無敵の再生能力
「爺さん、悪い!奥義はまた今度教えてくれ!」
「すいません、ネルヴァ様!行って参りまっす!」
『む……、左様か。また来るんじゃぞー』
ベルや祐奈がいるからそこまで心配はしていないが、何かあってからでは遅い。
一刻も早く村に戻らないと!
「何で、煙なんか上がってるんすかね……。ベルが犯人なら笑い話で済むんすけど……」
「分かんねえけど、最悪の事態を想定して動くべきだ。そうだろ?」
「はい。ベルならあんなにも煙が上がる前に鎮火しますしね……。急ぎましょう!」
「おう!」
俺たちは村のみんなの無事を祈りながら走った。
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俺たちは村について愕然とした。
殆どの家屋が崩壊していたのだ。
「一体……何が……⁉︎」
「そんな……、ベルッ‼︎祐奈さんッ!どこっすか⁉︎返事して下さい!」
アスタの悲痛な声が響く。
「おい……あれ見ろよ……」
見つけた。
見つけてしまった。
異常な大きさの異形種に食われる村人の姿を。
「まさか……まさかっ……!」
アスタが血相変えて走り出した。
あの方角は教会だ。
俺は急いでアスタの後を追った。
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教会に着いた俺は地面に崩れ落ちるアスタを見てしまった。
色を失ったアスタの瞳の見つめる先には滅茶苦茶になった教会と、破壊された地下室への扉だった。
「嘘だ……嘘だ……!」
「何で……、祐奈とベルはどうしたんだよ……!」
俺たちは絶句して立ち尽くすしかなかった。
それほどには信じられない光景だった。
地下室の中は黒こげで何も残っていなかった。
正確にはそこには死体であったであろう黒い消し炭の様な何かが散乱していたが。
ズズゥン……
背後から地響きが聞こえた。
振り返るとそこには先程の異形種が。
アスタは目を剥きながら振り返り、知覚できないほどの速度で跳躍した。
「うおああああぁぁぁぁ‼︎」
アスタはその巨大な首に指を食い込ませ、力任せに捩じ切った。
青とも紫ともつかないグロテスクな色の血液が噴水のように溢れ出す。
異形種の骸の前で大量の血を浴びながらアスタは叫んだ。
「うわああああああああああああ‼︎」
また別の方向からも異形種が集まってくる。
この狭い村にこんなバカみたいにデカイ奴が何体いるって言うんだ……⁉︎
また一体、また一体と異形種は湧き出すように出現する。
アスタは異形種を憤怒の形相で睨みつける。
その時、一体の異形種の腹に大穴が開いた。
「ふぅ……はぁ……、た、助かった……!」
何と祐奈だった。小脇に意識を失ったベルを抱えている。
異形種の腹をぶち破って出てくるとは……一体何があったんだ?
「祐奈!無事だったのか!」
「な、何とか……。でも、ベルが……」
「べ、ベル……!生きてたっすか……、よかった……!」
アスタはベルを抱きしめる。
「しかしお前らドロドロのヌチャヌチャだな……体拭けよ」
俺は祐奈とベルに初級水魔法で冷水をぶっかけた。ベルを抱きしめていたアスタも巻き添えだ。
「ちょ、冷たっ!リュートさん!暖かくして下さいよ!」
「何で俺にもかけるんですか!」
「ベルにいつまでもすがりついてるから悪い。あと、俺は温度調節出来ないから」
アクアなら出来るんだけどなぁ。
俺は苦手なんだよ。
俺は二人が無事だったことで少し緊張の糸がほぐれていた。
しかし、多くの村人が死んだことには変わりない。
「でも一体何があったんすか……?」
「う……私にもよく分かんなくて……」
「う……、ア、スタ……?」
「ベル!」
ベルが目を覚ました。
少し意識が朦朧としているらしく、目の焦点が合っていない。
「異形種が……。すまない、アスタ……」
「何があったんだ?」
「いきなり近くに異形種が出てきて、二人を呼びに行くこともできなくて……」
慌てた様子で祐奈が言った。
力ない声でベルが続く。
「祐奈がいなければ……全滅していた。私一人ではどうにもならなかった……」
「いや、でも、ベルさんがいなかったら私も死んでたし、お互い様ですよ!」
話を聞く限りかなり壮絶な戦いになっていたらしい。
「村の人達は……皆んな死んじまったのか……?」
「ううん、私が別の場所に穴ほって埋めた。それでも何人かの人は……」
「え、埋めた⁉︎」
「あ、いや、隠したの!防空壕みたいに!」
「そ、そっか……なら良いけど……」
埋めたってサラッと言われたらやべえよ、怖えよ。
しかし、あれだけ大量にいるんだ……全滅させるのには時間がかかるぞ……。
その時、
『んー、まおー、ゆーしゃー、出てきておーくれー』
静かに炎が燃える村に間延びした声が響いた。
拡音魔法を使っているのかバカみたいにデカイ声だ。
前髪が長く目が半分隠れている。かろうじて見える目の周りには濃いクマが張っていた。
長く暑苦しい黒コートをはためかせながら巨大な異形種の上で寝転んでいる。
「誰だ!」
「んー、名乗っても良いのか……?まぁ、良いか。俺はエレボス。ローグの友人だ」
男はエレボスと名乗った。
しかし、それはどうでも良い。ローグの友達だと……?
「成る程。殺す」
俺はローグの名前を聞いた途端に視界が殺意で真っ赤に染まった。
「ん、凄い殺意だ……」
しかし、エレボスはどこ吹く風だ。
エレボスは巨大な異形種から、ふわりと降りてきた。
「んん……、あんまり働きたくなかったんだがなぁ……。仕方ないか」
エレボスは耳の裏をカリカリと掻きながらやれやれと首を振った。
「んー、お前達に恨みはないんが……まぁ、ローグの頼みだから断れないんだ。すまないな」
「別に良いぜ、今すぐお前はぶっ飛ばすからな」
その時、アスタが動いた。
「……シッ!」
音もなく振るわれた神速の拳はエレボスの体をいとも容易く真っ二つに分断した。
殺ったか⁉︎
「んー、別に痛くも何ともないが、いきなりは酷くないか?」
エレボスの真っ二つになった体は切断面がジェル状になったかと思うと、次の瞬間には跡形も無くくっついていた。
エレボスは相変わらずコートのポケットに手を突っ込んで余裕の表情だ。
「再生能力……⁉︎」
「ん、その通り。まぁ、俺のはお前のとは違って痛くも痒くもないし、一瞬で再生するけどな……」
そんな馬鹿な……。
どうやって勝てば良いんだそんなやつ……。
「だったら……、再生できないくらい粉々にしてやるっすよ!『千重強化』!」
アスタは最強の強化能力を使い、エレボスへと突っ込んだ。
見えない速度の拳がなんども繰り出され、エレボスの体は徐々に存在を失っていく。
「オラァァァァァァァ‼︎」
ボボボボボボボボッ‼︎
しかし、
「んー、無駄なんだが」
しかさ、エレボスは一瞬で再生を完了させた。来ている服すら再生している。それは一体どういう原理なんだ?
エレボスはポケットに手を突っ込んだまま、アスタを蹴り飛ばした。
ゴキィッ‼︎
「ぐうぁっ!」
馬鹿な!アスタはまだ身体を強化しているはず‼︎
なのに、あんなにダメージを受けてるなんて……!
「んん、不思議に思ってる……?別になんてことないさ。俺は一応神だからな……」
ローグの友達って聞いた時点で予想はしていたが……いよいよ絶望感が漂ってきたじゃねえか……。
「アスタ‼︎大丈夫かよ⁉︎」
「あっ……ぐ、はぁ……!」
俺はアスタを揺り起こした。
ダメだ……!脇腹の箇所の骨が完全に砕けてる……。呼吸すらままならない状況だ……!
アスタはとっさに腕で攻撃をガードしていたのだろう。腕が嫌な方向にひん曲がっている。
俺は決断した。
逃げるしかない、と。
俺は小さく言った。
「祐奈……。アスタとベルを連れて逃げろ」
「え……」
「俺がコイツと戦う」
「そ、そんな……。殺されますよ⁉︎分からないんですか⁉︎」
「殺されねえよ。俺は負けない。言っとくけど俺は死にたくないし負ける気なんてさらさらねえよ」
俺は強めの口調で言った。
ここを切り抜けるにしても動けないやつが二人もいたら足手まといだ。
「良いから行け!足手まといだ!」
悪いとは思ったが、こう言わなければこいつは動かないだろう。
「〜〜ッ!わ、分かりました……!でも、死なないでくださいよ!」
祐奈は二人を抱えて墓地の方向へ跳び去った。
あっちには爺さんがいるし、もしもの時は大丈夫だ。
あとは俺がやるしかない。
「んん……、終わったか?じゃあ、始めようか」
「ああ……」
負ける気なんてねえよ。俺には帰りを待ってくれてる奴がいるんだからな。
今度こそ勝つ……相手が神であろうとな……。
凄い魔人ブウみたい。どうやって終わらそうかな……