事の真相
「リュート様」
突然俺たちの目の前にルシファーが現れた。
「うわおっ!び、びっくりしたぁ……お前、瞬間移動でも出来るのか?」
「いえ、『時間凍結』という技で時間を停止して来ました」
「チートかよ」
「勿論制約はあります。5秒〜10秒程度しか止められませんし」
「十分じゃね?」
薄々感づいていたが、ルシファーは相当なチートキャラだな……。
ここはシャガルの街のすぐ近くの村だ。
俺たちは全員である民家の中にいた。
ここら一帯は先程の戦いの余波で壊滅状態だから、人が殆どいない。
そこに、ルシファーが結界を張ってくれているのだ。話している間はローグも干渉できないとの事だ。
「それで、教えてくれるんだろ?」
「はい、しかし、まず何から話せばいいものか……」
「運命について知ってることを教えてくれ」
「分かりました」
そう言ってルシファーは居住まいを正した。
「運命とは、人が生を受けしときに決まる人生そのものです。
その運命を変えられるということはその人間の一生を変えるということ。その様な事が可能なのは神族の中でも神のみです。天使には不可能な所業です。
そして、運命を変えられた場合、どの様な不自然があろうと変わってしまった運命に向かって事象は進みます。
それは、強制的にです。普通、地上の存在にに抗うことなど出来ません」
成る程。
つまり、あの時のホームでの事故は祐奈が死ぬという運命に向かって事が進んでいたって事なのか……だからあの時、誰も動かなかった。
いや、正確には動けなかったんだ……。
「でも、何で俺だけ動けたんだ?俺たちに抗えるようなものじゃ無いんだろ?」
「はい、そこが不思議なところです。そればかりは元天使長である私にも与り知らぬところでございます」
天界の住人ですら知らない……いや、説明がつかないんだ。
大体、魂とかいう定義が曖昧な物の話をされても俺たちにはサッパリだしな。
「この世界に来てからも、ローグ様はあなた方の運命を変えてきたそうです。
リュート様にとって都合のいい事象はほぼ全てがローグ様の細工によって起こったと考えられます」
ってことは、今までに出会った人達はローグの細工によって全員が、偶然じゃなくて必然的に出会ったって事かよ……?
ジェイドやフェリア、アギレラ……いや、リーシャやジルですらそうなのかも知れない。
しかも、ローグが運命を変えた事によって出会ったから俺たちには偶然にしか見えないということだ。
「俺たち全員が運命を弄られていたって事なのか……?」
「いえ、それは無いでしょう。ローグ様が変えたのはリュート様と勇者の運命だけのはずです。
大方、『誰かに助けてもらう』という風に運命を変えた時、偶々出会ったのでしょう。
だから、あなた方の出会いは必然でもあり、偶然でもあったのです」
何だか複雑な気分だな……。
俺が誰かに出会う事は必然だったが、ジェイドやフェリアと出会った事は偶然だったって事か。
「じゃあ、俺たちが人間界に行こうとしたのも……?」
「人間界に行こうとした理由を思い出せますか?
これは推測ですが、かなりくだらない理由で旅立とうとしたはずです。その辺り、ローグ様は面倒臭がるお方ですから」
「確か、情報収集……だったかな……」
「やはりですか……」
ルシファーは苦い表情を作った。
情報収集とかいう理由で魔界から亜人界の方を迂回して人間界まで行こうとするなんて正気じゃあ無いな……。
それもこれも俺と祐奈を出会わせて殺し合いをさせるためだったって言うのかよ……。
「ローグ様は当初の目的を果たせなくなりました。もう、リュート様と勇者が争う理由は無いと考えているでしょう。しかし……」
そう言ってルシファーは祐奈を見やった。
そうだ、祐奈がこの世界に召喚された時の制約は多分『魔王の討伐』だ。
つまり、祐奈が俺を殺せば、元の世界に帰れるって訳だ。
「どうする?祐奈」
俺は意を決して祐奈に問いかけた。
祐奈が敵対すると言っても、この場で戦うことはしたくなかった。ただ単に祐奈の意見を聞きたかったのだ。
「リュートさんは……私の命の恩人です。あなたを殺すくらいなら、私は一生この世界で生きていきます」
祐奈は真剣な眼差しでそう言った。
「ありがとう、祐奈……」
俺と祐奈は握手を交わした。
何世代にも渡って殺し合ってきた、魔王と勇者が手を取り合った瞬間だった。
「それでお前は長い事なんで天界にいたんだ?」
俺は気を取り直して質問に戻った。
ここも割と気になるところだ。俺の親父の部下だったのなら俺たちと一緒に居なかったのは何でなんだ?
「私、魔王様が当時の勇者と相討ちなさった時に一緒にいた勇者の仲間に酷い痛手を受けまして……その弱っている時に私を恨んでいる熾天使達に天界へと幽閉されたのです」
「熾天使?何だそれ」
また分かりづらそうな単語が出てきたぞ。前世に聞いた事あるような……無いような……。
「まぁ、元同僚です」
「分かりやすっ」
想像以上に分かりやすかった。天使って仕事なの?
「で、何で熾天使達はお前を恨んでるんだ?」
「地上へと堕天した時にボコボコにしましたので。その後、リーダーのガブリエルが私を取り逃がした責任を問われたそうです」
「ガブリエルは死ぬほどお前を恨んだろうな……」
ガブリエルはそんなに悪く無いじゃんか……。
「でも、何で堕天したんだ?」
「……秘密です」
ルシファーは少し恥ずかしそうに頬を染めて言った。
俺はルシファーが堕天した理由がわかったような気がした。
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ローグはルシファーが消えてから、ブツブツと独り言を呟いていた。
「……あのままで僕が引き下がるとでも……?僕は舐められたままで居るのが我慢ならない性分なんだ……」
そう言ってローグは両手に黒い球体を集め始めた。
ソレは少しずつ大きくなっていく。
「こんな世界……もうどうでもいいや……壊しちゃえ」
ローグは両手の球体を頭上で重ね合わせ特大の球体を作り出した。
「『喰界門召喚』」
ローグの作り出した何かから分離した黒い小さな球体が世界中へと散らばり、その一つがシャガルのど真ん中へと落ちた。
噴水広場へと落下した球体は少しずつ大きくなり、そして周囲の全てを吸い込んでいく。
それはまるでブラックホールの様に。
数分経つと先程まで崩壊した街並みが広がっていたシャガルは忽然と姿を消した。
「ま、こんなもんかな……何年かしたらまた様子を見に来ようっと」
そう言ってローグはその場から消えた。
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俺たちが民家の中で話し込んでいる時、ジルが異変を感じた。
「おい……何だ……?ありゃあ……」
ジルの指差す方向を見ると黒い何かがこちらへと恐ろしいスピードで迫ってきていた。
それを見たルシファーは血相を変えて叫んだ。
「に、逃げてください!あ、アレは……ゲートです!」
「げ、ゲート⁉︎」
「私の結界でどうにかなる代物では有りません!吸い込まれたら帰ってこれる保証はどこにもありませんよ!早く!」
全員一目散に逃げ出した。
「一体、何故だ……⁉︎」
「多分、ローグ様でしょう。あの方は癇癪持ちですから」
「子供かよ!というかゲートを作り出したのって……」
「はい、ローグ様です……」
こんな緊迫した状況で人族と魔族の争いの発端を作った犯人が分かってもどうしようも無い。俺たちはひたすら走った。
しかし、逃げられる様な速度では無い。
もうすぐ後ろまで迫ってきている。
「ゲートは出来たてではそこまで大きくなりません!ある一定の大きさまで育つとそこで一旦成長を止め、その後は少しずつ肥大化していくのです」
「な、成る程!それは役に立つ情報だなぁ!で、どこまで逃げればいいんだ⁉︎」
俺は少しばかり皮肉ってみた。
「分かりません!とにかく走って下さい!」
「情報役に立ってねえ!」
その時、
「きゃあああ!」
「あああっ……!」
メイとアクアがゲートに吸い込まれかけていた。
「メイ!」
「アクア!」
祐奈と俺が急いで二人に手を伸ばす。
ダメだ……このままじゃ……。
俺はアクアを引っ張り、ルシファーに向かって放り投げた。
祐奈も同じ様にメイをジルに投げる。
しかし、俺たちはブラックホールの様な吸引力に引っ張られ片足をゲートに突っ込んでしまった。
「あ、嘘っ!」
「畜生!」
俺と祐奈は必死でもがいたが、出られるどころかどんどん吸い込まれていく。
ダメだ、一瞬後には完全に吸い込まれてしまう!
「……ルシファー!後のことは頼んだ!俺たちは二人で何とか脱出してみせる!俺たちのことは心配するな!」
俺は瞬時に出られないことを悟り、ルシファーに必要なことを伝えた。
「リュート……!リュート!」
叫びながらもアクアはこちらへ来ようとはしなかった。俺が助けた意味を理解してくれている。
全く、出来た嫁だ……。
「お姉ちゃん!お姉ちゃん!」
「ユーナぁ!」
メイとルーナが祐奈の元へと駆け寄ろうとする。
それをジルが抱きとめながら言った。
「馬鹿野郎!お前らも行く気か⁉︎彼奴らが何のためにお前らを助けたと思ってるんだ⁉︎」
「メイ、ルーナ。私のことは心配しないで!リュートさんと一緒に帰ってくるから!」
「俺たちなら心配するな!必ず帰ってくる!」
そして、俺と祐奈はゲートの中へと吸い込まれていった。
「リュート……!リュート!うああぁぁぁ……」
アクアが泣き崩れた。
「お、お姉ちゃん……」
「ユーナぁ……!ユーナぁ……!」
その場には、泣き声だけが響いていた。
ルシファーは万能キャラです。他の七大罪に比べても比較にならないくらい強いです。熾天使は七大罪よりは強いけどルシファーよりは弱いみたいな感じで考えてます。