魔王、光臨す
次の瞬間、俺の超強化された拳がゼクスの腹部を抉った。
『ごぶっ……!』
「フン……ッ!」
更にそこから力を加え、殴り抜く。
『貴様……ッ!』
「こっちだぞ」
高速でゼクスの背後に回り、更に拳打を浴びせる。
『ぐぅあっ!何故、何故だ!私は神の力を……!』
「黙りやがれッ!」
『魔王光臨』は長続きする魔法じゃない。
俺の魔力は『魂喰』のおかげで無限にあるが、体力はそうはいかない。
無尽蔵の魔力、無敵の再生能力、龍の血による過負荷。それが会っても限界はいずれ訪れる。
だからこそ短期決戦で一気に決着をつけるべきだ。
だが、それが出来ない。
唯の魔族であるはずのゼクスがこれほどまでに力を得ているというのは明らかに異常だ。
やはり神とやらはローグの事なのだろうか。
『調子に乗るなぁッ!』
「くっ!」
考え事をしているとゼクスの鋭い拳が俺の右頬を掠めた。
何とか回避することができたが、考え事をしながら勝てるような男じゃないことは明らかだ。気を抜いていては負けてしまう。
ゼクスは神の力を持っているのだ。それに『魔王光臨』のせいで長期戦になれば成る程俺が不利になる。
「やっぱり悠長にはしてられねぇな……。はあぁぁぁぁぁ!」
俺は魔力を一気に放出し、周囲の地形に干渉する。
雷魔法によって一気にブーストをかけ、更にそれに通常の強化魔法を上乗せするのだ。
「吹っ飛びやがれぇッ!」
『うおおおおおおお!私も負けられんのだ……!負けられんのだッ!』
なんと、あの圧倒的不利な体制から、俺の拳の周囲へとゼクスが雷を発生させ、俺を吹き飛ばしたのだ。
「しぶとい野郎だ!」
『もう後先など考えん……!貴様を殺すことだけを考えて戦おう……』
「まるでさっきまで加減してたみてえな言い方だな……」
『その通りだ』
その瞬間、ゼクスは目の前から消えた。
「がぁあッ!?」
『鈍いな、リュート』
「巫山戯ろッ!」
俺はすかさず腕を振り抜くが、虚空を薙いだだけだった。
「ちっ!」
『フフフ、最初からこうしておけば良かったのだ。それで全てが終わっていたのだ!』
「魔王様!」
『貴様らはそこで指をくわえているが良い!』
「がっ⁉︎」
俺の姿を見て、こちらへ向かおうとした部下たちをゼクスが雷魔法の糸で縛り上げた。
バチバチと火花をあげながら締め上げるように四人を拘束している。
こうなったらさっきよりも強化を重ね掛けして一瞬で決めるしかねぇ……。
「だったら俺も、後先考えずにやってやろうじゃねぇか!」
『それは出来んぞ、リュート・エステリオ!』
「なっ……!」
俺が溜め込んだ魔力を全て解放しようとした時、ゼクスの雷魔法が俺を包み込んだ。
それはまるで蜘蛛の糸のような形をとっていた。
そう、先ほどルシファー達を拘束したものと同質のものだ。
しかし、その耐久力は段違いに高い。
「しまっ……!」
『気付いた時にはもう遅い。俺の雷の網は蜘蛛の糸のように貴様の体を拘束する!』
「畜生……!」
『先ずはそのうるさい口を閉じて貰おうか!』
「がああああぁぁぁぁぁ!」
次の瞬間、俺の全身に浴びたことも無い程の威力を持った電撃が駆け巡った。
俺の体内を全て破壊し尽くす、そんな意図の見える破壊の雷。
だが、残念ながら俺は不死身だ。
「そんな……もんか……よ……!」
『減らず口を……ッ!ならばもっと強くしてやろう!』
「ぐっ!ぐあああああぁぁぁぁぁ!」
「魔王様アッ!」
俺の叫びに耐えきれなくなったのか、ルシファーが叫ぶ。
しかし、ルシファー達も動くことすら出来ない。
これが神の力か……。全く圧倒的だ。そも雲の上に住んでいるようなバケモノ相手に俺たちが太刀打ちできるはずがなかったのだ。
「だからって……!諦められるかよ……!あんなクソ野郎に……、好き勝手されて……黙ってられるかよ……ッ!」
『貴様……まだそれだけ喋る力が残っていたか……』
「お前達……!ちょっと加減出来ねぇから……先に謝っとくぞ……。悪いな……」
俺は小さな声でつぶやくように呼びかけた。
しかし、俺のそんな小さな声でもルシファー達には確かに届いていた。
「魔王様……!我が全てはあなた様のもの。魔王様の御心のままに……!」
『マスター。私はマスターの所有物であり、戦闘兵器。マスターの決定に従う』
「我が王よ!私は貴方のために命すら差し出すと決めた身!全ては我が王、貴方のために!」
「リュート様!俺の命なんて遠慮なく使って下さいっす!リュート様のために死ねるなら本望っすよ!」
四人は口々にそう言った。
さてと、一個言うことがあるな。
「命まで取るか!アホども!そこで黙って見てろ……。今からこのクソ馬鹿野郎をぶっ飛ばしてさっさと城に帰るぞ!」
「「「『はい!』」」」
4人の唱和を聞いた俺は満足げに頷くと、一気に魔力を解放し、叫んだ。
「『魂喰』!」
ズズズズ……という鈍い音を響かせながら俺は周囲の全てから魔力を奪う。
そう、全てから。
空気中に漂う微量の魔力、大地や草木の持つ魔力、そしてルシファー達の持つ膨大な魔力。
更に、普段よりも広範囲から魔力を徴収する。
そして、果てには目の前のゼクスからも奪う。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
『くっ!させるものか!止まれ!止まるのだ!』
「今更止められるとでも思ってんのか……?止まんねぇよ。もう誰にも止められねえんだ……!」
ゼクスが俺の目論見を阻止せんと無数の雷魔法を打ち込む。
俺の体には大穴が開き、肉の焦げるすえた匂いが周囲に充満した。
更に、破壊されたそばから俺の体は再生を開始。それは異常な速度だった。
当然だ。現在の俺は周囲から絶えず魔力を徴収しているのだから。しかも、それは膨大な量だ。人が1人でもっていい量では無い。
『無駄だ!もう遅い!』
「無駄なのはテメェの方だ!」
俺の全身から発する異常な量の魔力は周囲の全ての命を奪っていく。
それは魔力というより『瘴気』とでも言えるようなものだった。
「うおおおおおおおああああああああああ!!!」
メキメキと音を立てながら俺は雷魔法の拘束魔法を破壊しようと力を込める。
『コイツ!力尽くで破壊するつもりか!』
「邪魔すんじゃねぇえええッ!」
『くっ!貴様ァァァアァッ!』
「があああああああああぁぁぁ!」
そして、拘束が解かれた。
バキンッ!
『この男……私の拘束魔法を力尽くで……』
「はぁ……はぁ……、どうだ……!」
『だが、貴様は疲労困憊だな。私の敵では無い!』
「バカが……!今ので完全燃焼してたらそりゃテメェの勝ちだろうよ。だがな、俺はまだまだピンピンしてるんだぜ!」
そう、俺の全身からは魔力が漏れ出すほどにあり余っている。
これだけあればなんでもできる。
「うおおおおおおお!!!」
『なっ!』
俺は知覚すらままならない程の速度で接近し、ゼクスの顔面に痛烈に拳をぶち当てた。
ゴギッ!と鈍い音を立てながら拳へ衝撃が伝わり、ゼクスは弾丸のように吹き飛んだ。
『ごはぁっ!』
「立て。ゼクス。ここでお前の目論見を全て潰す!」
『調子に乗るなよ……!リュート・エステリオッ!』
ゼクスの怨嗟に染まった瞳が俺を射抜くように見据えた。
投稿遅れてすみません。
次話は一週間以内には上げます。今日から少し休みがもらえたので執筆頑張ります




