昼間の襲撃
---魔王side---
俺たちは急いで準備を整えてアリルキアを出立した。
フレイムが非常に目立つのでさっさと街から出たかったのだ。
「お前もうちょっと小さくなれないの?」
『しつこいぞお主、これ以上は無理だと言っておろう』
フレイムは龍種の特殊な力で体の大きさをある程度変化させることが出来るらしいが、家よりもデカイ奴がゾウくらいの大きさになった程度である。
小回りの利かないやつだ。
しかし、アクアはフレイムの背中がお気に召したらしくずっと乗っかっている。
フレイムも翼の棘がアクアに当たるといけないので体の側面に折りたたんでいる。
というか全身棘まみれなのによく背中に乗れるな。
アクアはずっとフレイムに乗りっぱなしで俺は馬車の荷物の上で寝転んでいるので、必然的にジェイドはブラックホースの背に乗ることになった。
現在アクアはフレイムの背中でぐっすりだ。
「コレで横にドラゴンがいなけりゃぁいつもの光景なんだがなぁ……」
ジェイドは隣でなんかしみじみしてた。そってしておこう。
いきなり「ドラゴンと旅をします」なんて言われて納得できるほど思考が柔軟な大人なんて居ないよな。
「ところで兄ちゃん、どっちがドラゴンと契約するんだい?」
「契約?」
「ああ、魔獣は契約しねえと言うこときかねえぞ?」
「成る程……そんなのかあるんだ……」
『我は契約する気など無いぞ』
「んー、じゃあ契約はしなくていいからさ、契約したら何か良いことあんの?」
正直、契約とかどうでも良かった。
このドラゴンはアクアの事を気に入ってるみたいだし、無理して言うこときかせる必要も無いからだ。
『無いな。強いて言うなら力の貸し借りが可能になる程度だが』
「何それ?」
『簡単に言うと我の力をお主が使えるようになるのだ。逆も然り』
「便利じゃん」
『だが、お主の言うこと聞くとか絶対嫌や』
「混ざってる混ざってる」
折角威厳のある口調なのに混ざったら台無しじゃないか。
ちょっと気を抜くとこうなる。
関西弁はドラゴンっぽくないから、途端に関西弁で「なんでやねーん」って喋る可愛い脳内デフォルメドラゴンが完成してしまう。
しかし、フレイムが仲間になってから荷物の運搬が格段に早くなったな。流石はドラゴン。アクアの言っていた通り、本当に楽になってドラゴンさまさまだ。
「そういえばアストレアってもう直ぐだよね?」
「そーだなー」
「アストレアってジェイドさんの故郷なんだよね?」
「そーだなー」
「ジェイドさんとはそこでお別れなんだよね?」
「そ、そーだなー……」
「今ちょっと動揺した?」
「……まぁ、フレイムもいるし兄ちゃんは強えし、大丈夫だろ」
確かに。俺が強いのはジェイドも知ってるし、フレイムなんて見るからに強そうだしな。
「でも心配だぜ。お前達はまだガキだしな」
大丈夫だと思うのと心配するのはまた違うらしい。
なんだか本当の親父みたいだ。
「まあ、そこを送り出してやるのが保護者ってもんなんだろうな……」
「もうすっかり保護者だね、ジェイドさん」
「何でだろうな……そんなに長いこといたつもりもねえのに……」
『お主ら、感傷に浸ってるところを悪いが……魔獣だ』
「「え」」
かなりの数の狼のような魔獣が出てきた。
「ブラッドウルフじゃねえか……数が多いぜ……」
野生の魔獣なんて珍しいな。
いや、旅をする上では全く珍しくも何もないのだが、今はパーティにフレイムがいるのだ。魔獣は基本的にどう考えてもかなわない相手には戦わないのだ。
つまり、ドラゴンという、魔獣の中でも最も格の高い魔獣がいる以上、普通の魔獣は出てこない。
「コイツら……もしかして飼われてんのか?」
「でも、だとしたらこの数の魔獣を飼うなんて相当な魔導士だよ……」
『我が一匹残らず焼き尽くしてやろう』
そう言うが早いがフレイムは前方の狼の群れを一瞬にして焼き殺した。
うわぁ。
「え、早くない?相手も相応に準備してきたろうに……なんか不憫だな……」
『フン……相手に合わせる義理など無いやろ』
「混ざってる混ざってる」
「おいおい、兄ちゃん、ドラゴン、アイツらまだまだ出てくるぜ……」
奥からはどんどん狼が補充されてくる。
全員が目を血走らせて走ってくる。軽くホラーな光景だ。アクアが寝てて良かった……アイツはホラーも苦手だからな……。
しかし、コレだけ居るとなるとこちらにドラゴンが居ること前提で襲ってきてる可能性が高いな……。
そう考えている間もフレイムは手際よく狼を焼いていく。ここまで来ると戦闘ではなく作業である。
しかし、フレイムは作業ゲーが好きな性格には見えない。
『あぁぁ‼︎しつこいねん!この犬っころがぁ‼︎』
ブチ切れたー!フレイムさんがブチ切れたー!
案の定というかなんというか、予想は出来ていたが。フレイムは一瞬にして狼がゾロゾロ出てくる場所を一気に焼き尽くした。
すると奥に光る円の様なものが見えた。
『む……なんだ……?』
「あれは……魔法陣……?」
そう、魔法陣的なところから狼がゾロゾロ出てくるのだ。
「フレイム!あれを!」
『わかっておるわ!』
フレイムがすかさず魔法陣を破壊する。
すると狼の出現が止まった。
「よし!」
『フン……止めを刺してやる……』
ゴオオッ!
フレイムが巨大な息炎で残党を一掃した。
「流石だな……フレイム」
『古の龍種だからな……当たり前や』
「混ざってる混ざってる」
「こいつぁ……」
「今のやつは本当の狼じゃないみたいだね……式神みたいな感じかな?」
「式神……?なんだいそいつは?」
『使い魔の事だろう』
フレイムが助け舟を出してくれた。
俺のオタ知識も役に立つのか立たんのか分からんな……墓穴を掘りかねないので黙っておこう。
『しかし、使い魔にしては少々扱いが雑いな……』
「どういう事?」
『使い魔とは本来なら、主人の魔力を糧として生まれる分身のようなもの。あの様に使い捨ての駒のような使われ方をする存在では無いのだ』
「物知りだね」
『フン……古の龍種やからな……』
「だから混ざってるって」
フレイムはふと自分の背中を振り返った。
背中ではアクアがスヤスヤと寝息を立てている。
フレイムはアクアを起こさない様に戦闘を行ったが、普通の人間なら耳元でドラゴンが息炎を吐いたら起きる。
『しかし、アクアよ……何故まだ寝とるのだ?』
「アクアは叩いても中々起きないからなー、自然と起きるのを待った方がいいよ」
『全く、ものぐさな少女だ……』
「これからも襲撃はあると考えた方がいいかもなぁ……」
「そうだね、ジェイドさん。また見張りでもしようか?」
『我がやろう。どうせ我にはそこまで睡眠は必要無い』
そうして2人と一匹が相談しているとフレイムの背中から、もぞもそとアクアが動き出した。
「……ん……皆、どうかしたの……?」
「『「いいや、何も」』」
と、同時に誤魔化したが、やはり後で事情は説明した。
テンポ良くしないとダラダラしますし、テンポ良すぎたら要約文みたいになるので小説書くのは難しいです