学ぶ魔王
この世界に来て書物というものを初めて読んだ俺は物凄く驚いた。
見たことの無い文字だったからだ。
いや、ファンタジー異世界なんだからそんな事もあるだろう。
俺が驚いたのはそこだけではない。
訳のわからん文字なのに意味が理解出来るのだ。
そういばこの世界の言語は日本語じゃないハズなのに生まれてすぐに言葉を理解できたな。
コレは俺が元異世界人だから出来るのか、魔王の息子だから出来るのかは分からんが、かなり便利な能力である。
取り敢えず俺は『6級魔道書』という書物を読んでみた。
この世界の魔法には階級があり、1級から6級までがあり、6級は入門レベルである。
俺は魔法なんて使ったことすらないのだから勿論6級から始める。
魔法ってやつは魔力がある限りいくらでも撃てるらしい。
魔力ってのはMPってことか。ゲームみたいだな。
ここからがよくわからんところだ。
何やら魔力を体内で集中させて云々……とか書いてるのだ。
その集中のさせ方が分からんというのに。
まぁいいか、ぶっつけ本番でなんとかなるだろ。
よし。まずは手始めに簡単そうな呪文から唱えてみよう。
「え〜っと、じゃあ炎弾っと」
俺は6級魔法の項目の1番上に載っていた魔法を唱えてみた。
ボシュッ‼︎
『6級魔道書』が消し炭になった。
「あ”っ!」
やってしまった……。
いや、当然の結果といえば当然の結果である。
本に向かって炎魔法を唱えたら本が燃えるに決まってるじゃないか。
一瞬で灰になってくれたから周りに燃え移ったりしなかったのが不幸中の幸いだったが……。
せめて水魔法とかにしとけば良かったかな……。
司書のおじさんに謝りに行ったら驚いていた。「図書館で炎魔法ぶっ放すやつなんて初めて見た」と笑っていた。
そんな奴に前例があったら驚きだよ。
俺の親父は同じ本を何冊も集めていたらしいのでまだ『6級魔道書』はあったが、
俺は親父は同じ本を買うなんて馬鹿だったのかな?なんて思ってしまった。
まぁ、取り敢えず外で練習しよう。
また本が燃えたら流石に怒られるかもしれん。
気を取り直して屋外にて炎弾の練習だ。
「炎弾!」
ボシュッ‼︎
二回目にしては良い線いってるんじゃないだろうか。
射程は五メートル程だが、大きさはかなり大きいんじゃないかな。
「リュート様?」
俺の炎弾の音を聞きつけてきたのか、後ろからエルザが洗濯物をパタパタさせながらやってきた。
「あ、エルザ!」
「魔法の訓練ですか?リュート様は勤勉ですねー、なんの呪文の練習してるんですか?」
「ん?炎弾だよ、ホラ」
ボシュッ‼︎
前方の木を灰にした。
「あ”あ”っ!」
またやってしまった……。
エルザに良いとこ見せようと完全に調子に乗っていた。
そーっと、エルザの顔を見ると何だか表情が固まっている。
「どうかした?」
「い、今の、どうやって魔法撃ったんですか?」
エルザがめっちゃ興奮した様子で詰め寄ってきた。
近い近い。
「いや、普通におりゃっ!って感じで……」
「す、凄いですよ!その年で無詠唱魔法を撃つなんて!リュート様は天才です!」
「え、本当⁉︎エルザは出来ないの?」
「いや、出来ますけど」
「あ、そうなんだ……」
出来んのかい。
なんで上げて落とす様なことすんの?凹むよ?
「で、でも、いきなり無詠唱魔法を撃つなんて誰にでも出来ることじゃありませんよ。
私なんてかなり訓練して習得したんですよ?それを一回でなんて……リュート様の将来は天才魔導師魔王様ですね!」
何だそれ、組み合わせすぎてなんか胡乱な単語になってるぞ。
でもやっぱり褒められたら嬉しいもんだな。
てか、テンション高いな。
エルザからしたら子供が天才だった!みたいな感覚なんだろうな。
俺もその立場だったらかなり嬉しいだろうなぁ。
でもよく考えたら俺が赤ん坊の頃に初めて喋った時も同じ様なこと言ってたなこのメイド。