三大奥義
『よし、孫よ。まず三大奥義のなんたるかを教えねばならんじゃろう……』
「『魂喰』と『絶対不侵圏』と『魔力反射』だったっけ?」
『あ、知っとるんか……』
直前にアスタに教えてもらったんだよなぁ。
アスタは少しバツが悪そうに目を逸らしている。爺さんはそれには気づかない。
『まぁ、良いわ。で、孫よ、儂から教えることはな、はっきり言って何もない』
のっけから役に立たない発言来たよ。どうしろと?
『あ、口頭ではって意味な。まぁ、実戦でやるしかないんじゃよ。覚えるにはな』
「成る程。でも爺さんは霊体なのにどうやって実戦なんてやるんだ?」
ほとんど地縛霊と何も変わらない存在なのに俺とどうやって戦う気なんだ?
実際問題俺たちはお互いに触れることすら出来ないのだ。
『そこでじゃ、アスタ。ちょいと儂に身体を貸せい』
「えぇ……」
爺さんがそう言うとアスタは露骨に嫌そうな顔をした。なんか嫌な思い出でもあるのだろうか。
『いいから貸せと言うとるじゃろ』
「はぁ……分かりましたよ……。でも、ちゃんと返して下さいよ?」
アスタは半ば諦めたように了承した。まぁ、会社でいうと社長よりも偉い立場の人って感じだし、逆らい辛いんだろうな……。どこの世界も世知辛い。
『…………』
「ちょ、返事して下さいよ!」
『わぁかった、わぁかった!返す!』
お茶目な爺さんだ。お茶目だと思いたい。それ、お茶目で済まして良いんだよな?
一悶着あった後、アスタは目を閉じて力を抜いて、その場に座り込んだ。
次に目を開けた時には全く別人になっていたのが俺にもすぐにわかった。
『よし、先ずは孫がどれくらい強いか試しとこうかの。ちょっくらかかってこいや。なに、儂も孫相手に本気を出すほど大人気なく無いから、心配せんでも良いぞ』
「そんな事より俺が手加減した方が良いんじゃ無いか?」
俺は老人に対する配慮のつもりで言ったのだが、爺さんは甲高い声で大笑いした。
『グハハハハハ‼︎孫よ、お前面白いな!弱いもんが強いもんに手加減して何になるんじゃ?』
「…………」
『あのな、孫よ。言っておくが儂は曲がりなりにも元魔王じゃぞ?いくら儂の孫とはいえ、ガキに負けるほど衰えてはおらんよ。本気でかかってこい。そのチンケなプライドをズタズタにしてやろう』
ほほう、ここまで言われたら俺だって引き下がれないぞ。絶対にぺしゃんこにしてやる。
「『二十強化』!」
俺は俺の出来る限り最大に身体を強化して爺さんに向かって突進した。
これでも自信はある。周囲から『ソウルイーター』で魔力を吸収して身体を強化した。普段よりも強くなっているはずだ。
『クハハ……素直じゃの。『絶対不侵圏』!』
爺さんの周囲に薄い灰色のバリアのようなものが発生した。
しかし、今から自分の運動エネルギーを殺すことなど出来ない。俺はそのバリアに向かって普通に突っ込んだ。
しかし、それはなんの抵抗力もなく、俺を素通りさせた。
次の瞬間、なんと俺の身体はズタズタに切り刻まれていた。
「ぐあああっ‼︎」
地面に倒れ伏した俺を見下ろしながら爺さんが解説し始める。
『コレが『絶対不侵圏』じゃ。この円の中に入ったものを問答無用で自動攻撃する、まぁ、自動防衛魔法じゃな。絶対的な防御能力は多大な攻撃力へと転化する』
強過ぎる。ってか、近づけねえじゃねえか‼︎
無敵か!
『デメリットは発動時間が数秒間というところじゃな。
ちなみに入ってきたものはそれが物質であろうと無かろうと破壊するから、仲間からの回復魔法すら破壊してしまうというのもデメリットかのぉ。まぁ、数秒間しか発動せんから関係無いか?』
爺さんは道化っぽく笑いながら言った。
この爺さん、全然本気じゃ無い。それどころかちょっと成長した孫と戯れてるって感じだ。
バカにしやがる。
「『魂喰』!」
俺は爺さんの魔力を喰って自身の力を底上げした。
バリアが発動したタイミングで魔力を喰ったらバリアが消えるんじゃ無いか?
これなら行ける!
『あのな、それ儂も使えるんじゃぞ?『魂喰』!』
完全に忘れてた。
爺さんのその声を聞いたと思ったら俺は意識を手放していた。
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「起きて下さい!リュート様!起きて下さいってば!」
耳元からアスタの声がして俺は目を覚ました。
「大丈夫っすか?」
「あ、ああ……何とか……」
『むぅ、すまんな。やり過ぎたわ』
俺はまだズキズキと痛む頭を押さえながら身体を起こした。
爺さんはアスタに身体を返したらしく、初めて会った時のように棺桶の上をフヨフヨと漂っている。
全く……手も足も出なかったぞ……。
魔王と俺との間にはこれほどの隔たりがあったってのか……。まさに井の中の蛙ってやつだな。
爺さんは棺桶の上からスイーッとこちらへやって来て言った。
『まずはな孫よ。その訳わからん身体に頼り過ぎじゃ』
訳わからん身体ってのは龍の血による不死身の身体の事か。
確かに無尽蔵に回復する体質にものを言わせて無理矢理ゴリ押しして物事を解決してきた節はあったが……。
『不死身のからだに頼りすぎて動きが雑になっておる。
それにな、孫よ。お前の戦い方は邪道も良いとこじゃ。強化魔法のみで戦闘を展開する魔王なんて歴代に一人もおらんかったぞ?』
「そうなのか?」
『そうじゃ。先ずは奥義とかの前に魔法をちゃんと覚えんとな。幸い『魂喰』は使えるようじゃから良かったが。それで供給されるほぼ無尽蔵の魔力が儂らの長所の一つじゃからの』
成る程な。魔法の練習をサボってたツケがここにきて回ってきたって事か……。
アクアと一緒に水魔法とか練習しとけば良かったな……。
「魔法には相性があるんだろ?俺には何が良いか分かるか?」
アクアは水魔法が、ベルは炎魔法が得意魔法だ。俺は強化魔法が得意だと思っていたのだが、真の強化魔法得意な奴は本当に尋常じゃなかったからな。
俺にも何かしら相性の良い魔法があるんじゃ無いか?
しかし、返ってきた答えは期待外れなものだった。
『知らん。儂は人の魔法の適性を見る事なんぞ出来んぞ』
「俺もできないっすねー。まぁ、俺は得意魔法が強化魔法っすから参考になんないと思うっすけど」
爺さんには期待してた分落差がでかかった。
出来ないのか……。俺は俺より強い奴を心の中で万能キャラと思い込んでしまう節があるからな……。そりゃ、なんでもできる奴なんかいねえよな。
「じゃあ爺さんは何が得意だったんだ?」
『雷魔法かの。儂はあれを主力魔法としておった』
「闇雲に手を出すよりも先人を踏襲した方が良いよな……。じゃあ、ちょっと雷魔法の練習してみるわ」
『ん。精進せい』
今後の方向性が決まったところで俺はアスタと共に墓地を後にしようとした。
もう夜も遅いしな。多分。
「じゃ、今日のところは帰るわ」
その時、後ろからでかい爺さんの声が響いた。ここは墓地だぞ。静かにしろ。
『孫ーっ!別に修行とかじゃなくても定期的に顔出すんじゃぞー!出来れば毎日ーっ!』
寂しがりやな爺さんだ。
仕方が無いので明日も来てやるか。って、なんで俺は師匠相手に上から目線なんだ?……まぁ良いか。
七十六話と七十七話は同時に投稿することになりそうです