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転生魔王の異世界征服  作者: 星川 佑太郎
六章 帰還編
83/220

遭難地点

そこは真っ白な空間だった。

俺はそこに一人で立っていた。


「ここは……?」

『リュート……』


何処かから声が響いた。


「ふ、フレイムか⁉︎」


その声の主は小さく光る玉のようなものだった。良くある不定形な形状の『魂』って感じのやつだ。

フワフワとこちらへと漂ってくる。


『我だ。リュートよ。お前にだけは最後に挨拶でもしておこうかと思ってな』

「フレイム……。あの……」

『実はな死者の国にも神がおるのだ。そいつは割と気のいい奴でな、我に少々の時間をくれたのだ』


自嘲気味にクックッと笑いながらフレイムは言った。


『さて、何から話したものか……。

いや、しかし、まさか我がこんな死に方を選ぶとは……昔は夢にも思っていなかったな……。だが、不思議と今はいい気分だ。

我はお前の命を守れて良かったと思っている。そんな顔をするな』


フレイムは泣きそうな顔をしているであろう俺を慰めるように言った。

涙が溢れてくる。


「……ゴメン……。俺がもっと強ければ……お前は死なずに済んだのに!」


俺はそう言わずにはいられなかった。

不恰好に涙を流しながら、嗚咽を漏らしながら、謝った。

しかし、フレイムの表情は分からなかったが、多分笑っていた。


『バカだなお前は。我にとってお前は、まだまだ尻の青いガキだ。まだお前は14だろう?いや、もうすぐ15か。だがな、我に比べればまだまだだ。』


フレイムは素の言葉遣いに戻って続けた。


『お前はその年で色んなモンをしょい込み過ぎや。もっと気楽でええねん。

俺にはもう心残りなんか何もあらへんわ。

まぁ、せやな……。ほんじゃあ、俺の育ての親にいつか会う事があったら……俺が謝っとったって言うといてくれ』


フレイムはそう言って、俺が無言で頷いたのを確認すると、何処かへ行こうとした。

俺は堪らず叫んだ。


「お前も!爺さんみたいに霊体になれないのか⁉︎」

『なれる』

「じゃあ、なればいいじゃねえか‼︎なんかに取り憑いて!何なら俺の体に取り憑いても良い‼︎」

『悪いけどな、そんな気ないわ』


フレイムは素っ気なく言った。


「何でだよ‼︎」

『もう、俺の役目は終わったんや。甘えんな。普通な、死んだ生き物は戻って来おへんねん』


俺は何も言えなかった。


『何、お前らの事は、上から見とる。もしかしたら下かもしれんけどな。まぁ、何しか見とるから、そんな下ばっか向くな』


フレイムは俺を元気づけるようにそう言った

俺はグシッと涙を拭って顔を上げた。


『それでは、さらばだ。リュート』

「……ハハッ……。締まらねえな」


突然厳格な言葉遣いに戻ったので、俺は少し可笑しくなってしまった。


『そう言うな。お前も早く行け。皆が待っておるぞ』

「ああ、じゃあな、フレイム。俺が死んだらまた会おう」

『フン……あと200年は会いたくないな』


そう言うと、フレイムはどこかへ行ってしまった。

多分もう、どうしても俺の手の届かないところへ行ってしまったのだろう。

俺はフレイムの消えた方向に背を向けて歩き出した。

魔族の寿命は何年なんだろうな。

そんな事は分からなかったが、俺はフレイムの分まで精一杯生きよう、そう思った。それが供養になるのなら。


---


「……さん……。……ートさん……!リュートさん!」


俺は祐奈にガクガクと揺さ振られて目を覚ました。

俺は飛び起きてキョロキョロと周囲を見渡したが、見覚えのない場所だ。


『おおい、いい加減に退けい!』


俺の真下から爺さんの声がした。

俺はびっくりしてそこから急いで飛びのいた。

俺は爺さんの棺桶の上で寝てたらしい。

爺さんはプリプリ怒りながら姿を現した。元気そうだ。


「ご、ごめんな。ところでアスタとベルは……?」

「実は……、転移の瞬間に手を離してしまったみたいで……。ご、ごめんなさい!」


祐奈は凄い勢いで頭を下げて謝った。

しかし、不味いぞ……。あの二人は怪我人だ。俺たちがいないのはかなりヤバイ状況だ……。


「取り敢えず、リーシャと連絡を取ろう。そもそもここはどこなんだ……?」


俺はリーシャとだけ音信魔法で通話が出来る。

音信魔法は電話番号みたいに魔力を一部交換する事で、遠くから魔力を捕捉し、遠方から音声と映像をお互いに送り合うことができるのだ。

アクアと通話が出来ないのは、基本的に殆ど一緒に居るので必要性を感じなかったのが理由だ。

実際、音信魔法の為の魔力交換は疲れる上時間がかかるから正直面倒臭かったのだ。

リーシャとはバラバラのクエストを受けることが多かったのでもしもの時のために交換しておいたのだ。


「リーシャ、俺だ。今祐奈と一緒に戻って来た。ちょっと現在地が分からんが、お前達は今どこにいるんだ?」

『リュ、リュート⁉︎あ、あ、あ、アクアちゃん‼︎リュートが!』


ドタドタとリーシャは画面からはけてしまった。

おい、必要なことを喋ってからどっか行けよ。


『リュート様!ご無事ですか⁉︎』


代わりに画面にルシファーが入り込んできた。相当俺たちのことを心配していたのかものすごい剣幕だ。

まぁ、当たり前か。半年以上もゲートの向こう側にいたんだからな……。


「ああ、無事だ。だが、再会を喜んでいる暇はない。ゲートの向こうで知り合った仲間と逸れてしまったんだ。あと、俺たちの現在地が分からんのだが」

『我々は現在亜人界のカイル村に身を寄せております。アクア様の昔の知り合いとの事でして』


アギレラ達か。それなら安心だ。


「分かった。俺の知り合いでもある。取り敢えず周辺を調べたら直ぐに向かう」

『それと、実はアクア様が……』

『ちょ、ルシファー!ダメ!』


バシッ!という音がしてルシファーがセリフを中断した。

リーシャがルシファーの頭を叩いたらしい。

何でだ?


『いたっ、す、すまん。しかし、リュート様には伝えておくべきでは……?』

『今言わなくてもいいの!』


何やらルシファーが言いかけていたが、何だったんだ?

まさか、アクアに何かあったのか⁉︎


「お、おい!アクアがどうしたんだ⁉︎」

『えーっと、その、じゃっ!』


ブツッ!


「あ、このクソアマ!切りやがった!」


俺は何回も音信(コール)してみたが、全く繋がらない。魔力を遮断してやがる。

クソっ……。懸案事項が一つ増えたじゃねーかよ……。

ため息をつきながら隣を見やると誰もいなかった。祐奈の奴はどこ行ったんだ?

まぁ、そのうち帰ってくるだろうと思い、少しの間ボンヤリしていたらダッシュで帰ってきた。


「リュートさん。ちょっと一周してきたんですが……ここ、小さい島です。全然人を見かけなかったし、無人島かも」


一周して来たのかよ。早過ぎるだろ。


「無人島か……。どうやって戻るんだ?小島ってことは結局どこの国なのか分かんねーし……」


俺は頭を抱えた。

やっとゲートから出れたと思ったのに、まだ帰れないのか……。

フレイムがいたら飛んで帰れたっていうのに……。

波の状態を見る限り、イカダは少し危険だな……。かなり波が荒い。

島の岸壁に波が当たって削れ落ち、ねずみ返しのようになっている。

とんがった岩が何本も海面から顔を出しており、その辺り一帯が『自分は断崖絶壁です』と主張しているかのようだ。


「そうだ!イカダで帰りましょう!」

「バカだろお前」


イカダで帰れそうだったら俺が先に提案しとるわ。


「何でですかー‼︎」

「波が荒い!だから危ない!以上!」

「大丈夫ですよ!最悪泳ぎますから!」

「強いのと泳げるのは関係ないだろうが!」


俺は祐奈の頭をチョップした。

祐奈が鼻息荒く主張するので俺もツッコミに少し力が入ってしまった。

すると、祐奈は目をキラーンと光らせながら言った。


「もしかして、リュートさん、泳げないんですかぁ?」

「なっ……お、泳げるし!……た、多分」


俺は狼狽えた。

だって、こっちの世界では一度も泳いだこと無いし。

そもそも前世でも学生時代以来一度も泳いで無い。最後に泳いだのは大学3回生の時だ。

かれこれ20年以上泳いで無い。マジで泳げないかもしれない。

対して祐奈はこちらの世界に来る前はJK(じょしこうせい)だったのだ。授業で水泳があったのだろう。

それに祐奈は元々運動は得意そうだしな。


「泳ぎましょう!」

「何で泳ぐんだよ!それならイカダの方がマシだ!」

「じゃあイカダにしましょう!」

「却下だ!」

「じゃあどうやって帰るんですか!」

「……………」

「ちょ、何も考えて無いんですか⁉︎」


いやいやいや違うよ?

お前のツッコミに忙しくて考えてなかっただけで、別に考えてない訳じゃないんだよ。


「ちょっと待て……。じゃあイカダは最終手段だ。それに、どの方向に行けば陸地があるのかもわからんし、食料をできるだけ確保してから行こう。

まずは、飲み水と食い物の確保だ。ここを集合地点にしよう。一時間後にまたここに集合だ。分かったか?」

「ラジャッ!」


言うが早いが祐奈は走り出した。流石のスピードだ。すぐに見えなくなってしまった。

全く、子供か。

俺も島の探索に向かわなくては……。

俺は少しゲンナリしながら歩き出した。

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