業
今回は調子に乗ってアレな表現をしてしまいました。苦手な方がいるかもしれません。あしからず
あれからどれほどの時間が経っただろうか。
動けない。
でも俺は生きている。
俺の心臓は規則正しい鼓動を刻んでいた。
『目が覚めたか……』
何処からか声が聞こえた。
「フレイム……?あ、アクアは……⁉︎」
『おらん……。奴らの言う通り奴隷にされたのだろう』
「くっ……く、クソッ!」
何が家族を守るだ……。何が国と城を再興するだ……。俺には何も出来やしない……。
「くっそおおおおあああぁぁぁぁ‼︎」
俺は叫んだ。やり場のない怒りと悲しみに身を任せて。
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少しして冷静になった俺は現状の把握に努めた。
「そういえばお前何処にいるんだ?」
この声はフレイムだ。間違いない。
でも、何かおかしい。主に声の響いてくる場所がおかしい。俺の頭が狂っていないというのなら、頭に直接声が響いているような……?
『我等は賭けに勝った様だぞ……。我は今、お前の中にいるのだ』
「へ?も、もしかして……」
『お前の想像の通りだろうな。我とお前は同化したのだ。と言っても我は殆ど何も出来んがな……』
同化……?それって……どういうことだよ?
『龍の血の力だろう。あまりに前例がない事だからな、わからん事が多過ぎる』
「お前、俺の心読めるのか?」
『ああ、今は我はお前そのものだからな』
それはまた、便利な様で日常生活に支障が出るんじゃないか?
「あー、これからどうすんだよ……。まずアクアを助けないと……」
そう言いながら俺は目頭についた血を左手で拭った。
左手で……?
「う、腕がある!」
『気づいてなかったのか……』
「な、何でだ⁉︎」
『龍の血の力で再生したのだ。
言っておくがお前は四肢はバラバラ、内臓が飛び出て、皮膚は滅茶苦茶に切り刻まれていたのだぞ?』
実際、フレイムに噛まれた左肩の傷以外は跡形もなく治っていた。
「さ、再生……」
それってもう、ゾンビじゃねえか……。
でも心臓は動いてる。つまり俺はゾンビじゃない。
でも、それだけで俺がもう普通の魔族じゃないってことを痛感するには十分な情報だった。
でも、身体がどうなっていようと関係無い。
「アクア……絶対助けるからな……」
俺は体を起こそうと上半身に力を入れた。
が、起き上がれない。というか動けない。わずかに動くのは左手ぐらいである。
その時、森の奥から狼の群れがやってきた。俺の血の匂いを嗅ぎつけてきたのだろう。
「グルルルル……」
「ヤバイ……動けないのに……」
『マズイぞ……今のお前なら食われても死なんだろうが、死んだほうがマシと思うほどには痛い目にあうだろうな……』
「おい、何とかしてくれ……」
『今の我には大した力はない。現状を打開するのは無理だ』
「嘘だろ……」
「グルアアアッ!」
何匹もの狼が俺に襲いかかってくる。
俺はまだ死ねない。アクアを助けるまでは。
少々の痛みが何だ!男なら我慢しろ!
グシャッ!
鋭く尖った狼の牙が俺の体に深々と突き刺さる。
「ぐううああああぁぁぁぁ‼︎」
俺はあまりの痛みに絶叫した。
「ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
狼は俺の体を千切り、喰らう。
痛い。
いくら体を食われても死ねない。
俺は意識を保ち続けた。保ち続ける事が出来てしまった。失神できたらどれだけ楽だっただろうか。
痛い。辛い。死にたい。ダメだ、まだ死ねない。痛い。アクアを助けるまでは……。痛い。殺してくれ。痛い。ダメだ、今死ぬのはダメだ。嫌だ。死にたくない。痛い。死にたい。死ねない。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
肉がブチブチと体から千切られていく感触と痛みを俺の神経は容赦無く脳に伝えてくる。
「うああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」
死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい。
生きたまま食われるのがこんなに痛いと思わなかった。こんなに怖いと思わなかった。
誰か助けてくれ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。もう喰われたくない。
いっそ殺してくれ。
殺してくれ殺してくれ殺してくれ殺してくれ殺してくれ殺してくれ殺してくれ殺してくれ殺してくれ殺してくれ殺してくれ殺してくれ殺してくれ殺してくれ殺してくれ殺してくれ殺してくれ殺してくれ殺してくれ殺してくれ殺してくれ。
「あああ……はぁっ……うあぁぁ……ぐぁぁっ……あぅう……」
狼は容赦なく俺の身体を蹂躙した。
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数日経って俺の身体は完全に再生した。
肉片と骨しか残っていなかったのに再生するとは龍の血は驚異的な魔力を持つ様だ。
俺は狼に食われる恐怖で震えていた。
早く動ける様になりたい。また食われるのだけは嫌だ。
今の俺は舌をかんでも死ねない。
首を括ろうが刎ねようが死ねないのだろう。
水に溺れることも出来ない。
体を細切れにされても絶対に死なない。
これじゃあゾンビと何が違うんだ……?
心臓が動いているとか動いていないとかそんなのは既に些細な問題だった。
俺は化け物なのだ。
アクアはこんな俺をどう思うだろうか。
こんな気持ち悪い生き物をどう思うだろうか。
俺は既に俺ではないのだ。
気持ち悪るがられるかも知れない。
『リュート、気をしっかり持て!』
「うっ……うっ……。死にたい……。誰か俺を殺してくれ……」
俺は泣いた。俺は俺を殺せない。誰か俺を殺してくれ。
本気でそう思った。
『このアホが!』
その時、フレイムの怒鳴り声が体の奥底から響いた。
『お前はアクアを助けるんやろうが‼︎さっき狼に食われてた時も「アクアを助けるまでは死ねない」って思っとったやろうが‼︎お前の体は変わってもうたかもしれんけどな、アクアを助けるんとは関係あらへんやろ‼︎こんな所でへこたれてんとちゃうぞ‼︎』
フレイムに怒鳴られるのは初めてだった。
しかも大阪弁。
せっかくシリアスな場面なのに、なんで素で怒るかなぁ……。
でも、俺はフレイムに叱咤で何とか気力を保つことが出来た。
そうだ、アクアを助けなきゃいけないんだ。
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少し落ち着いた俺はボンヤリと遠くの方を眺めていたら、
「でも……俺はもう、普通の魔族じゃない」
俺はポツリと呟いた。
俺はもう普通じゃないのだ。
異常な存在になってしまったのだ。
『リュート、お前を不死にしてしまったことはすまないと思っている。謝罪で済む問題じゃないが、あれが最善だと思っていたのだ……。本当にすまない……』
「良いんだ、フレイム。もう良い。見てみろよ、髪とか爪が伸びてる。成長はするんだ。老衰なら死ねるかも知れない」
俺は無理してポジティブな事を言った。
髪とか爪が伸びてるのだ、つまり俺の身体はいつも通り成長する。
餓死はどうせできないだろうけど、成長するには飯を食わないとな。
もう何日も何も食べていないので腹が減っていた。俺は顔の横に生えていた草を夢中で食べた。
正直、普段なら苦くて食えたものじゃなかったけど、今は不思議といくらでも食べれた。
その時、フレイムがまた何かな気配を察知した。
『む……何かがこちらへ来るぞ』
「まさか、また狼……?」
俺は身震いした。さすがにあの痛みをもう一度味わうのは死んでもゴメンだった。
「う、嘘だろ……?」
『いや、この気配は……魔獣では無いな』
「だとしても、デラド達だったらどうするんだよ⁉︎」
『しかし、我々は動けんのだ、敵では無い事を祈るしかあるまい』
「くっ……そ、そうだな……」
俺は震えながら誰かが来るであろう森の奥を見つめた。
久々の、1日複数投稿です。まだまだ余裕でござる