襲来
俺は毎日のように修行に明け暮れていた。
目下のところやることが全く無いのだ。
異形種大量発生の原因も分からず、かといってゲートから脱出する方法も分からない。
だから俺は、強くなるという昔からの目標のために日夜爺さんの墓地に通って修行だ。
『孫よ。お前筋は良いぞ。ここ数日で魔法の実力がメキメキと上がっておる。やはり、雷魔法は相性が良かったのかもしれんのぉ』
「そーなのか。ところで奥義はまだ教えてくれねーの?」
『ダメじゃ』
俺はさっさと奥義を教わりたいのだが、爺さんは渋って教えてくれないのだ。
どうやらちゃんと魔法をマスターするまではダメみたいだ。
爺さんの見てないところで少しずつ練習してはいるのだが、一向に出来るようにならないのだ。
それにもう一つの『魔力反射』に至っては見てすらいない。
何かコツでもあるのだろうか。
という訳で今日も地道に魔法の練習だ。
魔法を上達させるのはゲームの経験値に近いところがある。
とにかく数をこなせば自ずと上手くなっていくのだ。熟練度みたいな感じかな。
英単語を覚えるのに何回も紙に書くような作業だと思ってくれれば良いだろう。
ただひたすらに魔法を打ち続ける。それに意味があると信じて。
成果が出てるのかどうか自分でもよくわからないので意外とこの作業が苦痛なのだ。
そんな感じで数ヶ月の時間が経過した。
相変わらず定期的に異形種は大量発生して村に攻め込んでくる。
爺さんは奥義を教えてくれない。
修行はしているが強くなった実感が全く湧かない。
正直俺のモチベーションはだだ下がりだった。
よくこんな暇な場所で長いこと生活できてるなアスタ達は。
もう無理。暇。
ちなみに祐奈は毎日村の農作業を勇者の身体能力で手伝っているのでむしろ達成感に溢れている感じだ。俺も農作業したい。
俺はある日爺さんにブチ切れた。
「良い加減にしてくれ!俺は強くなってゲートから出て行きたいんだよ!」
『な、なんでそんなこと言うんじゃ!孫よ!爺ちゃん寂しいではないか!』
「聞いてねーよ!」
なんだこの爺さんは!早く孫離れしてくれ!
何ヶ月もの間一緒にいて分かったが、このジジイ、俺のこと好きすぎる。
この前異形種ととの戦闘で忙しく、1日墓地に行くことができない日があったのだ。
次の日、爺さんは棺桶の上で体育座りしてシクシク泣いていた。
正直、「ちょっと気持ち悪いな」なんてて思ってしまったのだが。
そんな訳で俺は毎日墓地に通っている。
「って、話を逸らすな!奥義教えろ!」
『えー……。じゃあリュートがどれ程強くなったか見ちゃる。ちょっと誰かおらんのか?』
戦ってくれるのか。よし、しゃあアスタを連れてこよう。
俺は急いで村に戻ってアスタを連れてきた。
「ちょ、嫌っすよ!またっすか⁉︎」
墓地に連れてきてからやっと悟ったのかアスタはまた嫌がりはじめた。
「頼むって!俺が奥義を習得する手助けだと思ってさ!な?」
『ほれほれ、早う身体を明け渡さんかい』
「ちょ、本当にすぐに返してくださいよ?」
『…………』
「返事して下さいよ‼︎」
ここまでテンプレである。
『よーし、アスタが煩いから勝負は一回だけじゃぞ?ええか?』
「ああ、分かった。爺さん、アンタをブチのめすくらいの勢いでやるぞ!」
『おぉ、そうかい。孫が儂をブチのめせる日が来るとええのぉ』
言っとくけどな。俺は無意味に一月も過ごしてたわけじゃねえぞ……‼︎
「オラァァッ!」
俺は強化なしで取り敢えず突っ込んだ。
ここ最近の一ヶ月間、強化魔法の使用は厳禁だったのだ。もちろん今回の戦闘でも強化魔法は禁止だ。
『素直じゃの〜』
呑気な口調で爺さんは俺の拳を軽くいなす。
「『魂喰』!アーンド、『雷撃強化』!」
『何ぃ⁉︎』
俺は身体を強化し、アスタ(inジジイ)の横っ面を思いっきり蹴り飛ばした。
そのままズザザザザッ!と地面に倒れこむ。
俺の『魂喰』は今まで使っていたものとは比べ物にならない程の量の魔力を徴収する。
これによって無茶な魔力運用が可能となるのだ。
爺さんの話では『魂喰』を完璧に使うことができれば他の二つも簡単に扱うことができるらしい。
だから俺は元々ある程度は使える『魂喰』を極めるように練習したのだ。
ちなみに、今使っている魔法は厳密には強化魔法では無い。雷魔法で筋肉を刺激して一時的にドーピングしているのだ。
強化魔法は禁止されたけど雷魔法は禁止された覚えはねぇからな!
『ちょ、孫ぉ‼︎それはズルいぞ‼︎強化は禁止ぃ‼︎』
「ズルくないですー!俺が禁止されたのは強化魔法であって雷魔法じゃねえからな!」
『屁理屈ばっか垂れよってからに……。もぅ爺ちゃん怒ったぞ!』
アスタが「爺ちゃん怒ったぞ」って言ってる図は何だかシュールだな。
まぁ、実際行っているのは爺さんなのだが、見た目と声がアスタだからなぁ……。
「だったら奥義見せろよ奥義!『乱落雷』!」
俺は爺さんを挑発しながら雷撃魔法を放った。
すると、爺さんは不敵に笑い、言った。
『良かろ、見せちゃる。『魔力反射』!痺れろ!孫ぉ!』
俺の放った高位の雷魔法が反射して俺の方へと向かってきた。しかもムキになってやがる。
俺はなんの防御もすることが出来ず、なすすべなく雷に打たれる。
一応身体の耐久力は雷撃強化によって上がっているし、雷魔法によっての身体能力向上なので雷撃に対する耐性もある程度は付いている。
しかし、
「アバババパバババババババ‼︎」
これはキツイ!どう考えても数倍の威力になって跳ね返っている!
こんなコミカルな叫び声を上げることになるとは……。
『どーじゃ、孫。これが最強の防御魔法『魔力反射』じゃ!』
黒こげになった孫に対してドヤ顔でそう言い放つジジイ。
このヤロ、絶対ぶっ飛ばす。
「へへへ、この程度で……ぶっ倒れる訳にはいかねえぜ!まだまだぁ!」
『ほぅ、その意気じゃ、孫お!』
ここで一月の練習の成果を目せてやるぜ!
「『絶対不侵圏』!」
『あれぇ、それ儂まだ教えてないはずなんじゃけど……』
爺さんが寂しげに言ったが、無視。
バリアを張っても中に入ってこなきゃ意味がない。しかし、『絶対不侵圏』は自分を中心に発動する。
つまり、自分が相手に突っ込めば自ずと相手をズタズタにすることが出来るって寸法よ!
『くっそぉ……でもの、孫。まだまだその術は未熟じゃ』
そう言って爺さんは俺に片手を翳した。
『いくぞぉ、『魂喰』!』
俺の展開していた『絶対不侵圏』が一瞬にして消え去った。
『絶対不侵圏』の維持には多大な魔力を消費するのだ。
それを補うのが『魂喰』なのだが、相手に魔力を奪われてしまっては途端に維持するのが困難になるというわけだ。
「ちょ、ズルいぞ爺さん!折角うまくいってたのに!」
『いやいや、上手いこと出来取ったぞ。でものぉ、相手に応じて臨機応変に動かにゃならん。別に奥義にこだわる必要はないんじゃぞ?』
成る程な。つまり、奥義以外も使えと言うことか。
「んじゃあこれでも喰らえ!『雷光槍撃」!」
槍とは名ばかりの、極太の雷のビームを打ち出した。
コレは、俺の使える中でもトップクラスに攻撃力の高い魔法だ。
『ほい、『魔力反射』っと』
くるりと向きを変えて俺に向かってビームが飛んできた。
「ちょ、ズルいぞ!まさか誘導だったのか!」
『馬鹿め!敵の策に溺れよって!』
「この外道ジジイ!ぐぅあああぁぁ!」
ビームは俺の体に深々と突き刺さり、俺はその場にぶっ倒れた。
「ちっくしょう……動けねえ……」
『ほほう、感電効果まであるのか……孫よ。お前器用じゃな。じゃが、今回はその器用さが仇になったのお。またお前の負けじゃ』
「ちっきしょ!もう一回だ!」
『ダメじゃ、アスタに怒られる』
爺さんはブルッと身震いするとアスタの体から出て行って棺桶の上に収まった。
『また、今度相手しちゃる』
「はぁ……また、教えて貰えねえのかよ……」
いつまでたっても前に進んでない気がするんだが……。
『別に教えてやらんとは言っとらんぞ、孫よ。お前も結構強くなっとるからのぉ。奥義教えちゃる』
「ほ、本当か‼︎」
『うん、爺ちゃん嘘つかない』
「嘘つけ!」
何だか教えてくれることになったらしい。やったぜ。
その時、アスタが村の方向を眺めながら血相変えて言った。
「リュート様……!アレ!」
「ん?」
アスタの指差す方を見ると。何と、村の方角からもうもうと煙が立ち込めていた。
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