脱出
俺は無人島内の生き物を狩っていた。
どうやら見た感じ食えそうな生き物が多いな。
猪のような生き物や、普通に食えそうな草など、割と食料は豊富に揃っているようだ。
無人島だが、そこそこの広さがあるので生態系が良い感じに潤っている。
俺たち二人の数日分の食料を手に入れるのは容易だった。
「さて、食料を確保したが、祐奈。水はどうだった?」
「見つかりませんでした……」
ですよねー。
そう都合よく川とか湧き水がある訳がない。この島はそこまで広くない。
しかし、無人島に遭難したら絶対に必要な要素である刃物と火を持っているのは本当に僥倖だった。魔法があれば何でもできるな。
まぁ、刃物なんてなくても強化魔法を使えば素手で大体のことできるんですけど。
こう考えると魔法って本当に便利だな。
あれ、そういえば……?
「水魔法使えばよくね?」
「あ……」
俺たちは完全に失念していた。
いくら練習していないと言っても初級水魔法くらい使える。
そして、初級水魔法さえあれば飲み水には困る事はない。
なぜこんな簡単なことを忘れていたのか。
「これでイカダ造りに励めますね!」
「そだなー」
俺は狩猟の時に切り出しておいたイカダの材料を並べた。
ちなみにこの木は手刀で切り倒したものだ。
できるだけ頑丈にしたいが……。生憎、俺にはそんなノウハウは無い。
まぁ、浮かべば良いかな……。魔法で何とかなるだろ。多分。
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「うーん、イマイチ強度が足りない……」
祐奈がうんうん唸りながら顎に手を当てる。
全くうまくいかない。
何度か作ってみたが、浮かぶだけで、俺たちが乗るとひっくり返ったりするのだ。
うまく浮かんでも、継ぎ目が甘いのか少し進んだだけでバラバラになってしまう。
こんなお粗末なイカダで海を渡るなんて不可能だ。
どうしたもんかね……。
俺は頭を抱えた。
「あ!そうだ!」
祐奈は何やら閃いたのか、頭の上に電球がついたかのような雰囲気で言い出した。
「勇者の力を使えば良いんですよ!『ブレイブフォース』!」
イカダに手を置いたかと思うと、突戦ブレイブフォースをイカダに使った。
何やってんだこいつ?
「武器であれば私はそれを勇者の剣にすることができます。まぁ、棒状か剣状のものに限られるんですけど。だから、丸太の一本一本全てを勇者の剣にしてしまえば良いんですよ!」
暴論だ。
しかし、有効だ。
取り敢えずこれで強度の問題は解決だな。
『ブレイブフォース』の恐ろしいところは木の枝すら強化してしまう点だ。
目の前にて、ただの木の枝が鉄パイプ以上の強度を持つという異常な事態が発生していた。
鉄パイプ以上の強度を得た木の枝をイカダにブッ刺して継ぎ目を補強。
これで空中分解する心配もなくなった。
あとは、転覆しないように力魔法を交互に使えば良い。
飛べば良いではないかと思うかもしれないが、浮遊魔法は小石や瓦礫を浮かせる程度の魔法なので、イカダや人を浮かせる事は難しい。
出来ない事はないが途中で息切れしてしまうと悲惨な未来が待っている。
1日でいけたらいいが、それ以上の日数がかかる場合、体への負担がデカイ。眠れないしな。
「よし、完成だ!」
「やったー!出航ーっ!」
俺たちは一通り準備を終えたので無人島から船を漕ぎ出した。
食料もたんまりとったし、飲み水は魔法で確保できる。
転覆しそうになっても力魔法を使えば良いし、船の強度はお墨付きだ。
さぁ、さっさと仲間の元へ帰るぞ!
『なぁなぁ、儂は?』
そういえば問題が一個残ってた……。
「デケエよ!爺さん!」
爺さんの棺桶は流石にデカ過ぎる。てか、重過ぎる。
これじゃあイカダに乗らんぞ。
「置いていくか」
『なんでじゃ⁉︎』
「じゃぁ……」
祐奈がおもむろに棺桶についていた髑髏の装飾をバキッ‼︎と取り外した。
『な、何するんじゃ⁉︎』
「コレに乗り移れません?」
「成る程、お前頭良いな」
それに入ってくれれば持ち運びも楽だし、イカダにも余裕で乗るしな。
というかポケットに入るだろ。でもそんな上手いこといくか?
「でも、入れるのか?」
『あ、入れた』
「入れたんかい!早えな!」
問題は一瞬で解決した。
「じゃあさっさと行こうぜ……」
「やたっ!行きましょう!」
『出航ーっ!』
爺さんがテンション上げながら叫んだ。
俺たちはそんなこんなで海へ出た。
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俺たちは楽観しながら船を漕ぎ続けた。
最初の方は物珍しかった波の形や、寄ってくるイルカに興味津々だったが、数日経つとどうでも良くなってきた。
爺さんも俺たちの陰鬱な雰囲気に辛くなってきたのか黙り込む事が増えてきた。
というか、暇すぎる。
まず狭いのでろくに運動が出来ない。だから、体がバキバキに鈍ってきた。
しかも日差しを遮るものがないので暑い。
屋根を付け忘れていたのは大きな落ち度だった。しかし、海へイカダで漕ぎ出した事なんて一度も無いのだ。ミスも仕方が無いだろう。
そして、帆を作らなかったので風を受けて楽する何てことも出来ない。旗は作ったのに。
俺たちは無言でひたすら漕ぎ続ける。
見るからにテンション下がってる祐奈は虚空をボンヤリした目で見つめながら時折ニヘラっと緩んだ笑みを見せる。
多分幻覚を見てるな。大方、空中にハンバーグが浮かんでる幻覚でも見てるんだろ。
かくいう俺もジリジリと照りつける日差しに辟易としながらぼーっと前方を見つめた。しかし、陸地は影も形も見当たらない。
「あー……、暑い……」
「死にそう……」
俺たちは首をカクカクさせながら不平不満をブチブチと垂れ流す。
ちなみに、首をカクカクさせているのは眠いからではなく怠いからである。
その時、ふと海面が暗くなった。
「リュートさん……。嫌な予感がするんですけど……」
「奇遇だな……、同感だ」
どう考えても危険が迫っているのだが、俺たちにはそれにいち早く対処するだけの気力が残っていなかった。
俺は何かあったら危ないので爺さんの髑髏をポケットに入れた。
そして、俺は力なく立ち上がりながら言った。
「取り敢えず、沈められたりしたらマズイ……。なんとかするぞ……」
「ひゃい……」
しかし、俺たちは動き出すのが遅すぎた。
ズズズズズズズ‼︎
海面が盛り上がり、黒い何かがイカダの真下から登場した。
まるで火山の噴火のように水柱がイカダの真下から噴出した。
「どうあぁぁぁ‼︎」
「きゃぁぁぁぁあ!」
イカダごと吹き飛びながら下を見やるとそこには大型のクジラのような魔獣が。
マッコウクジラのような頭でっかちフォルムの魔獣がグバァァと大口を開けて待っている。鋭い歯がギラリと鈍い光を放っている。
「か、海洋魔獣か!」
「ちょ、大口開けて待ってるんですけど!イヤァァァ‼︎」
祐奈の叫びも虚しく、俺たちは大口開けて待ってるクジラへ向かって落下していった。重力は無慈悲である。
「ちょ、やべえぞこれ!」
「くーっ!『ブレイブフォース』!うりゃぁぁぁぁ‼︎」
ズバァァァン‼︎
祐奈がクジラを切り裂いた。
イカダごと。
「おい!この馬鹿!何やってんだ!」
「ご、ごめんなさいーっ!」
相当気が動転していたのだろうか、剣をブンブン振り回しながら謝り倒す祐奈。危ないから腕を振るな!
バシャバシャと海水とクジラの血飛沫とイカダの木片が混ざり合ったシャワーが降り注ぐ。
俺たちはイカダを失い、海の真ん中を漂う羽目になった。
陸地は遠くの方に小さく見えるが、
どうすんだ……?コレ……。
その時、俺たちへ向かって何かが近づいてきていた。