アクアとジル
---アクアside---
アクアは奴隷にされ、奴隷市場へと連れて行かれた。
奴隷商人に連れられ、界境を越えた。
アクアは常に無表情だった。
客に愛想を振りまき、買われなければ命は無い奴隷のありかたとしては常軌を逸していた。
だが、既にアクアは生を諦めていた。
リュートがいない。それだけで、アクアがこの世に絶望するには十分な要因だった。
アクアは常に、売られる気の全くない、可愛げのない無表情。
商人はその度に怒り、アクアを鞭打った。
アクアの背中には大きな傷が残り、益々自分の中の殻に閉じこもった。
ある日、アクアがいつものようにぼんやりとしていると、竜人族の親子がアクアの檻の前にやってきた。
「コイツか……」
少年はリュートより少し年上だろうか。目尻がつり上がっていて、目つきが悪い。
少年はニヤリと笑いながら、アクアに尋ねた。
「おい、お前。面白い目をしているな。もうちょっと愛想よくしやがれ、死にたいのか?」
アクアは頷くことも首を振ることもしなかった。
「どうでもいいってか……?」
竜人族の少年は楽しそうにククククと笑った。
少年は檻の錠前を握りつぶした。
異常な腕力だ。
「親父!コイツを買ってくれ!」
「何?もっと良質な奴隷がいるだろう?何故だ?」
「コイツを俺の奴隷にしたいんだよ……面白そうじゃんかよ……。コイツの濁りきった目が気に入った……こんなに奴隷らしい奴隷はあんまり見ねえからな」
「まあ……お前がそう言うなら良いだろう。主人、いくらだ?」
「は、値段はこうなっとりやす……」
二人は商談を始めた。
少年はアクアの檻を腕力でギギギと音を立てながらこじ開け、アクアの繋がれている鎖を引きちぎり、連れ出した。
「…………?」
アクアは何故自分の枷を外したのか分からなかった。
「逃げたきゃあ逃げて良いぜ?逃がさねえけどな」
少年はそう言って、不敵に笑った。
「…………」
コレがアクアと竜人族の少年、ジル・ドラグーンの出会いだった。
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屋敷に連れ帰られたアクアはまず侍女に体を洗われ、きれいな服を着せられた。
「どうして……?」
アクアがそう呟くと、後ろからジルがやってきた。
「ペットにきれいな服を着せてやるのは飼い主なら誰だってやるだろ?」
そう言ってジルはアクアの手をとった。
「こいよ、お前は働かなくても良いんだぜ?愛玩動物として買ったんだからな」
「…………」
アクアはされるがままにジルについていった。
ジルは才能ある子供だった。
生まれつき腕力の強い竜人族の中でもとりわけ高い筋力を持ち、そしてエルフの次に高い魔法適正を持つ竜人族の性質を遺憾なく受け継いでいた。
ジルは竜人族の貴族の息子で要するに金持ちのボンボンである。
しかし、幼少期から戦士でもある父親の影響でストイックに体を鍛えていた為、屈折した性格をしていながらも高い戦闘能力を保持しているのだ。
ジルの父親は元平民の男で、実力で貴族まで成り上がった。その息子であるジルは貴族の学校では疎ましく思われているのだが、逆らう者を全て力でねじ伏せ、ヒエラルキーの頂点に君臨しているのだ。
しかし、アクアはジルの稽古の風景を見てこう思っていた。
(リュートの方が強いし……)
ジルはそんなこと露ほども知らない。
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その日の夜、奴隷用の宿舎で寝ていたアクアはジルに起こされ、部屋に連れてこられた。
アクアは半分寝た状態で、ジルについていった。
部屋に入った途端、ジルはアクアをベッドに押し倒した。
ジルがアクアを買った理由は面白そうという理由が大きかったが、見た目が好みだったというのも非常に大きかったのだ。
アクアは何が起こったのかよく分からず目を白黒させた。
リュートにはこんな事されたことない。そう思った。
ジルは次の瞬間、躊躇なくアクアの衣服を剥ぎ取った。
「っ⁉︎」
「何だよ、お前は俺の奴隷だぞ?こうなる事も分かってなかったか……?」
奴隷は主人の所有物。
主人が奴隷をどう扱おうと主人の勝手である。極論、殺しても罪に問われることはないのだ。
そして、奴隷は主人に逆らってはならない。それがこの世界の常識である。
しかし、アクアはそんな事いちいち覚えていないのだ。
アクアは本能的な恐怖を覚え、次の瞬間には広範囲の水魔法を行使していた。
「い、いやっ……!『撥水散弾』!」
水の散弾を大量に打ち出し、部屋一杯に充満した水が、二人を包み込んだ。
「なあっ⁉︎……へへ、良い度胸だ!」
しかし、ジルはそれを物ともせず、アクアの手を掴んだ。
「……ッ!『撥水砲弾』っ!」
「うおっ!」
ジルは派手に吹き飛び、部屋の壁にめり込んだ。
「ちっ、中々良い腕してんじゃねえかよ……」
「『撥水……』」
「ここらでお終いにさせてもらうぜ!」
ジルは両脚に力を込め、壁を蹴った。
ドスッ!
腹部へ一撃。
アクアは気を失った。
部屋は滅茶苦茶になっていた。言い訳が考えつかない。
「…………へへ、やるじゃねえか……」
ジルはやれやれと首を振った。普通に抱けると思っていたが、これは無理そうだ。
「割と貞操観念の強い奴隷だな……面倒くせえが合わせてやるか」
割とアクアを気に入っていたジルは我慢することにした。
「一体何の騒ぎだ!」
そこに、ジルの父が駆けつけた。
しかし、ジルは素知らぬ顔だ。
「別に?魔法の練習してたら、爆発したんだよ。アクアが怪我したかもしんねえから治療しといてよ」
そう言ってジルは欠伸をしながら部屋を出て行った。
それ以来、ジルはアクアに乱暴することはなくなった。
今回はかなりというか、凄い短いんじゃないかと自分でも思いました。