真実
「誰だ⁉︎」
その声の主は太陽光を後光のように受けながらこちらへと降りてきた。
声の主は小さな男の子だった。
見た感じ小学生の低学年って感じだ。
その男の子はブツブツと何やら呟いている。
「全く……物凄く苦労したのに、こんなオチで許されると思う?何年掛かったと思ってるの?絶対許さない……」
「何を言ってるんだ……?」
なんだかイヤな予感がする……。何なんだ?コイツは……?
「どういう事……?どうして神聖力を持ってるの⁉︎」
祐奈が驚愕の表情を浮かべた。
神聖力だと⁉︎
「神聖力は神の奇跡と呼ばれる力……。勇者以外は持てないはずよ!」
その時、目の前の男の子は不敵な笑みを浮かべた。
「逆にこうは考えないのかなぁ……?僕がその神の奇跡を体現した存在だってさ……」
「お前が、神……だと?」
「ご名答〜!」
そう言って男の子は嬉しそうに空中でくるくると回った。
無地気な様子を見ていると普通の男の子にも見えるが、そこはかとなく漂う何かが俺たちの身体を硬直させていた。
そもそも特に魔法も使ってない様子なのに、空中でくるくると回っていることもおかしい。
「僕の名前はローグ。人間界の神さ」
「で、人間界の神様が俺たちに何の用だよ?」
神だか何だか知らんが、取り敢えず話してみない事には始まらない。
それにこいつが敵かどうかもまだ分からない。滅茶苦茶敵っぽいけどな……。
「うーん、まぁ、鬱憤ばらしかな?僕、思い通りに事が運ばないとイライラする性質何だよねぇ」
「悪いけど、身に覚えがねえな」
「まぁ、当然だね。身に覚えがあったら僕がびっくりするよ。君達にとってはコレは只の八つ当たりみたいなもんだ」
状況が飲み込めん。一体こいつは何が言いたいんだ?
「さて、じゃあネタばらしタイムと行こうか!僕もこの時が待ち遠しかったよ〜」
「ネタばらしだと?一体全体何の話なんだ?」
「ん〜、すぐに分かるさ。朝比奈龍斗くん、佐藤祐奈さん」
こいつ、さっきの俺たちの会話を聞いてたのか……?
俺の前世の名前を知ってやがる……。
ローグは空中で寝転がって続けた。
「さて、どこから説明しようかなぁ……そうだねぇ、やっぱり初めからかなぁ?」
「初め……?」
「うん、駅のホームの話からした方が良いでしょ?」
「何……?お前、今何て言ったんだ……?」
俺は自分の耳がおかしくなったのかと思った。何故、この世界の住人であるはずのローグが駅のホームなんて言葉を知っているんだ⁉︎
「どういう事……?どうしてアンタがそんな事知ってるの⁉︎」
祐奈が取り乱した様子でそう問いかけた。
「まぁまぁ、落ち着いて。ちゃんと説明するよ」
そう言ってローグは空中で姿勢を正し、服についた汚れをパンパンとはたいた。
「下界に降りてきたら服が汚れていけないなぁ……お腹も空くし……」
ローグは少しずつ、俺たちの反応を楽しむように話し始めた。
「まず、お二人さん。二人をこの世界に読んだのは……僕だ」
「っ⁉︎」
「あの日の事を思い出してみて?何かおかしな点は無いかな?」
ローグはまるで教師が生徒を諭すように話し始める。
おかしな点……だと……?
あの日の事は今でも鮮明に覚えている……。おかしな点……おかしな点……?
「まぁ、遅いから答え言っちゃうけど、あれはありえないよね。だって、祐奈ちゃんが線路に落ちても誰も助けないんだから」
「あっ!」
「た、確かに……いや、でも、偶然だろう……?」
「まぁ、誰も助けないのは偶然かもね。でもさ、二人とも知ってると思うけど、駅には車両緊急停止ボタンがあるんだよ?何で誰も押さないの?」
「そう……いえば……」
俺は今までその違和感に全く気付きもしなかった。確かにおかしい。
俺以外に誰も助けに行かなかったし、誰も車両緊急停止ボタンを押さなかった。
それに駅員に言いに行けばどうにかなったかもしれないのに、誰もそうしようとしなかった……。
「あれねー、僕が細工したんだ。祐奈ちゃんが次の勇者として1番良い素質を持っていたから。
実は、もう2年ほど長生きする運命だったんだけど、2年くらい良いよねって思って運命捻じ曲げちゃったよ」
ローグはニヤニヤ笑いながら首を30度程傾け、てへぺろと舌を出してあざといポーズをした。
「運命を……?」
運命を捻じ曲げるってどいう事だ……? まさか、死なない運命を死ぬ運命を変えたのか?
コ、コイツ……!
「そ!でも、そしたら僕の捻じ曲げた運命に抗って一人の男が祐奈ちゃんを助けちゃったんだよ。それが、朝比奈龍斗くん、君だ」
そこで俺って訳か……。
あの時の事故は全部こいつの仕業だっただて訳かよ……。
俺の中で怒りがフツフツと湧き上がってきた。
「君が死んだ後、僕は君の魂を見て思ったよ!『この魂を転生させてみよう!』ってね!そして『この二人を殺し合わせたらどんなに面白いだろう!』ってね!
君の魂は僕が今まで見てきた中でも最も運命に抗う力を持っていたんだ。君をこっちの世界に呼べば絶対面白くなると思ったんだよ!」
ローグは興奮した様子でまくしたてた。
身振り手振りも交えて話す様子は、まるでオモチャを買ってもらった子供のようだ。
「で、祐奈ちゃんは面倒臭いから運命通り死んで貰おうと思ってたらこっちの世界の人族が一足先に勇者召喚しちゃうしさ〜。もう、本当に後1秒位で僕の物だったのに……。
ま、いろいろ誤算はあったけど、その後は概ね順調に事は進んでいたんだよ。
それに、どうやって殺し合わせるか悩んでたら龍斗くんが勝手に魔王に転生しちゃうしさぁ……。あの時はびっくりしたなぁ……。
ま、その点は僕の手間が省けてグッジョブだったけどね!」
ローグは溜息をつきながら続けた。
「ちゃんとこっちと向こうで時間軸もずらしてリュートくんが大きくなるまで祐奈ちゃんと出会わないようにしたし、大きくなったら祐奈ちゃんと出会うようにまた運命に細工もしたし、本当に苦労したんだよ?手放しで褒めて欲しいくらいだよ」
ローグはやれやれと首を振りながら長旅の思い出話をするように更に話し続ける。
「こっちの世界に来てからもいろいろやったよ〜?
前の勇者に魔王城の正確な場所を教えたのは僕だし、君があの時勇者に勝てたのも、ジェイドと出会って旅をしたのも、古龍種があっさり仲間になったのも、リーシャと出会ったのも、アクアが三年で見つかったのも全部僕のお陰なんだよ?
君たちがふわふわした理由で魔界を旅立ったのは僕の所為だし、君達の旅の成功の裏には全部僕が居たんだよ」
そんな……バカな……。俺たちの旅はこいつに操られていたって事かよ……?そんなバカな話があるか……。
大体、勇者を呼んだのがコイツって……じゃあ家族が死んだのはコイツの所為って事かよ……!
俺はどうすれば良いのかわからなかった。
こんな訳のわからん能力を持っている存在が俺の人生を弄んでいた……だと?一発殴ったぐらいじゃ気が済まないぞ……。八つ裂きにしてやる……!
俺は一体なんなんだ?俺は双六の駒のように扱われていたって事か……?
俺たちはこいつの掌の上で転がされてたって事かよ……。
ローグは思案顔で言った。
「まぁ、誤算あったけどね……。
三年前のあの時は、本気で君は死んじゃうと思ったよ。あの時は君自身が運命を切り開いたんだよ!凄いよね〜。
フォローする訳じゃないけど、君は僕が何もしなくても上手くやったと思うよ?」
なんのフォローにもなってない上に余計に殺意が湧いてきた。
この際、勝てる勝てないじゃなくて取り敢えず顔面が原型をとどめないくらいの一撃をぶち込んでやる。
で、その後に考えうる限りの残虐な手段で滅茶苦茶にしてやる……。
「それでさぁ、苦労の末にやっと二人を殺し合わせたと思ったらすぐに戦うの止めちゃうんだよ?キミは最初から戦う気が無いしさぁ……。
そりゃあ……殺したくもなるよねぇ⁉︎」
その時、ローグの目が妖しく光ったかと思うと、次の瞬間には光の槍が俺の体を貫いていた。
今回はかなり前から書きたかった事を一気にかけてかなりスッキリしました