邂逅
---勇者side---
祐奈は竜人界の東端の街、シャガルへと到着した。
ここは竜人界と亜人界の界境に最も近い街である。
この街は肉料理ばかりだったので、ルーナの食事の確保が難しかったが、その問題も何とか解決した。
メイは明日にでも界境を越えて亜人界へと向かうつもりだったのだが、祐奈とルーナが強硬に反対した為、少しの間休憩だ。
祐奈は疲れ切っていたし、メイやルーナも疲れている事だろうから長めに休息を取りたいところだったが、責任感の強いメイは流石にそれは許さなかった。
祐奈が少し粘った結果、ここで三日間過ごし、亜人界へと出発するということになった。
「ユーナ!私、街の果物屋さんに行ってくる!さっき覗いたんだけど、以外と種類多かったんだ!」
「そうなんだ。じゃあいってらっしゃい……」
祐奈は気の無い声で答えた。
この街に入ったあたりから何だか気分がすぐれないのだ。
何か良く無いものがいるような気がしてならない。
しかし、具体的に何がやばいのか祐奈自身にも良く分からなかったので、ルーナとメイには何も言わなかったのだ。
メイは買い出しに行っているのだが、やはり付き添うべきだっただろうか……。
祐奈はそんなことを考えながら目的もなく街を眺めていた。
ぼんやりと窓の外を眺めているとルーナが嬉しそうにはしゃぎながら街を走っていた。見た目相応の年に見える仕草だが、れっきとした成人である。
祐奈は杞憂であって欲しいと思いながら宿の簡素なベッドに寝転がった。
その次の瞬間、強い魔力を感じた祐奈はベッドからガバッと飛び起きた。
---魔王side---
俺たちが結婚してから数ヶ月が過ぎた。
特に大きなイベントも無く、夫婦生活は円満だ。
今日はジルの屋敷に夕食に招待されているのだ。
ジルは俺たちを週に一回誘うと言っていたが、本当にそうするとはあまり思っていなかった。
まぁ、皆で飯を食うのは楽しいからな。ありがたくご馳走になりに行く。
そんな訳で毎週一回はジルの家で夕食をご馳走になっているのだ。
今日はアクアとリーシャは何やらショッピングに行くとか何とか言って朝早くから出かけてしまったのだ。
夕飯の時間にジルの屋敷で落ち合うことになっている。
というかこの街って女の子がショッピングするような施設あるのか?
数ヶ月間住んでいるが、食い物(主に肉)の店しか無い印象なんだが。
まぁ、そんな訳で俺はかなり暇だった。
俺は当てもなくぼんやりと街を彷徨い歩いた。
そうして、街の露店を眺めていると何だか久しぶりにサソリ肉が食べたくなってきた。
「でもなぁ……流石にサソリを狩ってる時間はねえよなぁ……」
俺はサソリ肉は諦める事にしてジルの屋敷へと向かう事にした。
暇だしジルと模擬戦でもやるかな。
そう思い、俺はクルリと方向転換してジルの屋敷へと向かって歩き始めた。
と、その時。
「きゃっ!」
「おっと」
見たところ10歳くらいの女の子とが俺にぶつかってきた。
髪と肌は白く、耳が長い。純粋なエルフだな。
俺は何ともなかったが、この体格差だ。その女の子は転んでしまった。
更に、転んだ拍子に抱えていた袋から幾つか果物がコロコロと転がってきた。
「悪いな。怪我は無いか?」
俺は転がってきた果物を全部拾って、女の子に手を差し伸べながら言った。
女の子は俺の手を掴んで立ち上がる。
「うん、大丈夫!ぶつかってゴメンなさい」
「何、気にするな。俺もよそ見してたしな」
俺は威圧感を与えないように意識して優しく微笑みながら言った。
ここ数年で俺の顔立ちは大人っぽくなると同時に少しずつ強面になってきているのだ。
「拾ってくれてありがとう!これあげる!お詫び!」
しかし、目の前の女の子は眩しい笑みを俺に向けながら、リンゴみたいな果物を差し出した。
まさかそれ『リンソ』って名前じゃ無いだろうな。
「悪いな。ありがたく貰っとく」
俺は少し微笑みながらありがたくそれを受け取った。
「じゃあね、お兄さん!またどこかで会えたらいいね!」
「ああ、そうだな。達者でな」
それだけ言うと、女の子は走り去っていった。意外と走るの速いな。
明るい女の子だったなぁ……。天真爛漫な幼女って、初めて見るタイプだな。
手に持っている果物籠を見る限りお使いかなんかだろうな。いい子だ。
その子が遠くの方へと走り去ったのを確認して、俺は再度、ジルの屋敷へと向かう足を速めた。
ゾクッ!
その時、突然俺の背筋に悪寒が走った。
何だ……?
次の瞬間ゴオッ!という音と共に何かが上から降ってきた。
鎧を着ているので分かりにくいが、多分女の子だ。
降ってきただけならラブコメの主人公のように受け止める努力をするところだが、剣を振りかぶりながら降ってきた場合、話は別だ。
「うおあっ!」
ドゴオオッ!
俺は突然の攻撃に叫びながら回避した。
間一髪で回避できたが、地面をえぐるこの威力……まともに食らってたら大怪我間違いなしだぞ……。
周囲の人々は悲鳴を上げながら逃げ惑い始める。
襲撃者がもう一度攻撃行動に移る前に避難が完了してくれればいいが……。
俺は土煙に紛れ込んでいる襲撃者の姿を捉えた。
「嘘……だろ……?」
俺は驚愕の声を上げた。
その少女は、この世界にいるはずの無い人間だったからだ。
「あんた……魔王ね……?」
目の前で俺に向かって明確な殺意を抱き、剣を突きつけているその少女は……俺が死んだあの日に、あのプラットホームで助けたはずの少女だった。
ちょっと展開早かったかも知れません