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転生魔王の異世界征服  作者: 星川 佑太郎
四章 竜人界編
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張り合い


俺はジルに提供してもらった部屋でアクアと二人きりになって、この三年間のことを話した。

ジルに飼われるまでのこと、ジルに飼われてからのこと。全て聞いた……と思う。

俺も大体のことは話した。しかし、自分の身体のことは言い出しにくくて、少しの間隠しておくことにした。

ジルの屋敷はとても広く、部屋なんて有り余っているらしい。

金持ちってやつはなんでこんなに何でもかんでも沢山作るんだ?必要無いだろ。


俺はアクアと会うのがあまりに久しぶり過ぎて接し方を忘れてしまっているようで、終始ドギマギしていた。


「あー、俺、ちょっと外に出てくるわ」

「ん、分かった……行ってらっしゃい」


あまりに居づらくて外に出て深呼吸する事にした。

俺は音を立てないようにドアを閉めてさっさと外に出ようとした。

その時、廊下の曲がり角から声がした。


「全て聞いたか?」


ジルだった。


「ん?まぁな」


なんだかジルはバツが悪そうな顔をしていた。


「お前には感謝してるよ。見たところアクアの健康状態も良さそうだし、大事にしてくれたんだろ?」

「呑気だな、お前は」


そう言ってジルは苦笑した。


アクアは三年前にジルに乱暴されかけたことはリュートに黙っていたのだった。


(すまないな、アクア……)


「それで、アクアとはどういう関係なんだ?」


俺は迷わずに答えた。


「家族だ」

「兄弟だったのか?」


ジルは驚いた様子で聞き返した。そりゃあ俺とアクアは似てないしな。


「いいや、血は繋がってないさ。でも俺たちは血以外で繋がってる」


なんだか小っ恥ずかしいことを言ってしまったが、ここで引いたらもっと恥ずかしいぞ。


「それで、どうするつもりなんだ?」


ジルは探るような目つきで更に言った。


「勿論、アクアは連れてくよ。だからジル、アクアを解放してくれ」

「悪いが、それは出来ない相談だ」


あっさりと解放してくれると思っていた訳では無いが、やはり俺は少し落胆した。

しかし、俺の覚悟は決まっていた。


「そうか……いや、そう言うと思っていたさ。じゃあ、俺が今からどうするか分かるか?」

「ああ、わかるさ」


「『九重強化(ナインブースト)』!」

「竜化!」


俺たちは同時に強力な強化術式を使用した。

次の瞬間、常人の目には捉えられないようなスピードでジルの爪が俺の眼前に迫ってきていた。

俺は強化された右腕てジルの腕を掴んで顔から数cmのところで止めた。


「………フッ、降参だ。アクアは解放しよう」

「すまないな」


俺はそう言ってジルの腕から手を離した。

ジルの腕が力なくダラリと垂れ下がった。

そして、ジルは自嘲気味に笑って言った。


「謝るなよ。あのままやっても俺は勝てなかっただろう。今の一撃は俺の渾身の一撃だったんだぞ?アレで一撃で決めるつもりだった」

「さっきのは割とやばかったぞ?お前が古龍種(ドラゴン)を倒せたのも頷ける」


あの一撃は昔の俺なら瞬殺されていただろう。今まで戦ったやつの中で1番早かった。

俺は向き合ってジルの実力を図った上で、強化魔法を最大まで上げたのだ。


「やめてくれ、余計惨めになるだけだ」


そう言ってジルは力なく笑った。


「二人とも……何してるの?」


音が部屋にまで聞こえてたらしく、アクアがこちらへやって来た。

ジルが意を決した様に言った。


「アクア、お前を解放することになった。これでお前は俺の奴隷じゃ無くなった訳だ。良かったな」


ジルは早口にまくし立てた。イライラしている様にも見える。

ジルはイラついている自分に更にイラついていた。

ジルは無理したように笑顔を作り、


「じゃあな」


そう言ってジルはアクアの奴隷紋を消し去った。

ジルは少し顔を赤くしながら続けた。


「俺は、多分お前のことが好きだった。自分でもよく分かってなかったけどな」

「私は、知ってたよ……?」

「知ってたのかよ!じゃあ、お前は俺じゃあダメだったって訳か?」

「……うん。そう」

「全く、遠慮ってもんが無いのかねぇ?」


ジルは少し笑いながらアクアに手を差し出した。


「俺たちはもう奴隷と主人じゃない。只の魔族と竜人族だ」

「ん……」


アクアは短く答えると、ジルと握手を交わした。


「じゃあ、俺はちょっと外に出てくるわ」


俺は立ち上がってジルとアクアに背を向けた。

当初の目的がなんだったのか全く思い出せなかったが、取り敢えず適当に屋敷をぶらついたら部屋に戻ろうと思っていた。


「リュート!ちょっと待て!」

「なんだ、まだ何かあるのか?」


俺は苦笑しながら振り返った。なんか終わったみたいな雰囲気だったのに。


「お前、エステリオって名乗ったよな?」


そう言えばフルネームで名乗ったっけ。

まあ、俺が魔王だって言っても信じないと思ったしな。


「ああ、それがどうかしたのか?」


俺はことも無げに言った。


「お前、魔王の血族なのか?」

「俺が魔王だって言ったら信じるか?」


俺は少し意地悪く言った。

しかし、ジルは爽やかにこう言い放った。


「信じるさ」

「あっそ……、どうなんだろうな?」


俺は何故かは分からないが少し浮かれながら再度ジルに背を向け、歩き始めた。

すると、俺の隣にはアクアが歩いていた。

俺は思わずアクアの肩を抱いた。


「リュート、私、どこにもいかないよ?」

「分かってる。どこにも行かせない」


俺はそのままアクアをグッと引き寄せて言った。


---


その日の夕食の席にて。

普段は奴隷であるアクアはジルと同じテーブルで食事を摂ることは無いが、今は奴隷ではなく客人という扱いなのでアクアもテーブルについている。


「何だか妙な気分だな……俺の前にアクアが座って飯食ってるとは……」


ジルがそう呟いた。


「おいひい……」


アクアはジルの話を全く聞いてない様子で食べ物を頬張っている。


「コイツ、三年前からあんま変わってないな……」


俺は嘆息しながらフォークでステーキを突き刺して口に入れた。


キンッ!


鋭い金属音と共にフォークの先端がポッキリと折れてしまった。

いつもの癖で噛む瞬間に歯と顎を強化して噛み付いてしまい、フォークを噛み切ってしまったのだ。


「あ、すまんすまん。いつもの癖で……」

「おい!それは一体どういう癖なんだ⁉︎」

「リュート!人とご飯食べる時に強化魔法を使っちゃダメでしょ!」


リーシャがまるで母親の様に説教を始める。


「だぁかぁらぁ、悪かったって!」

「リュート、凄いね……フォーク噛みちぎるなんて……」


アクアが感嘆した様子で俺が口から吐き出したフォークの先端と俺の持ってる持ち手の部分を見比べる。


「それくらい俺にも出来る!」


それを見たジルは、そう言うが早いかフォークをバギッと噛み砕いた。

何やってんだこいつ。本当に俺より年上なのか?

でも、よく考えたら俺今年で41だな。


「ジル様!おやめ下さい!」


ジルの近くに控えていたメガネのメイドがすかさずツッコむ。


「す、すまん……」

「全く、ジルはガキだなぁ」

「お前が言うな!」


こんなに騒がしい夕食は初めての経験だった。

何だかこの二人小学生の男子見たいですね

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