ジェイドとの別れ
「いや、全く気づかなかった。というか気づくわけないだろ!」
「あははは、ごめんね、ジェイドさん」
ジェイドは俺が魔王の息子だと知っても態度を変えなかった。俺はジェイドのそういう所も好きだ。
「ジェイドさん、ありがとうこざいました!」
俺はお辞儀をしてフレイムの背に乗った。アクアは俺の後ろから腰に手を回してくる。
「仲良くするんだぜ!達者でなぁ!」
そう言ってジェイドはブラックホースに馬車を引かせて去っていった。
ジェイドの事は忘れない。もうあの人も俺の家族だ。城と国が再興したらウチに招待しよう。今決めた。
「リュート、行くぞ」
「うん、アギレラ、フェリア、これから宜しくね」
「ああ、楽しくやろう」
「宜しく……」
『別れは済んだか?では行くぞ』
俺たち四人と一匹の新たな旅が始まった。
「お前、魔王の息子だったのか……」
「あははは、実はそうなんだ」
狼のアギレラには聞こえていたらしい。地獄耳だな。
---勇者side---
祐奈がイシュリオスの領主をぶっ飛ばしてから数週間がたった。ちょうどその頃、リュート達はジェイドと別れたところである。
祐奈は現在魔界に向かう為に、人間界の港町、バレンに向かっていた。
「疲れた……休もう?メイ」
この情けない声を出して休憩をせがんでいるのが勇者こと、佐藤祐奈である。
「お姉ちゃん、さっき休憩したところだよ?」
赤毛の猫獣人の女の子がきっぱりとした態度で応じる。
この女の子が勇者である佐藤祐奈のたった一人の従者であるメイである。
祐奈はこの獣人族の女の子に頭が上がらないのだ。
しかし、それも当然というものだ。
元々日本で女子高生をやっていた祐奈は戦闘以外では何の役にも立たないのだから。勇者の欠点を殆ど一人で補えるメイは非常に優秀な従者であった。
「お願い!10分だけ!」
「……しょーがないなー、10分だけだよ……?」
なんだかんだ言って甘い従者だった。
メイの中ではバレンまでは今日中には着く計算だった。
だが、祐奈が休憩したがるので少しずつ予定がずれてしまったのだ。今日中に着くのは無理だろう。
しかし、メイは祐奈に文句を言うつもりは無かった。メイは戦えないので、いざという時に満足な戦闘能力を持っているのは祐奈だけだ。その時に祐奈が余計な怪我をするよりは、ここで休憩する方がずっとマシだ。
メイは祐奈を実の姉のように慕っていた。
その日は結局そのまま野宿をしてバレンに到着したのは次の日の昼ごろだった。
---バレン---
「ふぅ〜、やっと着いたね〜」
「本当は昨日着く予定だったんだけどね」
「うぐ……ご、ごめんね」
「べつに怒ってないよ〜、さ、宿屋探しに行こ」
「り、了解っ」
勇者が完全に従者の尻に敷かれている気がするが気のせいだろう。
祐奈達はまず宿屋に行くことにした。
鍵付き風呂付きご飯付きの所が望ましい。道中に何度か人助けをして謝礼を貰っているのでお金は割と持っているのだ。
鍵付き風呂付きご飯付きの宿ならだいたい一泊銀貨3枚の所が多い。所によっては4枚。
少し割高だが、女子のみの泊まりなので必要な事なのだ。必ずしも食事が付いている必要はないが。
その日の夜、祐奈とメイは食事をしながら今後のことを話し合っていた。
「今日は泊まって、明日朝一で港に行こう」
「魔界って今荒れてるらしいよ?」
現在、魔王が倒され、魔界の治安は荒れに荒れているのだ。威光の象徴であった魔王城も粉々に破壊されてしまっていてはそれも仕方が無いというものだ。
「ほうらひいねー」
祐奈が口をモゴモゴさせながら答える。
「お姉ちゃん、行儀悪いよ」
「むぐむぐ……ごくん。でも魔王は生きてるらしいよ?」
「でも……魔王城も無いのに、魔王が何処にいるか分かるの?」
「さぁ……」
「え」
祐奈は楽観した様子で水をあおった。
「まぁ、何とかなるよ……多分」
「そんなんで大丈夫なの……?」
「どのみち魔王を倒さないといけないんだし、気楽に行こうよ」
「お姉ちゃんがそれでいいなら、良いけど……」
相変わらず呑気な性格の勇者であった。
その日は久し振りにふかふかの布団で寝れたので二人はすぐにぐっすりと眠った。
しかし、いつもよりふかふかというだけで、むしろ普通より綿は抜け気味な布団だった。しかし、二人は満足していた。
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翌日、二人は朝食を食べて直ぐに港へ向かった。
しかし、船が殆どない。
不審に思った祐奈は港にいた壮年の男性に話を聞いてみた。
「ああ?魔界ぃ?今は魔界には船は行けねえよ、魔法で蜂の巣にされちまう」
「「え」」
つまりはそういうことである。
人間界と魔界は国交が断裂状態で、人間族の船が領土内に入ってきたら問答無用で死刑だそうだ。
しかし、人間界から船で魔界に行けないとなると非常に面倒なことになる。
なにせ、陸路を使うのなら妖精界、竜人界、亜人界を渡って魔界まで行かねばならないからだ。
確かに船の絵でなければ蜂の巣にはされないだろうし、撃退も容易いが……あまりに遠い。
「嘘でしょ……?歩いて魔界まで行くの?一体何年かかるのやら……」
いくら呑気な祐奈といえどこれは流石にあんまりだった。
しかも1番危険な大陸と言われている魔境、竜人界を通らねばならないのだ。
「メイ、どうしようか……」
「う、ど、どうしよう……」
二人は頭を抱えた。
『チート能力者達の異世界生活』という作品も書いてます。良ければそっちもよろしくお願いします