俺と結婚してくれますか?
その日の夜
俺は眠れなかった。
アクアに再会して少し興奮していたからだろうか。完全に覚醒状態でベッドに寝転がっていることも出来ず、部屋の中をうろついていた。
何だか悶々とする。
今日はリーシャもアクアも別の部屋で寝ているので、一人で部屋を使っているのだ。
しかし、いかんせん一人で寝るのは久しぶりすぎて暇な時に話し相手が居ないのは寂しく感じてしまう。
そんな時、おもむろにドアがガチャッと開いた。
「リュート……、起きてる?」
声の主はアクアだった。
「ああ、起きてる。眠れなくてさ……」
「私も……。少し話してもいい……?」
どうやらアクアも眠れなかったらしい。全く気があうな。
「ああ、良いよ。まぁ、座れよ」
俺に促されるままにアクアはベッドのそばの椅子に座った。
俺たちは緊張を隠すように他愛の無い話をした。自分の好きな食べ物の話や、好きな場所の話、三年間で嬉しかった出来事。そんな話だ。
「リュート、三年前の約束……覚えてる?」
一通りの会話を終えて、アクアはおもむろにそう切り出してきた。
勿論何の事を言っているのかすぐに分かったし、良く覚えていた。
ここは惚けるべきではないと分かっていたが、俺は無性に知らないふりをしたくなった。恥ずかしかったからかもしれない。
「お、覚えてる」
俺は声をうわずらせながら答えた。
アクアの顔を直視出来なくなって俺は顔を俯かせた。
「良かった……」
アクアは安堵した様に胸を撫で下ろして言った。その時に胸がポヨンと揺れた。てか、随分と巨乳に育ったなお前。
「俺が覚えてないわけ無いだろ?」
「うん、」
「「…………」」
お互いに無言。何を話せば良いのか全くわからない、この謎の距離感。
こんなにアクアとコミュニケーションをとるのって難しかったか?
昔はもっと気軽に話せていたというのに。
見た目も昔の面影を多く残している。
身体は大人になってるし顔もかなり成長して大人びているが、それでも雰囲気やら顔立ちは大して変わっていない。
なのに何故こんなに上手く話せないんだ?
「「あの」」
俺たちは同時に口を開いた。
「あ……、アクアからどうぞ」
「リュートが先で良いよ……」
何だこれは。ネタか?
ここで引き伸ばしても気まずい沈黙しか待っていない。
俺はアクアのお言葉に甘えて話を切り出した。
「俺……13になっても気持ちが変わらなかったらって、言ったよな。気持ちは、その、変わったか……?」
俺は昨日からアクアの様子を見ていて、アクアの気持ちが変わっていないという確信があった。俺は鈍感系主人公と違ってそういうところには鋭いのだ。
何故なら昔、女の子に手を握られて「コイツ、俺のこと好きなんじゃね?」とか思って酷い失敗をしたことがあるからだ。俺はその出来事を反省し、無意味に女心に聡くなったのだ。無意味に。
まぁ、そういう理由から俺はアクアの気持ちは変わっていないとは思っていた。しかし、それでも不安ではあった。
ジルのことが好きだと言ったら俺は素直に身を引くつもりだったが、俺は苦労の末にやっと触れ合える距離にいるアクアを手放す事はしたくなかった。
矛盾した感情が俺の中でグルグルと渦を巻く。
「変わってないよ」
アクアは微笑みながらそう言った。
「そ、そっか……」
俺は安堵の声を漏らした。
「ハァ〜、良かったぁ〜」
俺は何だか力が抜けてベットに倒れこんだ。
正直、拒絶される事すら考えていたのだ。
「私、ジルと会っても……リュートの事を忘れられなかった」
嬉しい事を言ってくれるな。
だがアクアが俺を忘れられなかったのは、俺たちの別れが劇的すぎたからなのでは無いか?
距離を置いていたが、それは物理的な距離だ。俺たちの精神的な距離は実は全く離れてなかったんじゃ無いか?
いや、もう考えるのは止そう。
良いじゃないか、アクアが俺に依存してても。ずっと一緒に居ればいいのだから。
俺はアクアに向き直って言った。
「アクア……いや、アクアさん」
「……はい」
「俺と結婚してくれますか?」
「……私で良ければ……喜んで」
アクアは微笑みながらそう言った。かすかに目元が濡れているのがわかった。
俺はその時、気の利いたものを何も持っていないことに気づいた。
結婚指輪とか渡すべきだよな……。
取り敢えずアクアを抱きしめて誤魔化しておいた。その辺は明日にでも買いに行こう。
サブタイ決めがここ最近で1番難航しました