vs滅龍魔導士
俺たちが開けた場所へと出ると何処からとも無く氷魔法の弾丸が飛んできた。
しかし、それは着弾する前に溶けて消えてしまった。
どうやらベルが局地的に熱を発生させて弾丸を溶かしたらしい。
「来たか……!」
周囲の森に多くの人の気配がする。
この様子じゃあ囲まれているっぽいな……。
「姿を見せたらどうだ?」
「ククッ!良いだろう……」
なんか素直に従ってくれた。
どう考えてもこのまま隠れながら戦ったほうが有利なのに……。バカなのか?
「久し振りだな……魔王よ……。随分とまぁ成長したものだな。あの時殺したと思っていたが……」
そう言いながら、暗がりから一人の壮年の男性が姿を現した。
背後には数人の魔導士が居る。
「え、誰?」
マジで分からん。知り合いだっけ?
「ぬおおい!何故忘れる⁉︎私だ!デラドだ!」
「…………?」
名前言われても分からん。誰だ。
「五年前にお前を殺した男だ!」
「…………?…………あっ」
「やっと思い出したか……」
あぁ思い出した思い出した。あの時のおっさんか。正直あの後の出来事があまりにも劇的過ぎて素で忘れてた。
だってフレイムと同化して不死身になった上、アクアが連れ去られたんだぞ?誰に殺されたかなんて些細な事忘れるだろ。それに、そもそも死んで無いし。
そう言えば俺はこの男に殺されたんだったなぁ……。まぁ、フレイムのおかげで死なずに済んだどころか死ななくなったんだが。
「って、お前、あの時はよくもやってくれたな……。俺は別に良いけどアクアを連れ去った事は死ぬ程後悔させてやる」
アクアが連れ去られた事が衝撃過ぎた上、奴隷にするとか言ってたからこのおっさんの事そのものはマジで忘れてた。
だが、アクアを連れ去った落とし前はきっちりつけさせてもらうぞ。
「フン……。こちらには一級魔導士が居るのだぞ?お前ごとき一瞬で消してくれるわ。今は古龍種も居ないようだしな」
「お前……今トカゲって言ったか?フレイムの事を悪く言うのは許さん」
俺は少しムカムカしてきたが、冷静に相手の人数を観察した。
8人か……。
ベルに大規模魔法で攻撃してもらって俺が各個撃破って感じで良いだろう。その後デラドには思い知らせてやる。ゆっくりとな。
俺は魔王らしく、少し邪悪な笑みを浮かべた。
忘れていたが、よく考えたらあいつにはかなり恨みがあるからな。
「ベル。大規模魔法で全員一気に攻撃してくれ。俺を巻き込んでも良い。何とか躱してみせる」
「了解。すぐに撃つ」
そう言ってベルは魔力を解放し始めた。早いな。
俺は魔法が発動する前に『魂喰』を発動し、魔力を充填。
「『獄炎渦流』」
ベルの魔法は俺たちのいる場所一体を紅く燃え上がらせた。
その炎はまるで生き物のように蠢き、すべてを燃やし尽くす。
「山火事になる前に終わらせたいところだな。『雷撃強化』!」
俺は雷魔法で身体をドーピングし、地面を蹴った。
一人の魔導士に急接近し、殴り飛ばし、ついでに杖を叩き折る。
杖は魔導士にとっては生命線だ。
杖が無くても魔法を発動する事は容易だが、魔法の補助能力の高い杖を日常的に使っている魔導士は杖を無くすと途端に脆くなる。
まぁ、基礎的な戦闘能力が向上するので杖を持つ事は戦闘において非常に有効なのだが、それは弱点にもなり得るという事だ。
ちなみに杖を使う魔導士は殆ど例外無く魔法遍重タイプだ。だから俺の仲間内でリーシャ以外に杖を使う奴はいない。
アクアも魔法遍重タイプだから杖を使えば良いのになぁ。
そんな訳で俺は手際良く魔導士達を無力化していく。
杖を持ってるヤツは杖を折る。持ってないヤツには悪いが腕を折る。
コレで大体無力化は可能だ。まぁ腕を切断しないだけマシだと思って諦めてくれ。
その時、
「『滅龍弾』!」
「ぐっ⁉︎」
敵の魔導士の放った魔法が俺にモロに着弾し、俺は吹っ飛ばされた。
何だ……この威力……!
俺の体は強化魔法で幾分か丈夫になっていた為、大事には至らなかったが、それにしてもなんて威力してやがる……。
しかも、再生が遅れている……。まさか……。
「俺の体は龍の血のお陰で滅龍魔法に滅法弱いって事か……?」
「フン……魔族風情が愚かにも龍の力に手を出したのが運の尽きだ!」
今戦闘が可能な敵はデラドと滅龍魔導士の二人だけ。
ベルとスイッチしたいところだが、難しいだろうな。敵もわざわざ有利対面を崩す事は無いだろう。
だが、俺はフレイムと違うところがある。
それは、攻撃に龍の力を殆ど使わないことだ。攻撃が効かない何て事は万に一つも起こらない。
だったら、俺が攻撃を食らわなければ良いだけの話だ!
「良いぜ、やってやるよ……」
「魔族風情が……。俺が世界の平和を守ってみせる!」
俺は世界の平和を害するような事してないんだけどなぁ……。
悪いのは親父だろうよ。
親父が犯罪者なら息子も犯罪者みたいな見方やめろよ。傷つくなぁ……。
「俺が何したってんだよ?」
「お前は勇者様を殺した!それだけでも万死に値する!」
「アレは正当防衛だと思うんだが……」
俺だって側近を全滅させられてるんだぞ?そりゃあアイツ達も人間からしたら悪い事してたんだから自業自得かも知れんが……そんなもん当時の俺には関係無いし。
大体、殺されそうになったんだから返り討ちにして何が悪い。
ま、戦争ってのはお互いの意見に齟齬が生まれるもんだ。これ以上は話が拗れるだけだな。
「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ‼︎魔王!お前を倒して俺は世界の平和を守る!」
「あっそ。じゃあ行くぞー」
これ以上話をしてもゲンナリするだけなので俺はさっさと突貫した。
「なっ⁉︎」
「話に夢中だったか?集中しろよ」
ドゴォォッ!
俺は強化された拳で敵の鳩尾を殴り飛ばした。
「がはあっ⁉︎」
「油断しすぎだ。俺は特撮の敵じゃないんだよ。口上を述べてる間に待ってやる義理は無えぞ」
「ぐぅぅぅ!馬鹿に……するなぁぁぁぁぁ‼︎『滅竜爆砕』!」
爆発魔法の滅竜バージョンか。
俺の周囲に魔法陣の様なものが展開され、徐々に光を帯びていく。
しかし、発動までに時間がかかり過ぎだな。
「『乱落雷』!」
俺はすぐに効果範囲内から飛び出し、雷魔法を敵の頭上に落とす。
「くっ!」
しかし、それを見切ったのかすぐさま身を躱した。
流石は滅竜魔導士殿だ。でもな、避けるとこまで読んでたぜ?
俺は背後から敵を殴りつける。
「ぐあっ!」
「捕まえたぜ」
「や、やめっ……」
俺が魔法を使う前に何が言いかけたようだが、俺はそれをガン無視して無慈悲に魔法を詠唱した。
「『電撃掌』」
バリバリバリッ!
「ぐあああぁぁぁぁっ!」
男の叫びが空へと響き渡る。
これは前世で言うスタンガンの様にゼロ距離で電撃を自分の手を介して相手に流し込む魔法だ。しかし、流した電圧は勿論スタンガンの比ではない。
普通の人間ならどう考えても失神で済まない怪我を負うが、コイツは丈夫そうだしまぁ大丈夫だろ。
万が一の事があっても即死するほどの電撃は流していない。治癒魔法で何とかなる範囲内だ。
「よし、一丁上がりっと……」
さて、ベルの方はどうなっただろうか?
水と炎じゃあベルの方が相性が悪いし、すぐに手を貸さないとな……。