しばしの別れ
投稿遅れてほんっとに申し訳ない
俺が部屋に入るとき、ジンが小さく耳打ちして来た。
『私の事は誰にも言うなよ?』
「言わねえよ。つーかジンが話しかけて来るのかと思ったらお前かよ!」
『では、ジン。何かあったら私を呼ぶのだぞ?』
「……うん。ありがとう……おじちゃん」
ジンが元気よく返事をしたところでカザマの気配は消えた。
「お前も大変だな、ジン」
「……ううん、おじちゃんとお話しするの……楽しいよ?」
「そっか」
俺は短く返事をしてドアを開け、アクアとエマの元へと戻るのだった。
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一応これで魔界の一件は片付いたわけだ。
だが、俺にはまだやることが残っている。
そう、ジルとメイの事だ。
あの二人は一人息子であるアルバを置いてどこかへ消えてしまったのだ。
その消息の捜索はジルの従兄弟であるザインと祐奈達に任せていた。
そして、今祐奈が人間界へと向かっている。
「人間界……か……」
「……リュート、人間界に行くの……?」
「あぁ、ジル達を助けに行く。どうやらややこしい事になってるらしい……」
「ユウナ達の事も……守ってあげて……?」
「当たり前だろ。みんな助けるさ」
ようやく魔界での出来事もひと段落だ。これからすぐにでも人間界に向かう事になるだろう。
と、その時、俺に音信魔法がかかって来た。相手はリーシャだ。
『リュート!今すぐ経路を繋ぐわ!早く妖精界に戻って来なさい!』
「な、何があったんだ?」
『ジルとメイの正確な居場所が判明したわ!』
「マジかよ……、何処だ!?」
『人間界なのは合ってたんだけど……実は……』
「何だと……」
俺は細かい居場所を聞くと驚愕し、一瞬呆然とした。
今すぐ向かわなければ、祐奈なら力尽くでやりかねない。
「分かった、すぐに向かう。フェリアに門の用意を頼んでくれ。アリスに頼めば何とかなるだろう」
フェリアは優秀な魔導師だ。そして、それはアリスも同様だ。
アリスならばフェリアと協力していち早く魔界と妖精界を繋ぐことができるだろう。
「取り敢えず妖精界に戻るか……一応事情は話しておかないとな……」
俺はアクアと部下達を集めるようアスタに言付ける。
「アスタ、すぐに全員集めろ」
「了解っす!」
アスタが視界から消えたことを確認し、俺はすぐに自室へと戻るのだった。
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俺は全員を広間に集めて事情を手短に説明した。
「って訳でだ、アリス。ここと妖精界を繋げてくれ。出来るな?」
「お任せを」
アリスは頷くとすぐさま作業に取り掛かる る様だ。
「ゼクス、お前達は魔界を頼む。お手の物だろ?」
「構わんが、また行方をくらましたりしたらこの国を乗っ取るぞ」
「好きにしろ」
「魔王様!この者達にこの国を任せるおつもりですか!?」
勿論ルシファーが噛み付いてくるのも予測済みだ。それに、さっき仲間になったばかりのゼクス達を突然信用などできるはずもない。
打開策は用意してある。
「ルシファー、残ってゼクス達の監視を頼む」
「し、しかし……私には貴方様をお守りすると言う使命が……!」
「頼む。ルシファー」
「……はい、分かりました」
不服そうではあるが、ルシファーは頷いてくれた。
「アスタ、マキナ、ベル。お前達は俺と来い」
「了解っす!」
『了解』
「承知」
3人は思い思いに頷く。
アスタはニヤニヤし始めたしマキナはあからさまにテンション上がって煙を吹き出した。
「おいコラ、遠足じゃねぇんだぞ」
「何言ってんすかリュート様!俺はリュート様と一緒に行けるのが嬉しいんすよ!」
『マスターはすぐ私達を置いていこうとする。私達がいた方が良い』
「リュート様……一応このバカは私が抑える……出来る限り」
「すまん、頼むぞベル」
アスタの舵取りはベルに任せて俺は人間界へと向かうとしよう。
「リュート」
「ん?」
その時、徐にアクアが俺の服の裾を軽く引っ張った。
どこか思いつめた顔をしている。
「私も行く」
「……それは……」
「絶対行く」
「で、でもよ……子供達はどうするんだよ?」
「置いて行く。お母さんに面倒見てもらう」
「あ、危ないぞ……?」
「知ってる」
俺は少し考える。どうにかしてアクアをおいてはいけないだろうか、と。
だが、アクアの目を見ているととてもじゃないが置いていけそうにない。
「……分かったよ」
「……リュート。私、いつもお留守番してる。偶には一緒に行きたい。貴方と戦いたい。私、お姫様なんかじゃない」
アクアはずっと不満に思っていたのだ。家で俺を待つことを。
俺が危ない事をしているのに1人で安全なところにいることが気に入らなかったのだ。
「分かった。一緒に行こう」
俺はそう、小さく言った。
本当は連れて行きたくない。
誰よりも大切な人なのだ。危ない目にあって欲しくない。
だが、それはアクアも同じなのだとたった今気がついた。
「話はまとまりましたか?魔法陣の準備が完了いたしました。いつでも転送が可能です」
その時、アリスが丁度役目を終えたらしい。
アリスは母親の表情になりアクアの手を取った。
「貴方は貴方のすべき事をして来なさい。ジン様とエマ様の世話は私がやります」
「……ありがとう。お母さん」
「私は貴方の母親ですから、娘にワガママを言わせてあげたいのは親心でしょう?」
「…………」
アクアは無言でアリスを抱きしめた。
もう言葉はいらないとでも言うかのように。
「……行ってきます」
「ええ、無事に帰ってきなさい。それ以外に言う言葉はありません」
「……うん」
短く答えるとアクアは俺の隣へと戻ってきて俺の顔を見つめた。
アリスが抱いている双子、俺とアクアの子供達、ジンとエマがこちらをつぶらな瞳で見つめている。
「ジン、エマ……。パパとママはちょっと用事があるんだ。すぐ帰ってくるから良い子にしてるんだぞ?」
「……ごめんね……、ママ……どうしても行きたいの」
ジンはまるで分かったとでも言うかのようにコクリと頷いた。
だが、エマは嫌だとぐずり始めた。
「やだぁぁぁ……ママと一緒にいるぅうう……!」
「エマ……」
大泣きするエマをアリスが優しく抱きしめる。
「大丈夫。子供は少ししたら泣き止みます。2人は早く行きなさい」
「えま……、なかないで」
ジンがエマの頭を優しく撫でた。
ジンもお兄さんらしいところを見せるようになっているのだ。まだ3歳だと言うのに、大人びた子だ。
エマの鳴き声を背に受けながら俺は魔法陣の中へ足を踏み入れる。
「……いこ?」
「あぁ……、行くぞ」
次の瞬間、周囲の景色が真っ白に染まった。
去年に時間遡行したい。




