部屋割り
気を取り直して、アクロスを目指そう。
そんなことよりもアクアとの関係がギクシャクしてるのが問題だ。
いや、気にしてるのは俺だけなのだろう、アクアはいつも通りの態度を崩さない。
俺はそんなアクアに困惑して話しにくくなってしまったのだ。
不意に、アギレラが横に並んできた。
「どうした?リュート」
「いや、別に……」
「アクアと話しにくいのか?」
「…………」
何でわかるんだ?このオオカミ男は。
「俺もフェリアに思いを伝えられた時は、そのようなものだった。男が皆通る道だ。だが、いつまでもそんな態度を取り続けると女に愛想を尽かさせるぞ?」
「……分かってるよ……」
というかあんたらカップルはフェリアから告白したのか。
「お、おい、アギレラ!は、恥ずかしいことを言うな!」
「す、すまぬ」
全く初々しいな、新婚か。
「ねえリュート」
「な、何だっ?」
俺はアクアに声をかけられて声をうわずらせた。やはりまだ冷静にはなれない。
「年をとる薬ってないかな……?」
とんでもない事言い出した。
「お前なんてこと考えてんだよ!どんだけ結婚したいんだ!というか、ある訳無いだろ、そんなの!」
取り敢えず全力で突っ込んでおく。
「そっか……」
何で残念そうなんだよ。こんな調子で本当に大丈夫か?もう手遅れなんじゃ無いか?
まぁ、この会話のおかげでアクアとのギクシャクした感じは鳴りを潜めた。
「ところで、アクロスまでどのくらいかかる?」
「大陸の北端だからな、3ヶ月ほどかかるんじゃ無いか?」
「え、嘘」
「嘘じゃ無い。何週間か早く着くからしれんがな。やはり馬がいるな……」
『リュートとアクアは我に乗せてやる。馬は二匹調達してこい。我を怖がらん調教された馬が望ましい』
「馬が無いと流石に無理がある。近くの街で買わねば」
アクロスまで歩くのは流石に無理があるらしいので、中継地点の街で馬を購入する事にした。幸い、アギレラもフェリアも馬には乗れるらしい。
俺とアクアは勿論馬になんて乗ったこと無いからフレイムがいてくれて助かった。
「近くにタブルという街がある。そこで馬を買おう」
俺たちの目的が決まったのですぐにタブルへ向かう事にした。
「ねぇ、タブルの街までどれくらい?」
少し疲れた様子でアクアがアギレラに尋ねた。
「1週間程度だろう。フレイムに乗っていればすぐの距離だ。暇だろうが我慢しろ」
「はぁい」
「馬が無いと不便だね……」
「フレイムもずっと飛んで無いからなまるんじゃないか?」
『我はお前たちと会うまでは長いこと寝ていたぞ。あの時は久方振りに飛んだのだ。人が歩き方を忘れんように古龍種も飛び方を忘れる事はない。魔力を使って飛ぶから速度が落ちることも無い』
便利だなドラゴンは。
「1週間は長い……暇」
アクアは早速駄々をこね出す。残念だが、今日はフレイムの固い背中で寝るが良い。
「まぁ、そう言うな。何か良いことがあるかも知れないぞ?」
この時、俺はまさか本当に良いことがあるなんて思ってもみなかった。
直後、森の中からバキバキという木々の折れる音が聞こえてきた。
アギレラの耳がピクンと動き、周囲を警戒し始める。
「コレは……マズイな……」
「何が?」
「ブラッドウルフだ……」
「そっかー……」
俺は微妙な気分になりながらフェリアに視線を移した。
フェリアは俯いて俺から目を逸らしていた。
俺は意地悪く目をキラーンと光らせながら言った。
「フェリアさーん、ブラッドウルフですってー」
「ううう、何なのだ、私はもうあの時のことは反省しているじゃないか!虐めなくてもいいじゃないか!」
「ご、ごめんごめん。悪かったよ」
何か涙目で逆ギレされたので謝っておく。そりゃあ、あの時は敵だったけど今は仲間だもんな。
「でもどうせブラッドウルフだろ?さっさと倒してしまおう」
「そうもいかん、あれを見ろ」
「ん?」
アギレラの指差す方向を見るとそこには魔物が何匹もいた。
そこには馬型の魔獣もいた。
「あ、馬!」
「その通りだ。アレだけ何匹もいるという事はアレは魔獣商人に飼われていたやつが襲われて食われる寸前という事だ。アレをブラッドウルフから守り、頂く」
「馬がタダだね……」
「そういう事だ。悪いがフレイムは参加しないでくれ。馬が焼け死ぬ」
『そういう事ならば了解した』
「行くぞリュート、今回の仕事は俺とお前がメインだ」
「り、了解っ」
言うが早いが、アギレラはブラッドウルフの群れへと突っ込んでいった。
俺もアギレラに続く。
「『強化魔法』!」
身体強化を使い、ブラッドウルフの群れの首をはねていく。
後ろからはフェリアとアクアが魔法でフォロー。
割と俺たちのパーティはバランスの良い構築みたいだな。フレイムは何でもできる万能職だし。
俺とアギレラが前衛でアクアとフェリアがヒーラー兼後衛。壁がいないから、フレイムはタンクかな?
そうこうしているうちに、ブラッドウルフの群れを殲滅して馬を奪い取ったアギレラが奥から出てきた。今回も俺はあまり働いていない。
馬は3匹いた。欲しいのは二匹だったが、折角なので三匹連れて行く事にした。
「リュート、馬に乗る練習をするぞ」
「えー」
「どの道乗れんようでは将来苦労するぞ?」
「フレイムに乗れば良いじゃん」
『我は馬ではないのだ。我がおらん時でも長距離の移動が出来るようにしておくに越した事はないだろう』
「アクアはリュート程体力がないから今回はいい。だが、リュートは練習しておけ」
「……分かったよ」
アギレラとフレイムに諭されて俺は馬に乗る練習をする事になった。
しかし、これが難しい。馬になんて乗った事もないのにいきなり「乗れ」なんて言われて乗れるわけがないのだ。
しかし、9歳の膂力では乗るのが精一杯で、馬が走り出したら振り落とされる始末。《ソウルイーター》で魔力を吸収して《強化魔法》で身体を強化してしがみつくしかないのだろうか。
アギレラとフェリアは上手に乗れるので、移動は一旦中止して、俺は1日の殆どを練習に費やした。
大体1週間ほどで俺は馬を乗り回せるようになった。
アギレラは「筋がいい」とは言っていたが、どうなんだろうな。
アクアはフレイムに乗って、俺とアギレラとフェリアは馬に乗ってタブルを目指した。
普段の何倍も早く街に着くことが出来た。
---タブル---
タブルに到着した。いつも通りフレイムは森で留守番だ。
この街での当初の目的は既に達成している。本当はここで馬を買うつもりだったのだが、さっき拾ったからだ。
なのでそこまでフレイムを待たせる事も無いだろう。
アギレラは宿の前で俺たちに向かって言った。
「ここでは特にやる事はなくなった。今日は1日休んで、明日にまた出発だ」
「おっけー」
ところで気になるのは今日の部屋割りだ。
アギレラとフェリアは既に夫婦なのだ。同じ部屋で寝るのが妥当だろう。俺とアクアは何度も一緒に寝てるし、9歳だし、そんなに気にする事もないだろうから、やはりアギレラとフェリア、俺とアクアという部屋割りなのだろうか。
「主人。四人部屋はあるか?」
「ご家族で?」
「ああ、今亜人界へ帰る途中なのだ」
ご家族という設定らしい。
俺の髪の色はアギレラと同じ黒髪だが、アクアの青髪はどう説明するんだ?フェリアは銀髪だし。
まぁ、説明する必要も無いか。その辺の宿屋の店主がいちいち詮索しないよな。
「四人部屋は銀貨5枚です」
アギレラは無言で銀貨5枚を店主に差し出した。
「お前達、行くぞ」
「良かったの?アギレラ」
「何がだ?」
「フェリアと二人部屋の方が良かったんじゃ無いの?」
俺が冗談めかして言うとアギレラは顔を赤くしながら俺の頭を殴った。
「痛い……」
「ガキが余計な気を回すな!」
いろいろ説明していない設定が多いですね……