異形の龍種
異形群を完全に討伐した俺たちはその場に座り込んで休んでいた。それほどには疲れているのだ。
「なーんか、この前から増えてないすか?異形群の数」
「増えてる」
アスタとベルが神妙な面持ちで話し合っていた。
「増えてるのか?」
「ええ、闇魔法で村を隠蔽しきれないくらいには増えてるっすよ」
この前から増えてる……?
まさか、っていうか確実に原因は俺たちじゃねえか。
多分あの時ゲートが発生したのは竜人界だけじゃ無い。他の地域でもゲートが発生したんだ。
でも、何で外界から転移してきたら異形群が増えるんだ?
「異形群って何なの?魔獣?それとも人?」
祐奈が剣を磨きながら言った。
剣のメンテまで出来るようになってるのか……元女子高生とは思えんな。
「分かりません……。多分、魔獣だと思うんすけど……。何せあの見た目ですし、ゲートの内部で独自の進化を遂げたとしか言いようが無いっすよ」
だとしたらなんで触手なんか生えてるんだ?必要だから生えるんだろ?進化って。
俺は不思議に思ったが口には出さなかった。話がこじれるだけだ。
ドクン!
その時、俺の体の内部から大きな鼓動が聞こえた。
ドクン!
何だ……?なんだか分からんが、多分やばい!
「皆!俺の体がなんかおかしい!俺から離れろ!」
体の奥底から何かが湧き上がってくるような感覚。一体……何が……?
ドクン!
突如、俺の体を何かが突き破った。
身体のいたるところに大穴が開き、血がドクドクと溢れ出る。
「ごおはぁっ!」
喀血し、俺はうずくまった。
何が起こったっていうんだ……?
「り、リュート様!どうしたんすか⁉︎」
「リュートさん!」
慌ててアスタと祐奈が俺に駆け寄ろうとする。
「や……め……ろ……!俺に……触るな……!」
俺の体の内部から血のように赤い何かが溢れ出てくる。しかし、これは血液じゃ無い。
何だ……?コレ……。
ギュルギュルギュル!と音を立てながら俺の体内から溢れ出た何かが急速にあるものを形作っていく。
その何かが俺の体から出きった様で、俺はその場に倒れこんだ。
俺の身体中に空いた穴は急速に塞がっていく。
傷そのものは大丈夫だが……一体あれは……?
「リュートさん!大丈夫ですか⁉︎」
「多分、大丈夫じゃ無い……」
俺の体から出てきた何かは龍のような形をとった。不定形で所々ユラユラと揺れているがそれは紛れもなく古龍種だった。
「あれは……古龍種……?」
しかし古龍種と言うには些か異形過ぎる。
身体が不定形に流動している上、身体のあるゆる箇所から触手のような物が相当な数生えており、ウネウネと動いている。
「一体……どういう事なんだ……⁉︎」
俺の身体から出て来たって事は……まさか、アレはフレイムなのか⁉︎
あんまりにも影薄すぎて気がつかなかったぞ!そういえばあいつ最近喋って無かったしなぁ……。
しかし、俺の身体は完璧に再生されている。いつも通りだ。
しかし、あの異形の龍はフレイムのはずだ。
既に俺の再生能力はフレイム依存じゃ無くなってたのか?だとしたら何時からだ?
『グルオオオオオオッ!』
身体の完成を意味するかのように、異形の龍が咆哮を轟かせた。
「アレは……異形群っすよ……!何でリュート様の体内から……⁉︎」
「その辺の事情は後で説明するとして、マズイぞ……アレは異形化して無くても相当強いんだ……。テンプレでいくなら、以前より強くなってるはずだ」
古龍種となら何度か戦った事がある。
だが、身体中から触手がうねうねしてて実態がつかめない流動した龍種は流石に初めてみる。
「取り敢えず、ぶっ殺す気でかかっていかないとこっちが殺られちまうぜ……!」
「良いっすねぇ……行きますよっ!」
「私も準備万端です!いつでも行けるよ!」
「蹴散らす」
さてと、オイタが過ぎるぜ?フレイム。良い加減に正気に戻るんだな……。
俺たち四人は異形龍と相対した。
さて、龍種狩りの始まりだ……!
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異形龍は大きく咆哮し、息炎を吐き出した。
デカイ!
昔見たフレイムの息炎に比べて数倍の大きさだ。
「ふっ、下がってて下さいっす!」
アスタが息炎の前に躍り出て、なんと両手で受け止めた。
「な、何やってんだ⁉︎」
「ふふふ、俺の硬さ、見くびらないで下さいよ……。俺は今も昔も……魔王軍で1番硬い男っすよ!」
そう言ってアスタは息炎をかき消した。
「援護する。突っ込め」
「あいよぉっ!」
ベルが背後から炎の大魔法を打ち込み、アスタは全身を強化し、フレイムに突っ込んだ。
「俺らも行くぞ!」
「はい!」
俺と祐奈も続く。
一気に決める!
その時、アスタが俺に向かって言った。
「龍種に『ソウルイーター』は効果が薄いっす!『オーラ』での援護を頼めるっすか⁉︎」
「え?」
俺は目を白黒させながら聞き返した。
「『オーラ』?『ソウルイーター』の事じゃなくて?」
「あれ?もしかして使えないんすか?」
「た、多分……」
「マジっすか⁉︎こ、困りましたね……」
アスタは本当に困った様子でガリガリと後頭部をかいている。戦闘中に余裕だな。
というか、『オーラ』って何だ?
「お喋りは後。早く倒す」
「りょ、了解っ!」
取り敢えず今は『オーラ』の事を気にしている場合じゃない。
しかし、どうやって倒すんだ?
さっきから何度か殴っているのだが、身体が流動していて物理攻撃の効果が薄く感じる……。
「しゃーなしっすよ……ちょっと危ないっすけど、『鋼化魔法』!」
アスタがフレイムに両腕を翳したと思ったら次の瞬間にはフレイムはカチカチに固まっていた。
身体が鋼に変化したのか!
しかし、動きを止めるのかと思いきや、フレイムは身体が鋼に変化しただけで元気に動き回って攻撃してくる。むしろさっきより強くなってる気がする。
「おいい!攻撃力上がってんじゃねーか⁉︎」
「はい、上がってます!『鋼化魔法』は支援魔法ですから!」
アスタはめっちゃいい笑顔でグッと親指立てながら言ってきた。
「笑顔で答えんな!どうする気なんだよ!」
「まぁまぁ……見てて下さいよ……」
「『爆炎流星群』」
ボソリとベルが魔法を唱えた。
空中に突如出現した無数の炎の流星がフレイムへと降り注ぐ。
流動している体よりも硬質な鋼の体の方が炎に弱い。だからアスタは『鋼化魔法』を使ったのか……。
測り知れない程の温度の流星が何発も体に命中し、フレイムの体は今やドロドロに溶けていた。
「止めっすよ!『千重強化』!」
せ、千⁉︎
強化しすぎだろ!
「おい、そんなに強化して大丈夫なのかよ⁉︎」
「一瞬なら問題ないっすよ……!一瞬、一瞬っ!おうるぅうぁあっ‼︎」
一瞬一瞬とブツブツ呟きながらフレイムに向かって拳を突き出した。
異常に強化された拳圧が炎魔法によって溶けた鋼の龍を消し飛ばす。
あれ……、やりすぎじゃね?
「おい、大丈夫か?フレイムの奴……」
『む……ここは、一体……』
俺が心配したと思ったら俺の体内からフレイムの声が聞こえてきた。
無事元に戻ったらしい。
あんなにフルボッコにされても無事って事は異形種になってた時のダメージは入ってないと考えたほうがいいだろう。
あれは一体何だったのか……。この世界は何かあるたびに謎が深まるばかりで何も解決しやしない。
「おぅ、大丈夫かよ?」
『全くもって大丈夫ではないわ……』
どこか疲れた様子でフレイムは嘆息した。
まぁ、お疲れさんって事で、ゆっくり休んでくれ。
アスタがその場にぶっ倒れながら独りごちた。
「いやぁ、疲れましたよ……千も強化するもんじゃないっすねぇ……」
あのな、普通出来ないから。
「ん?」
その時、祐奈が何かを見つけたように身を乗り出した。
「どうかしたのか?」
「いや、やっぱり見間違いかも……よく見えなかったし。うん、何でもない」
「そうか……そりゃ仕方ねえな」
俺は少し嫌な予感がしたのだが、よく見えなかったものについて言及しても仕方がないので黙っておいた。