祐奈とエルフ
---勇者side---
祐奈たちはその時、人間界と妖精界の界境を越えていた。
現在地は妖精界のエルフの王都、ミストリエ。
「肉が食べたい」
「また……?お姉ちゃん」
「メイも肉食べたいでしょ?」
「いや、食べたいけどさ……」
そう、この国には、肉料理が全く無いのだ。
理由は国民全員が純粋な菜食主義者だからだ。
これは欲望に忠実な祐奈と、肉食獣の獣人族であるメイにはそこそこキツイ事態であった。
「でも、ここは良いところだと思うよ?奴隷とかいないし」
と、メイはエルフのフォローに回るが、
「それはそうだけどさぁ……肉食わないとか、絶対人生の8割損してるよ」
祐奈はそんな事より肉の方が大事らしい。「奴隷がいないのなら別にいいや」みたいな感じである。
この国には奴隷などおらず、広大な土地を農耕して暮らしているという、至って平和な国なのである。
「平和だねえ」
「そうだねー」
「やることなくない?」
「ないよねー」
「勇者とかいるのかなぁ?」
「あんまり要る感じじゃないよねー」
「だよね」
「うんうん」
勇者本人が勇者の存在意義を問い始めた。
魔王の噂も全然聞かないし、正直言うと世界は平和だった。
もう魔界行く必要無いんじゃないかな?とか思い始めていた。
二人はあまりに平和すぎるが、暇過ぎるので惰性で旅を続けているのだ。
「なんか事件とか起こらないかな」
「不吉なこと言うのやめなよ、お姉ちゃん」
エルフの女王に謁見して、国のことを聞いてみたが平和そのものである。
何もやることがない。
「ユーナ!メイ!」
その時、小さなエルフの女の子がこちらへ走ってきた。
肌は抜けるように白く、透き通るような水色の髪の毛が特徴の可愛らしい女の子だ。
「ルーナ!」
「ルーナちゃん⁉︎」
その女の子の名はルーナ。
二人の反応が微妙に違うのには理由がある。
祐奈は純粋にルーナと会えて嬉しいのだ。
だが、メイは違った。
いや、弁明させて欲しい。メイもルーナのことは大好きだ。では何故祐奈と反応が違うのか。
その答えは、
ルーナがこの国の王女だからである。
「ちょ、ルーナちゃん!勝手に出歩いちゃダメでしょ⁉︎」
「まぁまぁ良いじゃんかメイ。硬い事言わなくてさぁ」
「お姉ちゃん⁉︎固いことじゃ無いからね⁉︎」
「まぁまぁ良いじゃんかメイちゃん。固いこと言わなくてさぁ」
「当人が言わないの!」
妖精界には幾つかの国があり、ルーナはエルフの国の皇族なのだ。
ルーナの年齢は18歳。しかし、エルフの年をとる速度は人間の半分ほどである。
つまり、ルーナの肉体は人間でいう9歳相当なのである。
しかし、18年生きているので精神だけが成熟しているのだ。ルーナは少し子供っぽい性格をしているところがあるが、知識は18歳相当だ。
ちなみに、エルフは二十歳になると大人として認められ、結婚も許されるようになる。
二十歳のエルフは見た目10歳。つまりそれは合法ロ(ry
「私の方がお姉ちゃんなんだからルーナちゃんじゃなくてルーナお姉ちゃんって呼んでよね!」
「えー、ヤダ」
メイの年齢はまだ12歳。ルーナよりは年下だ。
だが、メイは元々大人びた性格をしている上、ルーナより身長が高い。最近胸も膨らんできた。
対してルーナは9歳相当の身体をつきをしているため、背も低いし胸もぺったんこだ。
ルーナをお姉ちゃんと呼ぶのは少し、いや、かなり抵抗があるのだ。
祐奈は見た目ロリなのに大人ぶるルーナや、目ために反して大人っぽい性格のメイが可愛くて堪らないのだった。
もし祐奈が男だったら、さっさとフラグ立ててメイのこともルーナのことも手篭めにしていただろう。
「よし、今日はお肉食べようか!」
「やったー!」
「えー、お肉はやだよー」
エルフらしく、肉を食うのは嫌がるルーナだった。
ルーナが二人に懐いているのには理由がある。それは今二人が王宮で厄介になっているのと同じ理由だった。
ルーナの姉であるサリアがドワーフとの外交の帰りに襲われ、盗賊に捕まったのだ。
その盗賊は何故か異常に強く、統率も取れていた。サリアが人質に取られていることもあり、ミストリエ軍隊でも叶わなかったのだ。
そこを通りかかったのが祐奈である。
祐奈は王に助けを求められ二つ返事で引き受けた。
その時はぶっちゃけお金がない上に、腹が減っていたので物でつられてしまったのだ。
祐奈はメイと二人で盗賊の砦に進入し、あっさりとサリアを取り戻してきた。
その後、ミストリエ軍隊と共に盗賊の砦を殲滅して仕事は終わりだ。
正直、勇者である祐奈にとっては欠伸が出るほど簡単な仕事だった。
そのお陰で王宮への出入りが自由になり、美味しい食事とふかふかのベッドを提供して貰い、サリアの妹であるルーナと毎日遊んでいると言うわけだ。
まさに至れり尽くせりだ。
たった一つだけある不満は肉料理が無い事。
「ユウナ様、メイ様、申し訳ありません。ルーナがご迷惑をおかけして……」
「良いの良いの、私もルーナと遊ぶの楽しいしね」
「サリア様がお気になさる事ではありませんよ〜」
祐奈とメイに声をかけてきたのはこの国の第一王女 サリアだった。
サリアは物腰の柔らかい女の子で、大人びた雰囲気を醸し出している。
年齢は秘密だそうだが、見た目はまだ祐奈と同じくらいに見える。
(サリアは35歳くらいかな……)
ルーナを撫でながらそう思った時、祐奈の背後から何やら視線が。
不審に思って振り向くとサリアが笑顔を固まらせて祐奈に視線をぶつけていた。
これ以上の詮索は良くない。主に祐奈の生命に良くない。
祐奈はそこで思考を打ち切った。
「ユウナ様?何を考えておいでですか?」
「な、何も考えてないよ⁉︎別に35歳くらいかなー、なんて思ってないよ⁉︎」
「思ってるんじゃないですか‼︎35歳じゃないですよ!」
「いやでも、見た感じ私と同い年くらいだし……」
そこで祐奈は得心した。
サリアはアラサーなのだ、と。
「ユウナ様ぁ〜?」
「ヒイィ!す、すみませんでしたぁ!」
「何を考えてたんですか!良い加減にしないと体重公開しますよ!」
「ちょ、なんで私の体重知ってんの⁉︎」
「私がユウナ様の個人情報を網羅している事はこの際問題ではありません!」
「いや、大問題だからね⁉︎目下最大の懸念事項だからね⁉︎」
いつの間にやら祐奈はサリアに個人情報を網羅されているらしい。軽く戦慄する事実だ。
真実は侍女が祐奈用の新しい鎧を採寸した時の記録をサリアが盗み見ただけなのだが。
「ねぇ、いつまでここにいる気なの?お姉ちゃん」
不意にメイが半眼で言った。
「え?」
「いや「え?」じゃないし」
「いや、もうちょっと休もうかなー、なーんて……」
「そろそろ一月経ちますけど」
「…………」
祐奈は口笛を吹きながら白々しく他所を向いた。
「お姉ちゃん?」
メイが祐奈の顔面を掴み、正面を無理矢理向かせる。
顔が羅刹みたいになってる。
「魔王倒すんでしょ?」
「ウン、魔王斃ス」
「じゃあ、行かなきゃダメだよね?」
メイが鬼神のような顔で凄む。
「ウン、行ク」
「じゃあいつ行くの?」
「今デス」
祐奈は表情筋を強張らせながらガクガクと頷いた。
「え、ユーナ行っちゃうの⁉︎やだやだ!もっと一緒にいる!」
ルーナが駄々をこね始める本当に9歳児に見えてきた。
「ご、御免ね……。私、ホラ、勇者だし……」
「メイちゃんは何で行くの?」
「私はお姉ちゃんの従者だから……」
「じゃあわたしも従者になる!」
「ファッ⁉︎」
王女様が勇者様の従者様になると申すか。
「ねぇ、良いでしょ?お姉ちゃん!私もユーなと行きたい!」
「だ、ダメです!そんな危険なこと!勇者様の邪魔になってしまいます!」
「やだやだやだやだ!絶対行く!」
「いけません!」
なんか姉妹喧嘩になりそうな雰囲気だったので祐奈はメイとともにその場を後にした。
ぶっちゃけ眠かったのでシャワーを浴びたら布団に入りたかった。
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翌日
祐奈とメイはミストリエの人々に見送られながら国を出た。
たくさん荷物をもらってしまったが、ついでに馬車も貰ったので運ぶのは楽だ。
更には、二人とも馬に乗れないので荷台に座るところまで用意してもらったのだ。しかも二人分。
「次の目的地はどこ?メイ」
「次は、サルシアという街だね」
「どのへん?」
「一応地図は貰っといたから、地図の通りに行けば、このまま進めば大丈夫だと思うんだけど……」
「サルシアはねー、こっちの道を曲がった方が近道だよ?」
「へー、そうなんだ、ありがとえええええええ⁉︎」
何と声の主はルーナだったのだ。
「ちょ、ルーナちゃん⁉︎何でついてきてんの⁉︎」
「誰も連れて行ってくれないから黙って付いてきちゃった♥︎」
「きちゃった♥︎じゃないよ⁉︎」
メイが目を剥きながら突っ込む。
「でもルーナ。黙ってきたらダメでしょ?」
祐奈は割と冷静にルーナを諭そうとする。
「黙って来たんじゃないよ?ちゃんと置き手紙してきたよ?」
「そ、そうなんだ……それじゃあまだマシか……」
と、メイが納得しかけたところで、
「勇者様に誘拐されたって」
やはり納得出来ないのだった。
「何でええええええええ⁉︎」
「その方が良いかなぁって」
「良くないよ⁉︎」
「これじゃあ国に戻ってもユーナは逮捕されちゃうね!困ったね!」
ルーナはしっかりと祐奈達の退路を塞いできたのだ。
「そんな輝くような笑顔で言われても今後に絶望することしか出来ないからね⁉︎」
後日
サリアから手紙が届いた。
手紙が届くという事を余裕で居場所がバレているという事である。
祐奈が戦慄しながら手紙を開封すると、
『申し訳ありません、妹が誘拐などと嘘八百を……。非常に申し訳ないのですが、妹の見聞を広めるためにも旅に同行させてやっては頂けないでしょうか?
確かに妹は経験は無いですが、私のように高い魔法適正を持っておりますので決して足手まといになる事はないでしょう。
どうかくれぐれも妹の事をお願い致します。』
と書かれていた。
お姉さんはなんでもお見通しである。
仕方がなく二人はルーナを連れて行くことにした。