アストレア領主との戦い
狼獣人のアギレラの鋭い爪と俺の強化された手刀がぶつかり合う。
この狼っ……強い……!
さらに片手には大きな剣を携えている。まだ8歳の俺の膂力じゃあ対抗しきれない。
「うわっ!」
アギレラの蹴りが俺の腹に入った。
一瞬の内に何発もの蹴りが入っていた。
俺はなすすべなく吹き飛び、壁にめり込んだ。
「ぐふっ……」
口から血がだらだらと溢れ出てきた。
まずい……肋骨折れたかも……。
「はぁっ!」
「フェリア……お前は下がっていろ……!お前では俺には勝てんよ」
そう言って高速でフェリアの背後を取り、吹き飛ばす。
「ぐうっ!」
「魔族の少年よ……立て……。立たねばそのまま殺すまで……!」
「……殺す……?残念だけど、死ぬつもりなんて全くないよ……」
悔しいけど、この獣人……強い!何故か勇者と戦った時のような物凄い力が出ない……!
でも、俺にはまだコイツに見せていない力がある!
「《ソウルイーター》‼︎」
「フン……」
「え⁉︎」
俺がソウルイーターを発動したというのに構わず突っ込んでくる。
何故だ⁉︎
「俺は殆ど戦闘用に魔力を使わないからな……少々吸われたところで遜色なく動ける。失神する前にお前を吹き飛ばせばそれで十分だ」
クソッ……俺の能力と獣人族は相性が悪い……!どうすれば……!
「止めだ、少年よ……」
剣を振り上げてアギレラが近づいてくる。
「クソオッ!」
ドゴッ!
俺はありったけの強化魔法を一瞬だけ使いギリギリ回避した。
剣がさっきまで俺がいた場所に大穴を開けた。
死ぬところだった危ねぇ……。
その時屋敷の正面から地響きが鳴り響いた。
「む……?なんの音だ……?」
「へへへ、やっと来たか……フレイム、アクア……」
「ッ!援軍か……!」
「急いで行った方が良いんじゃないの?」
「いや、ここで貴様の息の根を止めておこう。少年よ、貴様は強かった。あとに10年年をとっていればまだ勝敗はわからなかった。」
「はぁ、はぁ……残念だけど、それは無理みたいだね」
俺はアギレラの後ろを見ながら自信満々言った。
「遅いよ……二人とも……」
そこにはフレイムとアクアがいた。
『待たせてすまなかったな……死んでへんか?』
「混ざってる……ぞ」
『今のはワザとだ。元気そうだな』
「はぁ……冗談……やめろ、元気に見えるか?」
『少し寝ていろ。直ぐに終わらせてやる』
フレイムはアクアを背中から降ろしてアギレラと向かいあった。
『覚悟は出来ているか?丸焼きと八つ裂き、どちらが良い?』
「くっ……古龍種か……」
勝てるわけが無い。古龍種というのは絶対的な力の象徴でもある。獣人族では勝てない。
『落とし前はつけさせてもらうぞ』
「いざ、参る!」
フレイムの息炎がアギレラごと一帯を焼き尽くすのに、そう時間は掛からなかった。
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俺はアクアにすっかり治療してもらい元気になっていた。
しかし、フレイムよ、お前強過ぎるだろ……俺はあんなに苦戦してたというのに。一撃かよ。
アギレラは大火傷を負っていたが、そのお陰で奴隷紋が消えていたのでアクアに治療して貰った。
元気になったアギレラはフェリアに謝罪した。
「す、すまなかったなフェリア……命令には逆らえなかったのだ……許せ」
「私は気にしていないさ、手を貸してくれるか?アギレラ」
「当然だ。共に同胞を助けよう」
アギレラが仲間になってくれのなら心強い。さっきはボコボコにされたけど、次は絶対勝つ。俺は以外と負けず嫌いなのだ。
「さっきはすまなかったな、少年」
「良いよ良いよ、俺も本気で倒そうとしてたし、お互い様だよね」
「そう言ってくれると助かるな」
アギレラは敗者は勝者に従うものという認識を持っているらしい。根っからの武人肌だ。
その後の戦闘は一方的だった。
こちらにはアギレラとフレイムがいる。勝てる奴が居るわけがない。
二人は容赦なく出てくる敵を片っ端から蹴散らして、どんどん先へと進んでいく。俺たち3人は軽く手持ち無沙汰だった。
今思ったんだけど、俺たちがやってる事って強盗と同じだな。やべえ、なんて言い訳しようか。
「そっか、フレイムを取ろうとしたから仕返ししたとかで良いじゃんか」
考えた結果こういう結論に達した。
「お前はさっきからそんなことを考えていたのか……」
フェリアが頭を抱えていたが、無視。
「リュート……頭良い、ね……」
「だぁろぉ?」
「お前が8歳じゃなかったら軽蔑している所だぞ。というかお前、本当に8歳なのか?」
ギクッ!
本当は8歳じゃなくて今年で35歳です。
「8歳だよ?何言ってるのさ……30歳の訳がないでしょ……?」
「いや、流石にそこまでは言っていないだろ。背が低いだけで13歳とかなのかと思ったのだが……30歳……?」
「いやいやいや、気のせい気のせい。まぁね、そう見えることもあるよね、でも俺は8歳だよ。あはは」
「怪しすぎるぞお前」
俺は誤魔化すのがド下手だった。
その時前方からフレイムの声がした。
『さてと、さっさと領主を縛り上げるか』
「俺に任せろ」
終わってた……。