別れと暴露
翌日
俺は朝早く目が覚めた。
隣には昨日並んで寝たはずのジェイドもアギレラもいなかった。二人とも朝早そうだもんな。
俺は苦笑しながら立ち上がり、窓の外を見た。
ジェイドは外で荷物をまとめ、アギレラは剣を振っていた。アギレラは見た目通り鍛錬を怠らない性格らしい。
……今日でジェイドとはお別れだ。
最初からジェイドの故郷であるこの街まで一緒に旅するという約束だったのだから。
そのこと自体は領主の家に攻め込む前に覚悟はしていたが、いざ別れるとなると悲しいものだ。
ジェイドには本当に世話になった。
道に迷わずこの街まで来れたのも、毎日美味い食事にありつけたのも、旅の前に完璧に準備が出来たのも全てジェイドのおかげだ。
俺は外に出てジェイドの手伝いをする事にした。
「手伝おうか……?」
「いいや、今終わったところだ、朝飯の用意するから待ってろ」
「そっか……」
特にやることはないらしい。
仕方ないからブラブラした後部屋に戻ろうとしていたらジェイドが声をかけてきた。
「あ、じゃあ兄ちゃん。嬢ちゃんと姉ちゃんを起こしてきてくれるか?」
「う、うん」
アクアとフェリアを起こすくらいなら文字通り朝飯前だ。アクアは中々起きないが、もう慣れたものだ。
俺は女部屋の前に来てノックした。
こういうとき無断で開けたら中で着替えてるとかいうオチがあり得るから油断ならない。
しかし、返事がない。
「まだ寝てるのか……しょうがない奴だな……」
俺は女部屋の扉を開けた。
中ではフェリアが着替えていた。
俺はそっと扉を閉めた。
「きゃあああああ!」という声とともに扉が轟音とともに吹き飛んだ。魔法ぶっ放したな……この女……。
というかなんで着替えてんの⁉︎ノックしたよね⁉︎
数分後、落ち着いた様子のフェリアが出てきた。吹き飛んだ扉の代わりに出入り口にはカーテンがかかっている。
「お、おはよう、リュート」
「おはようフェリア」
正直そこまで見えてない。
下着姿は見えたけども。前世では無修正動画なんて何回も見た事あるし、実物を見てもそこまでオタオタしなかった。
俺はあまりフェリアのことを性的な目で見てないのだろう。
アクアのやつならどうだっただろうか。
でもアクアの裸なんて何回も見た事ある。やはり特に何も思わないんじゃないかな。
「取り敢えず、朝ご飯だから。呼びに来たんだ」
「そ、そうか。アクアを起こしたら行く」
「アクアはちょっとやそっとじゃ起きないよ?」
「だ、大丈夫だ、私に任せておけ」
本当に大丈夫だろうか。まぁいいか、本当に起きなかったら俺が起こせばいいし。
結局、フェリアはアクアを起こすことに成功したが、相当時間が掛かってしまった。
アクアの耳元で爆発魔法を使ったらしい。そこまでやるか。
今日のご飯がこのメンツで食べる最後の飯になるのかもしれない。
アクアは何も言わなかったが、浮かない顔だ。やはり心の片隅にはそのことが引っかかっているのかもしれない。もしくは唯寝惚けてるだけなのかもしれない。多分後者だ。
飯を食い終わってジェイドが立ち上がった。
「うし、出発するか。お前達はこれからどうするんだ?」
「俺とアクアは人間界に行ってみようと思うんだ」
「お前達の強さなら大丈夫だろうけど、遠いぞ?」
「え、でもすぐそこだったじゃん」
「魔界の港から人間界に行くのは無理だぞ?それ位知ってるだろ?」
「え?」
ええええええ‼︎嘘だろ⁉︎それを早く教えてくれよ!どうやって人間界に行くんだよ!
「どうしても人間界に行くってんなら、亜人界と龍人界と妖精界を通って人間界に行かねえとな。人間界には魔界の船は入れねえんだよ」
滅茶苦茶遠いぞそれ。俺たちだけでどうやっていくんだよそれ。フレイムに乗って行こうか。
「亜人界に行くのならそこまで同行しよう」
アギレラとフェリアが俺たちの後ろに立っていた。
「俺たちはこれから俺の故郷である亜人界に向かうんだ。そこまでなら同行できる。どうだ?お前がいればこちらも心強い」
なんと渡りに船な提案だろうか。こちらとしては願っても無い。正直フレイムがいるから大丈夫だろうが、アギレラとフェリアがいた方が良いに決まってる。
「でも、何でフェリアも亜人界に行くの?」
「いや、その……それは、つ、つまりだな……」
フェリアが端切れ悪そうにアギレラの脇腹を肘でつついた。
「む……そうだな、俺から報告しよう。別れる前には言うつもりだったからな……」
そして、アギレラはすこし溜めてから言った。
「俺たちは結婚することにしたのだ」
「へー、結婚するんだええええええ⁉︎」
あんたら結婚すんの⁉︎いつの間にフラグ立ててたの⁉︎
「結婚……フェリアとアギレラが結婚するの……?」
アクアも驚いているのかすこし前のめりだ。女の子はこの手の話題が好きなのだろう。知らんけど。
「結婚かー、良いねぇ、幸せになりなよ!」
ジェイドは素直に祝福している。
「結婚を機に、故郷に戻り、フェリアと二人で暮らそうと思ってな」
「そ、そっか……じゃあ、獣人界までよろしくお願いします……」
そして、別れの時。
別れ道に差し掛かっていた。
ジェイドは街外れの故郷の村へ、俺たちは獣人界を目指し、次の街へ。
「兄ちゃん、嬢ちゃん。二人と旅できて本当に楽しかったぜ。もう3人で旅することはねえだろうけどよ、暇があったらここに来てくれ。俺ぁ待ってるからよ」
「ジェイドさん本当にありがとうこざいました。ジェイドさんが居てくれて本当に良かった」
「ジェイドさん……ありがと……」
ジェイドは俺たちを抱きしめた。
「達者でな、ガキ共!」
「うん、ジェイドさんも元気で」
「うん、うん……」
アクアは泣いていた。この時は俺も茶かす気分にはなれなかった。
俺は泣かなかった。別れるときに男が泣いたら格好つかないからな。
アクアはジェイドさんから離れてフレイムの背中に飛び乗った。
「元気でね、ジェイドさん……!」
俺も最後に置き土産を置いて行こう。
「ジェイドさん、俺、実は今まで嘘ついてました」
「何だよ?」
「実は俺とアクアは兄妹じゃないんです」
「薄々感付いてたよ……」
ジェイドは苦笑しながら言った。しかし、驚かせるのはここからだ。
「実は俺の名字はエステリオっていうんです」
「え?」
ジェイドの周囲の空気が凍りついた。
「ジェイドさん、実は俺、魔王の息子なんです」
「えええええええええええ‼︎‼︎‼︎‼︎嘘だろ‼︎‼︎⁉︎」
分岐路にジェイドの絶叫が鳴り響いた。
アギレラとフェリアは奴隷時代にフラグ立ててました。今考えた。
次回新章開幕。