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転生魔王の異世界征服  作者: 星川 佑太郎
十一章 魔界編 其の二
216/220

処分

はははっ、上司め!俺はトイレにいるぞ!


その時、声がした。


それはとても聞き覚えがあり、そして俺の心を掻き立てるものだった。


「リュートくん、ご無沙汰だね〜」

「ローグ……ッ!」


そう、俺の第二の人生の最大の敵であるローグが目の前の空間にフワフワと浮かんでいたのだ。

ギロリと睨みつけるが、俺は体に力が入らない。

ローグはニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべながら俺の身体を舐めるように眺め回す。


「傷だらけだね〜。ま、僕の兵士を倒したのは褒めてあげるよ」

「全く嬉しくないな。それに、ゼクスはお前の兵隊じゃねぇ」

「あはは、久しぶりに会ったんだからつもり話もあるでしょ?」

「ない」


俺としてはさっさと何処かへ行って欲しかったのだが、ローグは面白がって笑っている。

しかし、突然ローグは笑みを消した。


「君は僕が力を分け与えたゼクスを倒したんだし、僕からお礼をしてあげたいところだけど……」


ローグは言葉を切るとまたニヤニヤと笑い始めた。

気持ち悪い奴だ。


「ま、細かい事はいいや。それに、今の君を殺しても面白くないしね。どうせならもっと絶望した顔を見て見たいよ」

「趣味の悪いこって……」


俺は吐き捨てるように言った。

だが、今俺を殺さないというのは好都合だ。


「今度は何しにきたんだ?用が済んだら帰れ」

「うんうん、用って程でもないんだけどね?君がゼクスを倒したからご褒美をあげようと思ってさ!そうだねぇ……あ、じゃあ何か質問に答えてあげるよ!何かないかな〜?」

「質問……?」


コイツの気まぐれは今に始まった事ではないが、これは極めつきだな。

俺を殺したい程恨んでた筈なのになんだこの手のひら返しは。

嘘をついている可能性がかなり高いが、もし正直に真実を話すと言うのなら儲けものだ。


「お前、何が目的なんだ?」


これが最大の疑問だった。

幾ら何でも自分が暇だから、面白いから、以外の理由があるのでは無いかと思ったのだ。

だが、実際に「暇だから」と答えられる可能性は高い。ローグはそういう奴だ。


だが、ローグは俺の予想とは裏腹に、いたって真面目な顔で、低い声でつぶやくように答えた。


「世界の破壊さ」


俺は絶句して小さな声を絞り出す。


「は、破壊……だと……?」

「そ、この世界をバラバラにして全部白紙にしてやるのさ」


まるでローグは何でも無いことのように言い放つ。

そう、まるで気に入らないおもちゃをゴミ箱に捨てるとでも言いたげな表情で。


「な、何でそんな事するんだ……、本当に世界を破壊するのが目的なのか?」

「そうだよ?僕はこの世界を全部壊す。理由なら簡単さ、気に入らないんだよ。全てがね。質問はそれだけかい?」

「お前は、俺をどうしたいんだ?何故、俺なんだ……?」

「別に、君の役目はもう終わってる。僕の中ではね」


ローグはニヤリと笑いながら大きく空へと飛び上がった。

質問の内容に性格な答えを返さなかったな。はぐらかされたのか?


「良いこと教えてあげるよ、リュートくん」

「あ……?」


ローグはそう言うと一瞬で俺の目の前まで接近し、俺にだけ聞こえるように耳元で小さく呟いた。


「君の息子の……ジンくんね。君と同じだよ(・・・・・・)

「!?」

「じゃあね〜」


そしてローグはその場から忽然と姿を消した。

俺は血の気が引く思いだった。


俺と……同じだと……?


「魔王様?如何なさいましたか?最後ローグ様は一体何を……?」

「いや……何でもない……。戻ろう……」


俺と同じ。


それは、ジンが転生者であると言うことなのだろうか。

真実は城へ戻るまで確かめる事はできない。


---


「リュート様!」


城へと帰還するとアリス達が待っていた。

アクアと子供達も一緒だ。


「……リュート。おかえり……」

「た、ただいま……。ちょっと怪我しちまった……まぁ時期に治るけどな」

「……バカ」


アクアは俺を抱きついて胸に顔を埋めた。

俺は血で汚れた手でアクアを撫でるのもどうかと思った。

だが、アクアはそんな事はどうでも良いらしい。と言うか俺の腹部にはさっきまで大穴が開いていたので血塗れだ。

せっかくアクアが綺麗な服を着ていたのに血でドロドロになってしまった。


「……リュート。血なんかどうでも良いから……抱きしめて欲しい」

「……分かった」


アクアは少し震えていた。

それでも気丈に振る舞っている。

だからこそ、俺はその不安を解消させてやるためにも力強く抱きしめた。


「……少し苦しい」

「すまん、やり過ぎたか……」

「……良い、もっと」


そういうとアクアはまるで子供の頃ように目を細めて俺の胸に再度顔を埋める。


アクアの体温を感じてようやく俺は実感した。とりあえずこの一件が片付いた事を。


---


後日、ゼクス達は俺の目の前で跪いて……はいなかった。

不敵な表情で俺の目の前で腕を組んで仁王立ちしていた。


一応戦争で俺に敗北し、軍門に下ると言う事なので公式に宣言するらしいのだが、当の本人がこの態度である。


「ゼクス!魔王様の御前で何だその態度は!」

「王よ……どうか許可を頂けませぬか……!あの無礼者供の素っ首跳ねて参りましょう!」

「まぁまぁ、2人とも抑えるっすよ。リュート様がオッケーする訳無いじゃないっすか……」

「アスタ、そのまま2人を抑えてろ」

「了解っす!」


唯一理解のあるアスタが2人を抑える。

アスタも真っ先に怒り狂うタイプだと思っていたが、俺と長い事一緒にいるだけあって俺の考えがある程度わかるようだ。

ルシファーは忠誠心が異常に高いので仕方がないだろう。


「さて、ゼクス。お前は俺に負けた訳だ」

「あぁ、負けた」


俺の言葉にゼクスは噛みしめるように言った。

負けた事をゼクスの後ろにいるアザゼル達も受け止めているのだろう。


「で、お前は俺の部下になる訳だが、異論はあるか?」

「無いさ。だが、俺の出した条件は確実に飲んでもらうぞ?」

「分かってるさ、約束する」


ゼクスが魔界の政治を取り仕切り、俺に忠誠を誓う条件として「新政権派軍の権利の保障」とそしてもう一つ、「2度と魔界を捨てるな」という事だ。

二つとも俺は言われなくともやるつもりだったが。


「新政権派軍はある程度罰は受けてもらうが、不当には扱わないと誓う。それで、後ろの三人はどうするのかな……?」


俺は何気ない仕草でゼクスの後ろに立っている三人の魔族に目をやった。

メフィストフェレス、アザゼル、ファルファレルロの三人だ。今思ったんだが名前長いな。


「魔王、リュート・エステリオ。貴様に忠誠を誓う訳にはいかない。俺の主人はゼクス・バアルだからな。だが、主人が貴様に忠誠を誓うのなら、俺も貴様の為に尽くす事を誓う」

「私はもともとゼクス様に恩義のある身故、ゼクス様の意向に従うまでですぞ」

「ワタシは難しいこと分かんないけどアザゼルがオマエについていくって言うからついていくぞ!」


三人の言葉に俺は満足だった。

いきなり俺に忠誠を誓ってくるよりも余程信用出来る。

この三人のゼクスに対する思いは紛れもなく本物だ。だからこそ信頼できる。


「よし、じゃあ細かいことはこれで終わりだな」

「で・す・が!まだ終わってませんよ、魔王様。幾ら何でも主犯のこの4人に何の罰も無しでは示しがつきませんので!」


さっきから俺がずっと帰りたそうにしているのを見たからか、ルシファーが少し焦り気味に食いついてきた。


「罰って言ったって……死刑は無しだぞ?」


そもそも罰なんてどうしたらいいんだ?


「と言うわけでだ、ゼクス・バアル。貴様への罰は私が下す」

「「何故貴様なのだ!」」


メフィストフェレスとナヘマーが同時に叫んだ。


「魔王でも無い貴様が罰を下すなどお門違いにも程がある!」

「何故貴様なのだルシファー!その役目はどう考えても私だろう!」

「あーはいはい!お前ら黙れ!俺がやればいいんだな?やるから黙れ!」


取り敢えず玉座の間がどんどん騒がしくなっていくので一旦納める。

しかし、罰なんて考え付かないな。

俺はもともと日本人なんだ。死刑以外の罰なんて禁固刑とか罰金ぐらいしか思い浮かばないぞ。


「じゃあ、罰金かな」

「罰金……でございますか……?」

「おう。ゼクスの家……バアル家の財産を寄越せ。それでいいだろ」


俺は後頭部をガリガリかきながら面倒臭げに言う。

と言うか普通に面倒だし罰金でいいや、ぐらいの感覚だ。俗に言うお家お取りつぶしだな。


「家を捨てろと?」

「いや?別にバアルの名は好きに名乗ったらいい。でも色々と金がかかるんだよな……お前が暴れたから」

「うぐ……っ!」

「だから、資金を寄越せと言っている。まぁ生活に支障が出ない範囲でいいからさ。ルシファーはコレで良いと思うか?」

「ま、まぁ……魔王様がそう仰るのなら……」


お金がないのは困りものだ。

それに、この問題がゼクスの家から金を徴収したところで何か変わるのだろうか。


「分かった。了承しよう」

「良いのですかな?ゼクス様。バアル家の財産といえば国家予算に相当するほどにあると存じますぞ?」


アザゼルの言葉に俺は両の目をひん剥いた。


「そんなにあるのか⁉︎おいおい、今知ったぞ……そんなこと……」

「やはり知らずに仰っていたのですか……」

「俺は貴様が姿を消していた約十年間国家元首を務めていたのだ。金なら腐る程ある」

「うぉ……マジかよ……」


資金の見通しがついたところで今回の一件の尻拭いも終了した。

ルシファーは目下の心配事がひとつ減ったことで少し安心したように見えた。


「俺の財産とは別に国家の金もある。其処をうまくやりくりすれば何とかなるだろう。俺に任せておけ、魔王」

「あぁ、頼むぜ、ゼクス」

「魔王様、私が一応監視しておきます」


ルシファーはまだゼクス達が信用出来ないらしい。

王の側近なのだからそれぐらい疑り深い方がいいのかもしれないので俺もゴチャゴチャ言うのはやめておく。


「ま、好きにしろよ。つーか今はゼクスってどんぐらいの強さなんだ?」

「さぁな。だが、既に俺に神の力はない。ルシファーと戦って勝てるとは思わんな」


それだけ言い残すとゼクスは踵を返した。


「では、俺は席を外すぞ、魔王。アザゼル、ファル、メフィスト、行くぞ」

「はっ」


メフィストフェレスがすぐさまゼクスの後を追う。自室へ向かったのだろう。

だが、アザゼルとファルファレルロはすぐには出ていかなかった。


「リュート様。ゼクス様への温情……感謝致しますぞ。彼の方は私の命の恩人です故、死なすわけにはいかぬのです」

「ワタシもなー、ゼクスの事は結構スキなのだ。アザゼルとお団子の次ぐらいにスキなのだ」

「ファルファレルロ、せめて団子よりは上に見て欲しいですぞ。私の主人ですからな」

「何だ、ファルファレルロはゼクスの部下じゃないのか?」

「建前は部下ですが、ファルファレルロはゼクス様に絶対の忠誠を誓っているわけではありませんぞ。私の友人でして、昔から目をかけてくれておるのです」

「そうそう!ワタシはアザゼルの事が大スキだからな!しょーがないから力を貸してやってるのだ」


ファルファレルロがアザゼルに好き好きオーラを放っているのにアザゼルは華麗にスルーである。

ファルファレルロ的にはそれすらも大好きな要因らしい。よく分からんが。

ファルファレルロは別にゼクスの部下じゃなくてアザゼルの友達だそうだ。だからと言って現状が変わるわけではないのだが。


「では、リュート様。我々も失礼致しますぞ。ゼクス様を待たせると面倒ですからな」

「そうそう!アイツ短気なんだよなー。ね、アザゼル。アザゼルもそう思う?」

「私の口からは何とも言えませんな」

「やっぱ短気だよなー。短気は損気ってコトバがあるのにな!」

「この世界って結構そう言うことわざとかあるんだな……」


俺は嘆息しながら椅子に腰を下ろした。

一応適当ながらも処分を決定し、政治とかの面倒な事柄をルシファーとゼクスに丸投げした。俺の仕事はひと段落だろう。


さて、後はローグの言葉の真意を確かめる必要があるな。

土曜日が休みだった昔が懐かしい

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