フレイムの覚悟
「あ……う……、フレイム……?」
俺は半壊した声帯を酷使し、しわがれた声をどうにか絞り出した。
『諦めるな‼︎絶対に‼︎』
その声の主は、俺の仲間にして俺に不死身の能力の源である龍の血を与えた張本人。ダークネスフレイムだった。
『お前がここで死んだら、アクアが悲しむ。そうちゃうんか⁉︎やから、諦めるな‼︎』
俺は少し笑いがこみ上げてきた。
必死でシリアスを装おうとしてまた混ざってる。
俺は少しずつ再生されてきた喉から声を出した。
「お前……混ざってるぞ……」
まだまだ魔力はある。
しかし、再生に時間がかかり過ぎる。これでは何度も体をぶっ壊されて再生に魔力を全部食われてしまう。
どうしろと言うんだ……。
『我が行く。魔力は頂くぞ』
「な、何言ってんだ……お前……死ぬ気か……⁉︎」
『お主よりマシに戦える。理由ならそれで十分であろう』
「な、や、やめろ!勝手な事を……ッ!く……」
時すでに遅し、フレイムは俺の身体から魔力の大半を奪い、俺の身体から出てきた。
微妙に残っているのは俺の再生用だろう。
まさかコイツ……、俺の魔力を食えばいつでも外に出られたのか……?
「んん……?古龍種?そんな奴飼ってたのか……」
『フン……我はリュートの身体から出て来るのに多大な魔力を消費してしまう。奴が満足に動けなくなってしまうからな、今までは我慢していたのだ……』
「ん、久々に羽伸ばせてよかったな」
エレボスは呑気な表情でそう言った。
フレイムも澄まし顔だ。
すると、フレイムは突然烈火のような形相になり言った。
『お前だけはぶち殺すぞ……。俺の命に代えてもなぁ……』
新しい混ざり方だ。
字面は普通なのだが、イントネーションが関西弁だ。
「んー、言っとくが、古龍種なんかに遅れをとるほど俺は甘くないぞ」
『我ら古の龍種の力、見せてくれよう』
そう言ってフレイムは息炎を放出した。
しかし、今更炎が効くような奴じゃない。
案の定、エレボスは体を高速で再生させながら炎をかき消した。
「ん……、時間稼ぎにもならない……。『暗黒滅却』」
エレボスは面倒臭そうに手を翳し、フレイムの片翼を消しとばした。
『グオオオオッ!』
フレイムは叫んだ。
しかし、叫びながらもフレイムはその鉤爪でエレボスを引き裂き、焼き尽くした。
しかし、
「んー、悪いけど、効かないんだよな。俺。ホント悪いな」
エレボスは本気で申し訳なさそうに言っている。
コイツはどう考えても勝てない相手に立ち向かい続けるフレイムを哀れんでいるのだ。
「ん……、まぁ、お前たちには悪いと思ってる。俺だってこんなことやりたくないんだよ……」
エレボスは髪をかきあげながら続けた。
「面倒だから」
『貴様……ッ!』
フレイムはいきり立って気炎を吐いた。
しかし、フレイムは既に満身創痍だ。
立ち上がることが覚束ない。体力は既に限界に達している。
『グルアアアッ!』
フレイムはがむしゃらに目の前を引き裂き、噛み、焼き尽くした。
「終わりだ……。『暗黒滅却』」
フレイムの片腕、腹部に大穴が開いた。
『グウウウゥゥゥ……!ハァ……ハァ……。リュート……お別れだ』
フレイムは満身創痍の体に鞭打って立ち上がり言った。
「な、に……、言ってるんだよ……?」
俺の問いには答えず、フレイムは自身の心臓部を残った方の腕で穿った。
ブチブチブチッ!
なんとフレイムは自分で自分自身の心臓を無理矢理に摘出したのだ。
「んん……、それは……」
『コレは、俺の心臓だ。こうなった以上俺の命はあと1分程度……。リュート……お前と知り合えてホンマに良かった。生きろよ……』
フレイムの心臓は膨大な魔力を放っている。
龍種の血液は生物を不死身にするほどの異常な魔力を持つ。
その血液の源である心臓が持つ魔力は筆舌に尽くしがたい。
それこそ、すべてを破壊するほどの驚異的な魔力が発現することは想像に難くない。
「な、何故……。そんな魔力を貯める時間がいつあったっていうんだ……」
『お前と戦ってる間ずっとや。お前が俺の羽とか腕とかをチマチマ攻撃してるうちにな』
「んん……、成る程……。やはり、一撃ですべてを消し去るべきだったか……。疲れるからってサボってたツケが回ってきたってことか……」
『そういう事やろな』
それだけ言うと、フレイムは心臓を喰らった。
すると、欠損していた翼や片腕が一瞬にして再生した。体の付いていた無数の傷も治っている。
『グゥオオオオオオ‼︎』
フレイムが雄叫びをあげた。
フレイムの体は少しずつ肥大化していく。
赤い鱗はドス黒く染まり、捲れ上がっていく。身体中の筋肉が膨張し、至る所の肉が裂け、血が噴き出す。
更に、裂けた箇所は順次恐ろしい速度で再生されていく。
『コレが……俺の最後の一撃‼︎消し飛べ……『崩龍咆哮』‼︎』
次の瞬間、フレイムの前方にある全てが消し飛んだ。