和解
「やめて!ユーナ!」
「お姉ちゃん!」
その時、白い髪の幼女が俺の前で両手を広げて立ちはだかった。
その子はさっき俺にぶつかってきたエルフの女の子だった。
その子のすぐ後ろには赤い髪の獣人族の女の子もいる。
「ルーナ、どうして⁉︎そいつは魔王なのよ!」
さっきの女の子、勇者の仲間だったのか……。
ユーナと呼ばれた少女は瓦礫に掛けた魔法を解除せずにルーナと言い合いをしている。
取り敢えず、助かったって事で良いのか……?
俺は全身を蜂の巣にされても多分死なないが、流勇者の神聖力を纏った瓦礫で滅多打ちにされたらどうなるか分かったもんじゃない。
「この人は悪い人じゃ無いよ!さっき私に親切にしてくれたもん!」
「お姉ちゃん、ルーナの話を聞いてあげて!殺すのは良くないって言ったでしょ⁉︎」
二人の知らない女の子が俺を庇っている。
まぁ、確かに親切にしたな。あの時親切にしといてよかった……。リンゴ拾っただけなんだがな……。
今『情けは人の為ならず』って言葉を身体で体験したぞ。
しかし、今はユーナが攻撃を止めてくれている。話をするなら今がチャンスだ。
「おい、いいから俺の話を聞け!」
「うるさい魔王!私はあんたをぶった斬って家に帰る!」
「は?」
ユーナのその言葉に俺は驚いた。
一体どういう事だ?
「どういう意味だよ……それ。何で俺を斬ったら家に帰れるんだ……?」
「私はね……この世界の人間じゃないのよ……。どう、驚いたでしょう?」
「何っ⁉︎」
ジル達が驚愕の声を上げた。
まぁ、俺は全然驚いて無いけどな。知ってるし。
しかし、混ぜっかえすのも悪いし、黙っておこう。
「私はこの世界に召喚されて勇者になった。
魔王を倒せば元の世界に帰れるって言われて……私は家に帰るために必死にこの世界を生き抜いた!全てはアンタを倒すために!」
「お姉ちゃん……」
この子は元の世界に戻るために死に物狂いでこの世界を生きてきたのか……。
魔王を倒せば帰れる……。
俺はこの世界で14年も生きているのだ。一応召喚魔法の何たるかも知っている。
召喚魔法で召喚する時に、誓約してから召喚するのだ。
この子の場合、魔王の討伐を条件に召喚されたんだろう。
この子はその制約に縛られている……。
「……そっか……。君も苦労してたんだな……」
ユーナは目を見開いた。魔王に同情されるとは思って無かったんだろうな。
ブチ切れた時と同じ目をしている。
俺はユーナがキレる前に少しずつ話し始めた。
「俺はさ、昔、自分の命と引き換えにある女の子を助けたんだ。俺は別にその事を後悔していない。
で、次に目を覚ましたら全く知らない場所にいた。それでも頑張って生きていたら、昔助けた女の子が俺に殺意を向けて来るんだ……そんな奴の気持ち、君に分かるか?」
ユーナはゆっくりと剣を下ろした。
「それって……」
「俺は、君が日本人だって事を知ってるし、君が電車に轢かれかけた事があるのも知ってる」
「何で……それを……」
「俺はあの時死んで、転生した。君は俺の顔を覚えてないかもしれないけど……俺は君の事をまだ覚えてる」
「もしかして……いや、でも、そんな事……あり得ない……」
そう言いながらも、ユーナの目からは一筋の涙が零れた。
「本当に……あの人なの……?」
「多分な。気になるならもっと何か質問してみろ。あの日の事なら昨日の事のように思い出せる。あんまり思い出したくないのもあるけどな」
ミンチになった時のことなんてあまり思い出したくないな……。
あの時の痛みも覚えている。
狼に食われるよりはマシだっただろうけどな。
少なくともあの時の痛みは一瞬だった。
ユーナは地面に崩れ落ちて両手で顔を覆って泣き始めた。
「ごめんなさい……ごめんなさい……!私のせいで……私を助けたから……あなたが……」
俺は何だか居た堪れ無い気分になって、ユーナの肩をポンポンと叩いた。
こうしなければこの子は自責の念で押し潰されてしまいそうだった。
「気にして無いなんて言ったら嘘になる。でも俺は後悔してないよ。それに、この世界に来て良かったとも思ってる」
俺はユーナの背中を優しく撫でた。
あの時からあまり変わっていない。
見た目はまだ女子高生の様だ。今の俺よりは年上のはずなのに、無性に自分の子供の様な気がした。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
「分かった分かった。もう謝らなくていいから。俺はリュート・エステリオ。前世の名前は朝比奈龍斗だ」
「佐藤祐奈です……。龍斗さん、本当にありがとうございました……」
「気にすんなよ」
俺は祐奈に笑いかけた。
ふぅ、ひとまず一件落着かな……。
「なぁ〜んだ、やめちゃうの?つまんないなぁ〜」
その時、上空から声がした。
フレイムの存在を忘れてました。その内喋らせます