという感じだ。
そして、老化が遅い種族でもある。
小さい時はなかなか成長しないのだが、歳を取っても若々しい肉体を保つことができるのだ。
次に竜人族。
こいつらがぶっ飛んだ寿命を持つ種族として有名だ。
体の成長が早く、10歳程度で大人の体になる。しかし、そこから老け始めるのはざっと500年後ぐらいで、老衰で死亡しようとすれば800年以上は生きなければならないそうだ。
ちなみに竜種は種類にもよるが大体竜人族と変わらない。
しかし、古龍種は数千年を生きる個体もいるらしい。
そして、別枠だが、神族。
こいつらは原則、寿命では死なない。というか、死ねない。
天界から追放され、『堕天』した場合のみ、死ねるようになる。それでも竜人族以上に長寿だが。
神や天使は取り敢えず寿命など基本的には無いのだ。
例外として、神族同士の決闘では極稀に死者が出るらしい。
っと説明が長くなったな。話を戻すと、
「ええ、ルシファーの奥さんは人間っすよ」
ということだ。
「マジかよ……。ルシファーって割と波乱万丈な人生送ってんな……。天使だったけど堕天して人間と結婚して魔王軍で幹部やってんだからなぁ……」
俺はしみじみと呟いた。
「それで、リュート様は祐奈さんとどうなんです?」
いきなり何言ってんだこいつは。
「は?」
「いや、は?じゃ無いっすよ。何か浮いた話無いんすか?」
「ある訳ねえだろ」
俺の返事は素気無い。
当たり前だろ。俺はコレでも妻帯者だぞ。そんな事あってたまるか。
「何でですか?祐奈さん美人じゃ無いですか」
「いや、否定はしないけど……不倫はよくないだろ」
「不倫?え?」
「え?」
「え?」
俺たちはキョトンとした顔で顔を見合わせた。
「え、リュート様、結婚してたんですか⁉︎」
「言ってなかったっけ……そういや……」
「でも側室ぐらい作るのが王の甲斐性っすよ?」
「ああ……この世界も王族はそんな感じなのな……」
俺はなんか萎えてきた。そんなことする訳無いだろ。これでも俺は勤勉で尚且つ誠実な事で世界的に有名な日本人だぞ。
そんな感じで夜は更けていった。