一筋の光明
「ごふっ……!」
見えなかったぞ……。速すぎる……。
薄く粒子を撒き散らしながら光の槍は霧散した。そこから血がドボドボと流れ出てくる。
マズイな……完全に急所だ……。
神聖力は俺の再生を遅らせる事が出来るらしいが、完全に停止させることは出来ない。
ここは再生を待つしか無いな……こんな形で俺の身体の事をみんなにバラしたくはなかったが……。
「リュート!」
「おい、大丈夫か⁉︎」
「リュート……!大丈夫……⁉︎」
リーシャ、ジル、アクアが俺の元へと駆け寄る。
見た感じ大丈夫そうじゃ無いだろうに。
「全然大丈夫だよね〜?だって、リュートくん、不死身だもんね〜」
ローグが意地悪く笑いながら言った。
「不死身……?どういう事だよ?」
ジルが目を見張って言った。
ローグはそれを見てわざとらしく驚いてみせた。
「あれ〜?もしかして、仲間にも黙ってたの?リュートくんは仲間を信頼して無いのかなぁ?」
コイツ……。知ってやがる癖に……。
全く……良い性格してやがるぜ……。
「お前ら、俺から離れろ。巻きぞえ食うぞ……」
俺はヨロヨロと立ち上がり、3人を下がらせた。
どの道あいつの狙いは俺と祐奈の様だしな……。
「『十二神矢』」
ローグの放った光の矢が俺の身体へ深々と突き刺さる。
「ぐぅっ……!」
全く、何て威力だ……!
でもな……俺はお前なんかに殺られる気は毛頭無いぞ……!
「うおおおおおおお……!」
俺は少しずつ身体の強化レベルを上げていった。
十二重……十三重……十四重……まだまだ上がる……!
「『二十強化』!」
俺は異常なまでに強化された脚力で地面を蹴った。
瞬間移動と見紛うような速度でローグの背後へと迫り、首を薙ぐ様に右手を振り抜いた。
獲った!
「ざーんねーん」
ローグは一瞬の内に俺の背後に回っていた。
馬鹿な……コイツ、瞬間移動でも出来るのか……?
「今のは速かったよ……魔族にしちゃあすっごく速かった……でもね、神には届かない」
「んのやろっ!」
俺はすぐに体勢を立て直し、空を蹴った。
俺の脚力は空気を捉え、蹴る事を可能とする。そして、空気は俺に推進力を与える。
「『百神矢』」
次の瞬間俺は蜂の巣になっていた。
「がはあっ……!」
「加減はしてあげたよ〜?すぐに治ると思うよ。ふふふ……仲間に異常な速度で傷が治るところを公開だ!」
全く……悪趣味な神だ……。
俺の身体の傷は普通の魔族を軽く超越した速度で再生する。
それに、三年前に狼に齧られたせいで、俺の痛覚に対する耐性は異常に上がっている。
多分今体が感じている痛みは今まで生きてきた中で最大級に痛いんだろうけど、生憎俺の身体は痛みに耐えられる様に痛覚を鈍くしてくれたらしいな。
「ほ、ほんとに治ってやがる……」
ジルが目を見張って言った。
俺は自嘲気味に笑いながらも後ろを振り向けず、下を向いた。
そして俺はポツリと呟いた。
「すまん、言い出せなかったんだ……。こんなの皆が知ったらどう思うだろうかと思うと言い出せなかった……」
「馬鹿が」
そう言ってジルは『竜化』し、俺の頭をパシンと叩いた。
「お前が化物なら俺も化物だな。お仲間だ」
ジルは自分の鱗や角、翼、尻尾などを揺らしながらそう言った。
「リュート、見損なわないでよ。私達がそんなくらいでアンタを嫌うと思う?」
「リュートは……化物じゃないよ。化物なんかじゃ無い……」
リーシャとアクアも続く。
俺は3人の優しさに触れて、少し気が楽になった気がした。
「全く、仲間愛ってヤツ?反吐がでるねぇ……これだから、見ててイラつくんだよなぁ〜」
そう言ってローグはやれやれと首を振った。
その時、ローグは油断していた。
「獲った」
その時、祐奈が音もなくローグの背後へと移動していた。
一閃。
鋭い剣撃がローグの首を薙いだ。
しかし、ローグの身体があった場所は蜃気楼が発生したかの様にユラユラと揺れ、そしてローグの姿はまるで幻影のように消え去った。
「なっ……、そ、そんな……!」
「いやぁ、危ない危ない。さすがは勇者だね、祐奈ちゃん」
ローグは愛想よく笑いながらさっきと同じ場所に現れて言った。
よく見ると左手が少しだけだが、切れて血が出ていた。
そしてローグは左手をゆっくりと持ち上げながら、笑みを崩した。
「全く……神の首を切ろうとするなんて……畏れ多い事をしてくれたねぇ……この小娘がぁ‼︎ぶっ殺してやる‼︎」
言うが早いか、ローグは逆上して、周囲に幾千もの光の玉を集めていた。
マズイ……!
「死ねぇ‼︎『千神矢』ぉ‼︎」
「祐奈ぁっ!」
俺は直ぐに地面を蹴り、祐奈の前に躍り出た。祐奈の後ろには祐奈の仲間達も居るんだ。
俺なら耐えられる……。多分な……。
ズドドドドドドドドド‼︎
「ぐおあああっ!」
ズドドドドドドドドド‼︎
「うおああぁぁぁぁ‼︎」
俺の体に吸い込まれる様に幾つもの光の矢が突き刺さる。
大丈夫……大丈夫だ……。まだ俺は死なない……。
そして、光の矢の雨が止んだ。
「ぐっ……あ……」
俺は地面にどさりと倒れこんだ。
「ふふふ、大したもんだよ……ここまで身を挺して仲間を守るなんてね……。
あれ、祐奈ちゃんは仲間じゃ無かったっけ?」
動けない。再生には相当な時間が掛かるな……これは……。
圧倒的な力の差だ……。何回俺は負ければ気がすむんだ?
もう流石に生きる望みは無い……あの時の様なチートな力を持ったやつは居ないんだ。
俺は血で前がよく見えなくなっていたので目をゆっくりと閉じた。
耳もキンキン鳴っていて、たいして役に立たないし、このまま戦闘を続行することはほぼ不可能だ。
「それじゃ、トドメといこうか?」
それだけ言うとローグは左手に光を纏わせた。
「君の体を完全に消滅させるよ……『神裁』!」
容赦なく俺の身体へと振り下ろした。
いや、振り下ろそうとした。
ローグの腕は俺の身体へと到達する前に止められていた。
「その方を殺させはしませんよ」
その時、一人の男の声がした。
ローグは大袈裟に首を振りながら少し苛ついた様子で聞き返した。
「如何して邪魔するのかなぁ……?ルシフェル……!」
その男はローグの腕を掴んだ手を離さずに眉根を寄せた。
少し投稿が遅れました。朝起きてすぐやろうと思ってたんですが……