恐怖の前兆
先ず俺たち3人でご飯を食べに行った。
久し振りの普通の飯だ、旅の途中は保存の効く味の濃ゆいやつとか保存食とかばかり食ってたからな。
それにアクアとの約束でもある。
という訳で本日3度めの飯だ。まだ明るいのに。
適当な所に入って注文を頼む。
「嬢ちゃん、好きなもん頼んで良いぞ?」
「うん」
「ジェイドさん、お金なら持ってますから自分で出しますよ?」
「良いんだよ、俺にもガキ2人に飯食わす余裕くらいあるさ」
「ではお言葉に甘えて……」
俺は少し申し訳なかったが、子供がこれ以上食い下がるのもおかしいと思って引き下がった。
相変わらず甘々だな、このおっさん。かれこれ2週間以上一緒に居るし、情も湧くんだろうか。
アクアのやつは遠慮なんて全くせずに肉のかたまりを注文して美味しそうにかぶりついていた。
横を見るとジェイドは豆チャーハンみたいなやつを頼んでいた。俺はグリーンピースが嫌いなのでコレはあまり食べたくないな。
「兄ちゃん、遠慮なんてしなくて良いんだぜ?」
「ううん、これが良いんだ」
俺は少し申し訳なかったので安めの野菜定食だ。
確かに遠慮はしてたが、別に嫌いじゃない。
それに旅をしてたら野菜が不足しがちだからな。こういう時にバランス良く栄養を摂っておかねば。
「兄ちゃんはその辺しっかりしてんなー。栄養なんて考えたこともなかったぜ」
「ジェイドさん、病気になるよ?」
「はははは、そうかもなぁ〜」
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飯を食い終わった後は宿をとってしばらく別行動だ。
ジェイドは昔の知り合いに会いに行って準備を整えるらしい。
「俺が帰って来るまで暇だろうから街で遊んでて良いが、金は使いすぎるなよ?あと、街の外は危ないから出ちゃダメだ。あともう一つ、夕方までにはここに戻ってこい」
「オッケー、分かったよ」
「うし、じゃあ行ってくるわ」
そう言ってジェイドは部屋から出て行った。
俺とアクアは窓から顔を出してジェイドを見送った。
「よし、ちょっと行ってくる」
ジェイドがどっか行ったのを確認してから俺は宿のベッドから立ち上がった。
「……どこ行くの……?」
「ちょっとそこまで」
「……私も、行く」
そう言ってアクアはノロノロと立ち上がった。
「いや、お前はここで待ってろよ」
「やだ行く」
アクアを蒔くことも考えたがコイツを1人にするのは心配だし、アクアは身体能力が高いので蒔くのも一苦労だ。面倒臭いし連れて行くか。
「……しゃあねえな、ジェイドさんには内緒だぞ?」
「……何で?もしかして、街の外に行くの……?」
「さぁな」
1人で行くつもりだったがまぁ良いか。こう見えて俺は強いからな。
街に出てみた。
ジェイドには宿から出ることを禁止されてはいないからな。街の外には出るなと言われたが。
取り敢えず俺は近くの果物屋の人に話を聞いてみた。
「ねぇねぇ、この街人少なくない?何かあったの?」
果物屋のおっさんは鬱陶しそうに俺を見て言った。
「そんな事より何か買えよ。客じゃねえのか?」
「いや、客だよ。じゃあこれ二つ」
何か買わないと話してくれそうにない雰囲気だったので、リンゴみたいなやつを2人分買った。
「ほい、まいど」
「でさ、何かあったんでしょ?」
「ん?ああ、実はな……」
そう言って商人は話し始めた。
近くの山にドラゴンが出たらしい。簡単に言うとそれだけだ。
何で龍が出たらヤバイのかと言うと、龍種の魔獣は普通の魔獣に比べて知能が高い、魔力が多い、デカイと三拍子揃った規格外に強い魔獣なのだ。
災害指定生物とかいうのに認定されていて「普通の魔獣を見たらすぐ逃げろ、龍種を見たら諦めろ」という格言すらあるらしい。
魔獣ってあの馬も魔獣じゃん。魔獣にも色々あるんだろうけど。
で、ドラゴンとは成体になると親元から離れ独り立ちするのだ。その時に新たな住処を自力で見つけるらしいが、今回のドラゴンはこの街の近くの山を住処に選んだらしい。
それで人が減ってるのか……そりゃ嫌だよなぁ近くにドラゴンが住んでるとか……。
俺は商人にお礼を言ってその場を離れた。
案の定原因は街の外か……。
そう言えばリンゴ買ったんだった。
そう思ってアクアよ方を見やるとアクアは手に何も持っていない。
話を聞いてる間にアクアは俺の分のリンゴも食っていた。
「おい、何で俺のも食ってんだ?」
「……美味しかったから?」
「何で疑問文何だよ⁉︎」
「ご馳走様……」
「マイペース過ぎるだろ!」
まぁいい(あんま良くないけど)、人が減ってる理由はわかったが、コレはどうしようも無いよな……。
不意にアクアが俺の服の袖をクイクイ引っ張った。
「なんだよ?」
「ドラゴンってどんなの?」
「えーっと、こう……、鱗がびっしりで……デカくて、羽が生えてて……口がこう、デカくて、尖った歯がいっぱい生えててな……」
俺の拙い語彙で身振り手振りを交えながらアクアに龍を説明してみた。
俺の想像上のドラゴンだけども。
俺のイメージでは全身鱗のトカゲに羽と牙と爪と角が生えた感じだ。
「へぇ……何か良くわかんない」
「そりゃあ悪かったな。説明が下手で」
「ねぇ……見に行かない……?」
「街の外はダメだってジェイドさんが言ってたけど?」
「ちょっとだけ」
「……まぁ、見るだけなら……良いよな……」
今思えばジェイドは飯屋にて龍がいる事を既に知っていたのだろうか。
俺たちは好奇心に負けてしまいジェイドとの約束を破ってしまったのだった。
俺は自分の力を過信していた。
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俺たちは街の近くの山に来ていた。
「ここに、ドラゴンが居るの……?」
「らしいけど」
ドラゴンが出たら普通の魔獣は恐れをなしてどこかに逃げるらしい。つまり、道中に危険は無いということだ。
「やっぱり頂上に居るんだろうか?」
「早く行こう……」
「おう」
俺たちはどんどん山を登った。
俺たちは魔族だ。
この程度の山で疲れたりなんかしない。ほぼノンストップで頂上まで登りきった。
が、ドラゴンは居なかった。
「あれ?何で?」
「……居ない、ね」
「無駄足か……?」
「あのおじさん、嘘ついてたのかな……」
「いや、だとしたら人が少ないのに理由が無いだろう。ドラゴンは本当に居るはずなんだ……」
その時俺たちの頭上が突然暗くなった。
「ま、まさか…………」
俺は口の端を引き攣らせながら上を見上げた。
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