敗北と死
『む……』
「どうかしたか?フレイム」
『奴らだ……まだおったのか……』
アギレラ達と蹴散らしたと思っていたのだが……。
「戦おう」
「……うん」
『我の怒りもそろそろ有頂天だぞ』
「有頂天の使い方間違ってるぞ」
ザザザザッ!
俺たちの周囲を刺客が囲んできた。
「囲まれた!」
『問題無い、焼き尽くすまでだ!』
ゴオオオッ!
そう言うが早いが、フレイムは周囲を一気に焼き払った。
『む……、何故だ……?死んでいないだと……?』
その時、一人の壮年の男性が薄く笑いながら出てきた。
「クククク……、古龍種が居ることは分かっているのだ。ならば、滅龍士を雇うまでだ……」
『滅龍士だと⁉︎貴様、何者だ!』
「私か、私はデラド。しがない一級魔導士だよ」
一級魔導士⁉︎それって相当ヤバくないか?
滅龍士は字面で想像出来る……。多分龍退治の専門家かなんかだろう。
今フレイムの炎を完全に防御したのは滅龍士が居たからか。
『たった一人の滅龍士に何が出来る!』
「クックック……。私がいつ「たった一人」と言ったかな……?」
まさか、一人じゃ無いのか⁉︎
「元より、たった一人の滅龍士で勝てるとは思っておらんよ。だから、10人用意してみた。足らんかったかな?」
『ぐ……すまぬ、リュート。そちらに手助けは出来なさそうだ……』
「クククク……滅龍士は数人で龍を討伐出来る特殊な魔導士だ。10人もいては絶望だろう?」
デラドはこちらを煽るように笑う。
「状況は?」
『控えめに言って……最悪だ……』
「だったら……死ぬ気で戦うしか無いな」
『ああ』
俺は体に強化魔法を掛けながらアクアに耳打ちした。
「援護を頼む。派手にやり過ぎるなよ?お前が狙われるかも知れない」
「わ、わかった……」
「いくぞ!」
『グルオオォォッ!』
俺は魔導士を、フレイムは滅龍士を狙う。
「『閃光砲弾‼︎』」
無数の光の玉が俺目掛けて飛んでくる。
俺は強化した脚力でそれらを全て躱し、魔導士の懐へと潜り込む。
「ハアアァ‼︎」
掌底打ちを腹に叩き込み、吹き飛ばす。
アクアの水魔法の援護もあって、危なげなく多数の魔導士を撃破していく。
やはり雑魚だ。俺の敵では無い。
そう思った矢先の事だった。
「『撥水槍撃』」
鋭い水の槍が俺の腹部を貫いた。
「ガハァッ⁉︎」
「クククク……大人の魔導士が相手にならんとは、ガキとはいえやはり魔王の器ということか……。だが、調子に乗り過ぎだ……」
デラドが薄笑いを浮かべながらこちらへ歩み寄ってきた。
これが一級魔導士か……。
「グッ……ハァ、ハァ……」
俺の腹からは夥しい量の血液が流れ出てくる。
さっきの攻撃は俺の腹部を貫通した。これは致命傷だ……。まともに戦えない。
「うああああぁぁ‼︎」
でも、ここで立ち上がらなければ俺は死ぬ。アクアも死ぬ。
こんなところで負けてたまるか!
「ほぅ、まだ立ち上がるか……言っておくが、私はさっきまでの雑魚とは比べものにならんぞ?」
「『二重強化』!」
俺は体をさらに強化し、デラドに向かって突進した。
「『鞭状竜巻』!」
俺は周囲から竜巻に体を切り刻まれた。
「ぐぁぁっ!」
「魔導士はまだまだいるぞ?君が先ほど相手していた雑魚とは思わんことだ……」
ダメだ……。どう考えても勝てない……今回ばかりはお手上げだ……。
「トドメだ」
一人の別の男が前へ進み出て、呪文を唱えようとする。
「『激流渦巻』!」
巨大な渦潮が辺り一帯を包み込んだ。
「「「ぐああああぁぁぁ‼︎」」」
そのまま渦潮は数人の魔導士を巻き込み吹き飛ばす。
「リュート……大丈夫……⁉︎」
そう言うが早いがアクアは俺の腹の傷を治療し始めた。
「ああ、大丈夫だ。これを塞ぐのは時間がかかり過ぎる……痛みだけ止めてくれ」
「クククク……クックック……フッハッハッハッ!」
デラドは無事だったらしく、中央で高笑いしていた。どうした?頭イかれたか?
「素晴らしい!その歳で一級魔法を操るとは!しかも見たところ純粋魔族の様だな!これは高く売れるぞ!」
売る……だと……?
「テメェ!アクアをどうする気だ!」
「君には死んでもらうよ……魔王よ。だが、その子の潜在能力は恐ろしいものがある……奴隷にしたらどれだけ高く売れるかな……?今から楽しみだよ……クックック」
奴隷だと?ふざけやがって……。ぶっ殺す!
「アクアを奴隷になんて、させるかぁぁぁぁ‼︎」
俺は解けていた二重強化をもう一度使い、デラドへと突っ込んだ。
「君が大人の体ならば、私はかなわなかっただろうね。だが、残念。君は子供だ」
デラドの放った巨大な水の砲弾が俺を吹き飛ばす。
「この魔法は殺傷能力が低くていけないな……こっちを使おうか。『激流槍撃』!」
何本もの渦巻の槍が俺を襲った。
ドシュドシュドシュッ!
「ガッ……!」
「……リュート‼︎」
アクアが俺に駆け寄ってくる。
「く……くるな……!まだだ……まだ俺は負けてない……!」
まだ俺には最後の力『ソウルイーター』がある。この能力で逆転を狙う!
「『ソウルイーター』を使われると厄介だ……。両腕は切り落としておこうかな。『撥水斬撃』!」
鋭い水の斬撃が俺の両腕を切り飛ばした。
「うあああああああぁぁぁ‼︎」
こ、コイツ……なんで、ソウルイーターの事を知ってるんだ……?
「いや……いや……ふーちゃん!ふーちゃん!リュートが……!」
「ふーちゃん?そこに転がっているトカゲのことか……?」
そう言ったデラドの指差す方向を見ると。
そこには無残なフレイムの姿があった。
全身の鱗は傷だらけ、ボロボロの羽、折れた爪と牙に千切れた尻尾。
俺は怒りに任せて強化魔法を行使した。
「『三重強化』‼︎」
三重以上やったら体が持たないかもしれない。でもソウルイーターが使えない以上、やるしかない。
俺は両腕の激痛を無視して異常な速度でデラドを蹴り飛ばした。
ドゴォォッ!
「ウグアッ‼︎」
「うっ……!」
俺はその場へ倒れこんだ。強化がすぐに切れてしまったのだ。
ヤバイ……。
「このガキィ!やれ!お前達!」
デラドは吹き飛びながらも他の魔導士に指示を出した。
大量の魔力弾が俺を襲い、俺はフレイムの元へと飛ばされた。
「ぐぁぁっ!」
「クククク……そのトカゲと一緒にあの世に送ってやるぞ……」
デラドは頭から血を流しながら薄気味悪く笑った。
絶体絶命だ。
その時、フレイムの声が耳元で響いた。
『リュート、聞け』
「なんだフレイム、生きてたのか」
『冗談はいい。単刀直入に言うが、我はもう助からんだろう』
「はは……、た、多分俺もだ……」
『お前は助かる……。我の血を使うのだ』
「……どういう事だ?」
『龍の血は非常に強大な魔力を持つ。お主にこの血を直接分け与えるのだ』
「あいつらは知らないのか?」
『我ら古龍種はまだ謎の種族とされている。我らの血の秘密はまだ人間には知られてはいない」
「お前、そんな事して大丈夫なのか……?」
『いや……我は死ぬだろうな。だが、このままでは二人とも死ぬ。……我はお前と心中なんてゴメンだぞ』
そう言ってフレイムは俺の肩口を口に咥えた。
『嫌だと言っても無理矢理くれてやる。どうなるかは分からんがな……。上手くいかなければ、龍の血の魔力に耐えられず、お前も死ぬだろう』
「いいね、その主人公にありがちなギャンブル。乗った」
俺は身体をフレイムに委ねた。
フレイムの口から俺の肩の辺りに暖かい龍の血が集まってくる。
「何をこそこそと話している!お前達!やれぇ!」
「『旋風烈斬』!」
数人の魔導士が同時に風魔法を唱えた。
直後、無慈悲な風の刃が俺とフレイムの身体を滅茶苦茶に切り裂いた。
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戦闘が終わり、辺りを静寂が包み込んだ。
「確認しろ。ここまでやったのだからほぼ確実に死んでいるだろうが……生きていたら洒落にならんからな……」
デラドは部下にリュート達の死を確認させた。
リュートは四肢をもぎ取られ、身体中に無数に切り傷があった。腹からは内臓が飛び出しており、とてもこの状態で生きているとは思えなかった。
案の定、リュートの心臓の鼓動は完全に止まっていた。
フレイムは咄嗟にリュートを庇ったのか、もっと無残な事に殆ど死体が残っていなかった。
「し、死んでいます!」
「クックック……そうか、死んだか!ハッハッハッハッハ!」
「嘘……リュート、ふーちゃん……嘘……いやぁぁぁ!」
アクアは叫んだ。
滅茶苦茶に水魔法を打ちまくった。
だが、何人もいる大人の魔導士に勝てるはずもなくアクアはなす術なく拘束された。
「コイツは奴隷だ。連れて行け」
「はっ!」
そうして男達はアクアを連れ去っていった。
「いやっ、いやぁっ!リュート!リュートぉ!」
森にアクアの悲痛な声が木霊した。
そして、森の中には静寂が訪れる。
ドクン!
静かな森の中に一つの心臓の鼓動のような音が聞こえた。
最近、メッチャ書き溜めてます。今週いっぱいくらいは何もしなくても毎日更新出来るくらいには