vsエレボス
「んんー、美しい仲間愛ってやつか。ローグが嫌いそうなやつだな」
「そうか、どうでも良いな」
「ん、そうだな。そんな事はどうでもいい」
俺たちは微動だにせずに対峙している。
「行くよ……」
「行くぞ……」
轟音を轟かせながら俺たちはぶつかり合った。
衝撃の余波で隣に控えていた巨大な異形種がグチャグチャに消し飛んだ。
アスタの『千重強化』でも追いつけなかった攻撃力と速度。これに対応するには俺の持つ身体強化能力を全て重ねがけするしかない。
「『二十強化』、『雷光強化』!」
全身に雷光を纏いながら俺はエレボスを殴り飛ばした。
エレボスの身体の耐久力は並の肉体レベルだ。俺の打撃で簡単に抉れるほどには脆い。
しかし、
「んん……効かないな……」
しかし、一瞬で再生する。
どんな致命傷でも一瞬で再生する上、痛みは無い。これがエレボスの強さだ。
更に、神として、地上の存在をはるかに凌駕する身体能力を持つ。
魔人ブ○かよ。
対して、俺の持つ再生能力は痛みを克服できていない上、時間がかかる。
体の一部程度ならすぐに回復可能だが、体が木っ端微塵になっていれば一週間はかかるだろう。しかも、再生には体力を消費してしまい、物凄く疲れるのだ。
だが、エレボスはそうではない。やつはそのレベルの損傷も一瞬で再生してしまうだろう。それに疲れている様子は無い。
「ん、早く終わらせたいんだけど」
一瞬で俺の背後に回ったエレボスは俺の背中を蹴った。
ドボオオッ!
あまりの速度のため、俺の体を貫通する。
「ぐうぁっ!……ちっくしょオォッ!」
俺は痛みに怯まず、エレボスの首を捻じ切った。
「んー、だから効かないって」
面倒臭そうに首を再生させながら言った。
更にエレボスの腕が俺の心臓部を破壊する。
だが、俺は心臓を握り潰されても脳を破壊されても体を木っ端微塵にされても死ぬ事は無い。
「悪いけどな……俺も効かねえよ!」
効いてるけどな。
だが、痛みなんぞ我慢すればいい。この程度……痛くもなんともねえよ!
俺の体は音を立てながら高速で再生する。
俺の再生した肉体が俺の体を貫通しているエレボスの足を締め上げる。
「ん、邪魔」
そう言うとエレボスは自身の足を切断した。
直ぐに足は再生し、元通りになる。
俺は体から無造作にエレボスの残った足を引っこ抜き、放り捨てた。
「泥仕合いだな……」
「んん……全くもってその通りだ」
勝負がつかないんじゃ無い。こいつが手を抜いているんだ。
俺はほとんど相手にされていない。限界まで身体を強化してもまだこいつの方が強い。
どうしようもない。
奥義を使うしかない。
正直言って不安が残るが、あの三つの奥義を完璧に扱う事ができれば攻守に魔力保持、全てにおいて優位を取れる。
「『魂喰』」
ズズズズズズズ……と、周囲から魔力を徴収する。
他の二つの奥義を使うには大量の魔力が必要となる。
そして、エレボスは俺の事をまだ甘く見ているはずだ。攻撃行動に出なければボーッと待っていてくれる可能性もある。
「ん、何してるんだから分からんけど、嫌な予感……」
エレボスの判断は決して早くはなかった。
しかし、時間としては遅いというわけでもなく。
魔力を貯めている最中の俺を蹴り飛ばした。
「くっ……!」
俺は蹴り飛ばされながらも魔力の吸収をやめない。完全に魔力がたまるまで絶対に中断はしない!
「ん、しつこいな……」
ドガガガガガッ!
俺な身体へ蹴り技の乱打が打ち込まれる。
俺の身体はいたるところが貫通したり、腕が千切れたり、凹んだりと散々な状況だった。
「かはぁっ!」
俺は地に倒れ伏しながら喀血した。
内臓にまで損傷が行ってしまったか……。再生が遅れ気味になってきた……。
まだだ……もう少し……もう少し……!
「んんー、しつこいな、もう終わりにしてやる」
そう言うと、エレボスの両足が怪しい黒い光を帯びた。
「んん……、消し飛ばす。『暗黒破砕』」
二発の蹴撃が俺を襲った。
その破壊力はローグの矢以上の威力がこもっており、俺の身体はなす術なく吹き飛んだ。
ガードした両腕は何と跡形もなく消し飛んでおり、腹には大穴が開いていた。
だが、魔力徴収はまだ続いている。
あれだけの攻撃にさらされながらも俺は溜め続けた。
「ふ、ふ……完……了……!」
溜まった。
あとは使うだけだ。
これだけバカみたいに溜まったら湯水の如く使っても何の問題もない。
俺は魔力を消費して身体の傷を一気に回復させた。自己治癒能力を強化したのだ。
「ここからは俺のターンだぜ……!」
俺は溜めた魔力に物を言わせて一気に身体を強化した。
「うおおおおおおおお‼︎」
それは今までに行ってきた強化術式の比ではない。アスタの強化すら超える強化。
魔力によって俺の体内の龍の血が活性化。更に強化に上乗せされる。
そして仕上げに雷魔法で再度体を強化する。
完成だ。
コレが完璧な『魂喰』によって完成した俺の最強タイム、名付けて『魔王降臨』。
制限時間はほぼ無いと言っても過言ではない。これでも負けるなら、もうどうあがいても勝てない。
「ん……、凶悪なフォルムだ」
「カッコイイだろ」
竜人族の竜化の様に、俺の身体は一部龍種のものに変化していた。
目は輝く様な金色に、背には翼と尾が、口には牙が、手には鉤爪が、肌には鱗が。
しかし、魔族らしく鱗は黒い光沢を放っている。
全身には雷魔法の雷光を纏い、気炎を吐く。
「お前をぶっ飛ばす」
俺は髪を逆立てながら言った。
「んん……、怒髪天を衝くってやつか……。それとも、追い詰められた鼠は怖いってやつかな……?」
「違うね。窮鼠猫を噛むってやつだ」
俺はそう言って、地面を強く踏みしめた。
「魔王が神を噛み殺す。覚悟しろ」