普通じゃ無い魔族
どれくらいの時間がたっただろうか。一瞬にも永遠にも感じた。
ジルが目を開けると目の前には一人の男が立っていた。
「大丈夫か?」
目の前の男はそう、振り返らずに言った。
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「間一髪間に合ったか……」
俺は無表情を保っていたが内心ではヒヤヒヤしていた。
古龍種に襲われている人を見つけ、強化魔法を更にかけて文字通り飛んで来たのだ。
後は俺がコイツを倒すだけだ。
「アンタ、魔族か?アンタ一人じゃ古龍種は倒せない!滅龍士ならまだしも、普通の魔族じゃあ絶対に勝てない!死にたくなければアンタだけでも逃げろ!」
後ろの竜人族が言った。
近くに転がっている古龍種の死体を見るに、怪我さえしてなければ強いんだろうな。
「うるせえ怪我人。お前は黙ってろ」
でも、正直今は邪魔な足手まといだ。
生憎だが、俺は『普通の』魔族じゃあ、無い。魔王ってのもあるが、それも込みで俺は全くもって『普通』じゃ無い。
何故なら俺は古龍種と同化して龍の力を取り込んでいるのだから。
不死身の能力は副産物に過ぎない。
「『七重強化』」
俺の体は昔では絶対に到達できなかった領域にまで達していた。
昔は『三重強化』で音を上げていたが、今ではまだまだいける。
普通の人間なら死に至るような強化だ。
俺の身体は強化に耐えられず、破壊と再生を何度も繰り返す。その度に俺の身体は痛みに苛まれ続けた。
いつしか、俺の体は少しづつだが、着実にそして異常に強靭になっていった。
俺は身体強化魔法を異常なレベルでかけることが出来る身体になっていたのだ。
『魔族風情が‼︎我ら古龍種にかなうと思うな!』
そう言って古龍種は息炎を吐き出した。
ゴオオッ!
俺は強化された肉体の性能を遺憾なく発揮し、息炎を掻き消した。
「言っとくけどな……俺の方が強いぞ……!」
俺は地面を強く踏みしめた。
「『九重強化』!」
更に強化を上乗せする。
俺は古龍種の腹部に強烈な一撃を叩き込む。
「おらぁぁぁ‼︎」
『グルオアアッ!』
俺の一撃はいともたやすく古龍種の鱗を破壊し、大きなダメージを与えた。
今の俺は身体強化魔法だけでなく、龍種の力も使えるのだ。
古龍種の鱗を破壊できるのは龍種の力か、滅龍魔法だけだ。
そして俺はフレイムと同化したかとにより、龍種の力を手に入れている。
『な、何故だ!何故、只の魔族如きに……』
「言っとくけどな、俺は『只の』魔族じゃ無い」
俺は動けなくなった古龍種の心臓部に手を当てた。
「さよならだ」
カッ!
俺は掌に龍の力を込めて、躊躇無くエネルギーを前方に放出し、古龍種を消し飛ばした。
「ふぅ、大丈夫だったか……あ……?」
そう言って俺が振り向いた時、青い髪の女性が俺に抱きついてきた。
「リュート!」
一瞬、俺は一体何が起こったのか分からなかった。
「リュート……リュート……!リュート!」
「あ……ア、アクア……?」
俺は必死に声を絞り出した。
青い髪の女性は、なんとアクアだったのだ。
アクアが泣きながら俺にすがりついている。
俺は目を疑った。
もう2度と会えないのではないか?そう思い、半分諦めてしまっていた。
俺はゆっくりとアクアの背に手を回し、抱きしめた。
「アクア!」
俺はアクアを強く、強く抱きしめた。
やっと会えた……やっと会えた……。
もう死んでいるのかとも思った……生きててよかった……。
まるで、夢みたいだ。
俺は両腕にギュッと力を込めた。もう2度とこの手から離さないと決めていた。
「く、苦しい……」
「す、すまん!」
どうやら抱きしめ過ぎたらしい。
俺の腕力は3年前と比べて飛躍的に上昇しているのだ。テンションに任せて強く抱きしめ過ぎた。反省。
アクアは俺の背に手を回して言った。
「ずっと……こうしたかった……」
「ああ……」
俺たちは夢中で再会の喜びをかみしめた。
「ま、待て!まだあと一頭どこかに古龍種がいるんだ!まだ危険は去っていない!」
その時、先程の竜人族の男が切羽詰まった様子で言った。
「え、古龍種って4頭もいるのか⁉︎」
俺がキョトンとしながら聞き返すとなんか重い空気が流れてしまった。
「えっ」
「えっ?」
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「ご、ゴホン!あー、アンタ、アクアと知り合いだったのか……。
まぁ、積もる話もあるだろうし、俺もアンタに礼がしたい。ウチの屋敷に来ないか?茶でも出そう」
アクアに治療してもらった竜人族が立ち上がり、俺に言った。
「俺の名はジル・ドラグーン。アンタには感謝しているよ。あのままじゃあ俺たちは死んでいただろう」
「俺はリュート・エステリオだ。まぁ、気にするな。打算で助けたわけじゃ無い」
アクアがいると分かっていたら速攻で飛んで来てたんだがな。
俺はここに来る前に一頭目を倒してから来ていたのだ。
その事を伝えるとジルが滅茶苦茶驚いていた。
そうこうしているうちにジルの屋敷についた。
「って、ここって……」
そこは俺が1度目に捜索したこの街で1番でかい屋敷だった。
「おいおい、ここは捜したはずだぞ……」
「何か言ったか?……さぁ、入ってくれ」
そう言ってジルとアクアはさっさと中へと入っていった。
「あ、ちょっと待ってくれ」
やべ、リーシャがいない事を忘れていた。
「『音信魔法』」
俺は空中に円を描きながら魔法を唱えた。
コレは音信魔法と言って、前世で言うテレビ電話のようなものだ。
つい最近発明された魔法らしく、便利なだけでなくて、修得難易度も低いので誰にでも使えるというスゴイ魔法なのだ。
「リーシャ。古龍種は片付いた。
俺たちがこの街で一回目に捜索した屋敷に来てくれ。そこで待ってる」
「え、どういう事?」
「あー、細かいことは後でだ」
「ん、分かった。怪我はない?」
「ああ、大丈夫だ。じゃあ、待ってるからな」
「うん、直ぐに行くわ」
俺は魔法を解除し、ジルの屋敷へと入っていった。
もうちょい再開は引っ張ろうと思ってたんですが……。どうしてこうなった?