強敵
俺達一行はその日は野宿をして、昼頃にアストレアに到着した。
さて、ここの領主を叩きのめせばいいんだな。
俺は正直、楽観していた。
アクアも普通に強いし、フェリアも強かった。殺されかけた俺が言うんだから間違いない。フレイムは言わずもがなだ。
ジェイドは控えめに言ってもあんまり強くないのでお留守番だ。ジェイドには街での拠点の都合や、組合への顔出しなどをやっておいてもらう。
「よし、行くか」
「おー……」
『我が燃やし尽くしてやる』
「加減はしてやれよ?」
俺たちは今から行く気満々だった。
「ちょっと待て、昼間から行くのは危険だ。ここは夜襲をかけよう」
「え、何で?」
「お前、相手を舐めすぎだ。用心して損な事など無いのだぞ?」
『確かに一理あるな……よかろう、作戦の立案は任せる』
「え、作戦とかは……その……考えてないというか……えと……」
「何でそこで及び腰になるんだよ」
フェリアの指示に従って、夜まで待つ事にした。
フレイムは近くの森で待っていてもらう事になった。こういう時目立つから困る。
フェリアが年頃なのでジェイドの配慮で宿は部屋を二つとった。俺とジェイド、アクアとフェリアが相部屋だ。
まぁ、アクアはフレイムと森で野宿をしたがったが。
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そして、夜。作戦決行の時間がやって来た。
まずは俺とフェリアが先陣を切る。そして、その後フレイムに乗ったアクアが特攻する。以上。
「よし、後でなアクア。行くぞ、フェリア」
「ああ」
俺たちは屋敷の裏に回って侵入する手はずだったのだが……。
「しまった!見つかったぞ!」
「えええ!嘘だろ⁉︎」
見つかるの早過ぎるだろ!
「豹の獣人族がいるんだ!奴らは夜目が利く!」
速攻で見つかってしまった。
「報告されてしまう前に倒すべきじゃないのか?」
「しかし、奴は友人なのだ……」
友達でも、主人の命令なら戦わなきゃいけないなんて……奴隷ってのは最悪だな。
「ど、どうしよう」
「だったら、さっさと中に入って中を掻き回してやろう!すぐにアクアとフレイムが来る!」
「そ、そうだな……!」
土壇場でポンコツになるのは勘弁して欲しいぞ全く。フェリアのフォローを考えて動かないとな……。
俺たちは屋敷の中に侵入した。
中には人間の警備兵が何人もいた。が、エルフと魔族の敵ではない。
俺たちはなんなく警備兵達を蹴散らし、奥へと突き進んだ。
「そろそろ来る頃だぞ……」
「まさか、妖精族や獣人族か……?」
「ああ、私の友人達だ……来たぞっ!」
前方からドワーフの女性がやって来た。
小柄で肩周りががっしりと筋肉質だが、整った顔立ちをしている。あの人も領主に手篭めにされてるんだろうか。
「フェリア……!どうして……?」
「すまない、お前達を解放するためだ……少し寝ていてくれ……!」
フェリアはドワーフの女性の首筋をトンッとナイフの持ち手で殴った。
「いたっ!」
しかし、気絶しなかった。
「そんなんで気絶する訳ないだろ!しょうがないなぁ……フェリア、魔力引っ込めて!」
ポンコツエルフの尻拭いをしなければ。もっと簡単に確実に意識を奪う方法を俺は持ってる。
「《ソウルイーター》‼︎」
相手から魔力を奪う能力、ソウルイーター。
一瞬で魔力が枯渇したドワーフの女性は意識を失った。
「す、すまない……リュート……私が不甲斐ないばかりに……」
「全く……あんなんで落ちる訳ないだろ……?緊張感が足りないんじゃ無いの?」
「く……そう言われても仕方が無いな……」
「あ、いや……そんな気にするなよ……」
言いすぎたかな……別に責めるつもりはなかったんだけど、戦闘中にあまりにポンコツだったからイライラしたのかも知れないな……。
責任感強い奴を責めるのはあまり良く無いな……。
「他にはどんな種族がいるの?」
「私の知っている限りでは、妖精族、獣人族、竜人族、魔族、人族と一揃い揃っているが……」
「成る程……参考にならないな……」
「私の友人にはドワーフと豹獣人と黒エルフと狼獣人などがいるぞ」
多分さっきからフェリアの友達ばっかり来てるところを見ると、わざと友達同士をぶつけているんだろうな。
俺たちは話しながらも歩を進めた。
「待て」
背後から太い声が響いた。
「先へは行かせんよ、フェリア」
「アギレラ……」
声の主は獣人族の男だった。耳から察するにさっき言ってた狼とだろう。
「用心しろよ、リュート。大人の獣人族は常軌を逸した身体能力を持つ。その中でも奴は一流の戦士だったのだ。二人掛かりでも相当キツイ……」
「もちろん、あれを見て気をぬくなんて出来ないよ……」
全身から強そうな不可視のオーラが立ち込めてる。前世だったら土下座してから逃げるような相手だが……今の俺は逃げない。
「行くよ……」
「いざ尋常に、参る!」
俺は獣人族の男と相対した。
「《強化魔法》‼︎」
「グルオオッ!」
屋敷の廊下から大きな激突音が鳴り響いた。