新たな刺客
その日の夜。
アクアはさっさと寝てしまったが、俺は起きていた。こういうとき子供はさっさと寝てしまうものだ。
だが、俺は見た目は子供、頭脳は社畜なのだ!この時間は俺のパーリータイム!ここ9年以上やっていないが、やろうと思えば三徹ぐらい余裕なんだぜ!
何故俺が徹夜なんてしてるのかというと、隣ではアギレラとフェリアが寝ているのだ。
二人がギシギシやりだしたらその様子を脳内実況しようと思ってずっと起きているのだ。
しかし、いつまでたってもその様子はない。今日はヤらないのだろうか。まぁ、普通に考えて隣に子供が二人寝てる状況ではヤらないか。
仕方が無く俺は眠りについた。
次の日の朝
俺はアギレラに叩き起こされた。
「リュート、昨日は遅くまで起きてたなぁ?知っているぞ?」
俺はアギレラの声に凍りつきながら目を逸らした。
「な、何で……?寝てたけど、?」
「寝ている間と起きている間は心拍数が違うのだ。お前は昨日の夜ずっと起きてただろう」
この地獄耳め。
狼の獣人族であるアギレラは全ての感覚が他の種族の追随を許さないレベルで高いのだ。普通の獣人族が既に高水準なのに、アギレラは平均的な獣人族をはるかに凌駕した感覚能力を持つ。
しかし、その代わり魔力適正値は最悪である。
魔力適正値とはどれだけうまく魔力を扱えるかというやつで高い順に、妖精族、竜人族、魔族、人族、亜人族(獣人族は亜人族の一種)という順番である。
亜人族の中にも魔力適正値の高い奴は居るらしいが、取り敢えずアギレラはほとんど魔法を使えない。なのに理不尽なくらいに強い。
ちなみに、俺たちのパーティではエルフであるフェリアが1番魔力適正値が高い、二番がアクアでその次は俺だ。
「で、何で起きてた?まぁ理由は既に察しているが……」
「いや〜、アギレラとフェリアが夜中にギシギシヤらないかな〜、なーんて思って……痛ッ!」
アギレラの拳骨が俺の頭に突き刺さった。
「このマセガキが……お前らが横にいる状況でヤる訳無かろうが」
「ほほう、俺たちが居なかったらヤると?」
「それは……って、何を言わせる気だ!」
「へぇ〜、じゃあヤりたくないんだ?」
「そんな事は言ってない!」
「どうした?アギレラ、リュート、何の話だ?」
俺たちが言い合っていたら着替えを終えたフェリアが顔を出した。
「あ、ちょうど良かったよフェリア。アギレラがねぇ……」
「ヤメロ!クソガキ!」
アギレラが急いで俺の口を塞いだ。良い判断だ、何をするかわからんからな。
実際さっきの俺はアギレラに対する熱い風評被害を触れ回るつもりだったし。
「アギレラはフェリアとヤりたくて堪らないらしい」と言ってやろうと思っていたのに、思いの外アギレラに余裕が無いので止めておこう。
「ヤるとかヤらないとかどういう意味?」
アクアがコッソリ俺に聞いてきた。聞こえてたのか。
「俺にも分からない、アギレラに聞いてみたら?」って言ってやろうかと思ったが、少しアギレラが気の毒だったので、
「さぁな、大人になったら自ずと分かるさ」
と言っておいた。
「リュートは知ってるの……?」
「まぁな」
「リュートは大人……だね」
「フフン、まぁな」
俺たちは朝食を摂ってすぐにタブルを発った。フレイムは昨日一日中森で暇していたためか、少し不機嫌だったがまぁ許容範囲内だ。
昨日と同じように、フレイムはアクアを背中に乗せで他の三人は馬に乗る。
もう直ぐアクロスだ。
馬に乗って移動してから3日が経った。この世界の馬は地球の奴よりも少し大きくてスタミナがある。休憩は挟んでいるが、ほとんど一日中走り続けている。
徒歩だったら何ヶ月もかかる道のりらしいが、馬を一日中走らせると1週間ほどで着く。馬の走るスピードは車とそう変わらない。
ほぼ一日中歩き続けても100キロ歩くのは難しい。だが、馬に乗れば100キロなんて大体2時間くらいだ。
それだけ旅が楽になるのだから馬万歳だな。
---アクロス---
アクロスに到着した。ここから亜人界へ行くので、今回ばかりはフレイムも一緒だ。
広い街だから家をなぎ倒さないからそっち方面の心配は無い。
しかし、この街は「うわぁぁぁ、ドラゴンだぁぁぁ!」人が少ないな。フレイムの事を説明するのも「逃げろぉぉぉ!」かなり面倒臭そうだ。亜人界に行くには界境を「もうお終いだぁぁぁ」通らなければならない。
てか、うるさいな!街に人が少ないと思ってたらフレイムを見て逃げてるだけかよ!
俺たちは界境の関所へ向かった。
「ど、古龍種⁉︎」
「害は無いので……」
「こ、コホン。では、魔族2名、亜人族1名、妖精族1名、古龍種1匹で宜しいですか?」
「いい」
「それでは料金を」
「ああ」
そう言ってアギレラはドサッと袋をカウンターの上に置いた。
「何でそんなに……俺らの分も?」
「この程度問題無い。お前たちは気にするな」
金が無いと思っていたのに、意外と持ってるのか……。
そうしている間に係りの人がお金の確認を終えたらしい。
「では、確かに、確認いたしました。お通り下さい」
「行くぞ」
「あ、うん」
俺たちは亜人界へと入っていった。
---
「亜人界、楽しみだね……ふーちゃん」
『そうだな』
「すぐにでもカルリアに着くだろう。今日はそこで一泊だろうな」
「カルリア?」
「俺の故郷のサナリアの1番近くにある町だ。まぁ、正確に言うと俺の故郷はサナリアの隅っこにある小っせえ村だけどな」
そこでフェリアと新婚生活という訳か。成る程ね。
こんなこと口に出したら恥ずかしがり屋さんのアギレラは俺の頭をど突くんだろうな。
俺たちはカルリアを目指して馬を走らせた。フレイムはアクアを背に乗せて飛ぶ。
亜人界は他の国に比べて狭いらしいが、国民性から街が少ないらしい。森とかに住んで野生的な暮らしをする奴がまだ居るからだ。
だから街同士が結構離れている。界境からカルリアが近いとは言っていたが、比較的近いと言うだけで、馬で3日は掛かる距離がある。
「遠いね」
「ああ、もう少しの辛抱だ」
俺たちは3日間馬を走らせてカルリアへ向かった。
道中、野生の魔獣が心配だったが、フレイムがいるせいか全く出てこなかった。
そして、あと1日で到着という時。
突然アギレラが馬を止めた。
「どうした?アギレラ」
「何か、来るな」
「?」
ドゴォォッ!
「何だ⁉︎」
「見つけた」
轟音と土埃を立てながらそこから出てきたのは長身で高齢の男性だった。
「我が名はダルセン。訳あって主らを殺す」
「誰か知らんが、良い度胸だな……勿論お前も死ぬ覚悟は出来ているんだろうな?」
アギレラがドスの効いた声で応じる。
「貴様、見たところ鳥類の獣人族だな?」
「そう言う主は狼かな?」
そう言ってダルセンはヌンチャクのように鎖でつながっている2振りの剣を取り出した。ソードヌンチャク的な武器だ。
アギレラも剣を取り出す。
「貴様、何が目的だ?」
「話す必要は無い」
「そうだな、お前が何も話す気が無いと言うのなら……殺すまでだ」
二人の獣人族はお互いの殺気を中央で鬩ぎ合わせながら向き合った。
一触即発。
数秒後にはお互いの首を飛ばす気で戦うだろう。
「「殺す」」
ヒュッ!
音もなく二人は轟と打ち合った。
二人が戦っている間にフェリアが俺に耳打ちする。
「リュート、多分あのジジイの目的はお前だ」
「俺が魔王だから?」
「そうだろうな……だが、ここに居ろ」
「ああ、分かってる」
敵が一人とは限らない以上、ここから一人で逃げるのは危険だ。むしろ、戦闘能力の高いアギレラと行動を共にしていた方が安全だ。
「アギレラが負けるわけがない……奴は、私が今まで出会った中では二番目に強い」
「1番は?」
「フレイムだ」
「そ、そっか」
「ハァァァァ‼︎」
「ガァァァッ‼︎」
ガキィン!
アギレラの爪や剣がダルセンの身体を切り刻む。
「グウゥッ!」
「残念だが、歳をとりすぎた様だな」
そう言ってアギレラはダルセンを吹き飛ばした。
「リュート!まだどこかに別の奴が潜んでいる可能性がある!警戒しておけ!」
「わ、わかった」
「コイツは俺が息の根を止めておく」
そう言って、アギレラは吹き飛んでいったダルセンに肉薄する。
「ハァァァァ‼︎」
その時、ダルセンが大きく魔力を解放した。
大量の影のような分身体が出てくる。
分身体がアギレラを殴り飛ばした。
「グアッ!」
「な、何故魔法を⁉︎」
俺は驚愕した。獣人族は魔法を使えないと聞いていたからだ。
「フフフ、我輩を侮っていたようだな……我輩は鷹の獣人族。鳥類の獣人族は魔力適正値の高い種族なのだ」
そう言ってダルセンは身を翻した。
「魔王リュートよ!じきにその命、貰い受ける!」
そう言ってダルセンはその場から忽然と消えた。
「転送魔法か⁉︎アイツそんなのも使えるのか!」
「別の術者の魔法だろうな。転送魔法はエルフでも使えるものの少ない高度な魔法だ」
魔法に詳しいフェリアが言う。
「今地味に自分のこと褒めた?」
「べ、別に、そんなつもりじゃ……」
フェリアが顔を赤くし始めた。俺はフェリアを放置してアギレラの元へと向かった。
「アギレラ、大丈夫か?」
「ああ、だが、奴ら……一体何者なのだ……?」
「今考えても仕方なかろう。情報が少な過ぎる」
『敵の目的はハッキリしているのだ、確かに警戒は必要だが、気に病む必要は無いだろう。いざという時はリュートを囮にしたらええしな』
「混ざってる混ざってる」
俺たちは敵の正体もわからないまま、カルリアに向かったのだった。
話の展開が早過ぎないか気になって昼しか眠れません(居眠り)