二人への命令
「他愛ないな……。どうだ、私のこの働き……!コレは我が王からお褒めの言葉を頂けるに違いない!そうなればこの私こそが彼の王の最たる部下となれる!ふはははははははは!ルシファーよ!貴様の地位が揺らぐのも時間の問題だ!」
ナヘマーは一人で高笑いをしていた。
しかし、ナヘマーの心情とは真逆に、周囲の景色は破壊に彩られていた。
なんと、ナヘマーを中心に隕石が落下したかのようにクレーターが出来上がっていたのだ。
そして、それはナヘマーの眼前に倒れているアザゼルにも同じことが言えた。
「ぐ……!わ、私の防壁が……!」
「む、まだ息があったか。詰めが甘くてはいかん。我が王からお叱りを受けるやもしれんからな。息の根を止めろとは言われていないが、今は自己判断を下すべき状況だろう。大事をとって息の根を止めておこう」
「なっ…………!?」
ナヘマーは冷静にそう呟くと大仰な仕草でゆっくりとアザゼルに近づいて言った。
動作そのものは途轍もなくわざとらしいが、逃がすつもりは全くないらしい。
ナヘマーの放つ重圧にアザゼルはその場から動くことすらできなかった。
「と、言うのは嘘だ」
ナヘマーは徐に拘束魔法を使い、アザゼルをキツめに縛り上げた。
「こ、殺さないのですかな……?」
驚きに両目を見開くアザゼル。
ナヘマーはその言葉にしれっと言い放った。
「ふむ、我が王は大変心優しきお方だ。貴様の命を私が奪うと彼の方はお気になさるだろう。それを避けるためよ。言うなればこれも我が王の為と言うわけだ。運が良かったな」
「リュート様が……。ば、バカな……!私たちは裏切り者。即刻首を刎ねるべきですぞ!何故!」
「だから、我が王の為だと言っている。すでに我が軍の勝利は堅い。何故ならこの私、ナヘマーが居るからだ。貴様如きが生きていようがいまいが今更関係ないのだ!」
ナヘマーは言いながら手際よくアザゼルを担ぎ上げ、自軍の元へと戻り始めた。
「さてと、アザゼルほどの男を捕虜にしたとあっては我が王からお褒めの言葉を頂ける……!コレは間違いない!むふふふふふふ
ふ……!」
「なんですかな、この男……こんなに気持ち悪かったですかな……?」
少しばかり気持ち悪い動作が続いたのでそれを近くで見せられ続けたアザゼルは青い顔をし、舌を出して吐くフリをした。
しかし、アザゼルのその顔はナヘマーには見えることはなかった。
---ルシファーside---
その時、ルシファーはファルファレルロと一対一で向かい合っていた。
「今度こそ決着をつけよう、ファルファレルロ」
「ワタシはこの前オマエを舐めてたかも知んない。だから……今回は最初から本気出す!行け!『岩石龍』!」
ファルファレルロはすかさず岩石の龍を創造し、ルシファーへと突進させた。
しかし、ルシファーはそれを軽くかわし、魔力を右手に集めた。
「させない!『大地隆起』!」
ファルファレルロはそれを見逃さず、大地を鋭く巨大な槍のように変形させ、ルシファーの足元から攻撃を仕掛けた。
「『氷凍結』」
しかし、その大地の槍は届く事なく氷、固まった。
ファルファレルロは間髪入れずに両手を前に突き出し、魔法を詠唱する。
「くっ!『岩石連弾』!」
「『氷凍結』」
しかし、それもまたもやルシファーに凍らされ、運動エネルギーを失った岩石の弾丸は氷結し地面にボトボトと落下した。
「遠距離攻撃は効かないって事なら、ワタシが直接叩きのめすだけ!」
「残念だが、貴様に勝機はない。私は油断していないし、お前の攻撃一つ一つに全神経を集中させ、対処しているからだ」
「フン!まだワタシを舐めてるな……!ワタシにはまだ奥の手が……」
「これ以上……魔王様に失態を晒すわけにはいかないのだ。悠長にしていては魔王様に申し訳が立たない。一気に決めさせてもらうぞ」
「な、何を……」
ファルファレルロの声に、ルシファーは答えなかった。
その時すでにルシファーは本気を出していたからだ。
全身を包み込む純白の羽は漆黒の物へと変貌する。
その美しい金色の髪は暗黒色へと染まる。
そしてその目はまるでエネルギーが存在するかのような質量を持った『殺意』に滾っていた。
天界の住人がある条件を満たすことにより遂げる暗黒化現象。堕天。
「全力で貴様を叩き潰す。魔王様の邪魔はさせん……!」
「ワタシも……負けられない!『大地掌握』!」
大地がファルファレルロの支配下に入り、蠢き始める。
まるでそれは生き物のようにうねり、確実にルシファーを追い詰めている。
その時、ルシファーが小さく呟く。
「『時間凍結』」
次の瞬間にはファルファレルロは無防備な姿でルシファーの目の前に横たわっていた。
何が起こったのか全く、少しも、理解することが叶わなかった。
ただ、現在の状況を飲み込めず、口をパクパクさせながら目を白黒させるばかり。
「何……が……」
「何が起こったのか、知覚できるものは居ない。恥ずることは無い。貴様に勝ちの目などあり得んのだから」
そう言うとルシファーは静かにファルファレルロの意識を刈り取った。
「はぁ……、はぁ……!堕天状態で時間を凍結させると……たった数秒でも疲れる……。くっ……!」
息をついてルシファーは堕天状態を解除。
そして大きく息を吐き、ファルファレルロを負ぶった。
「殺すなと、仰せつかっている。運が良かったな、ファルファレルロ」
そう、ルシファーとナヘマーはあらかじめリュートに『絶対に殺すな』との命令を受けて居たのだ。
リュートは基本的にどんな時でも生命を優先させるのだが、今回はナヘマーとルシファーがアザゼルとファルファレルロに勝つと踏んでそう命令したのだ。
ルシファーは気を取り直して空へと視線を向けるといくつかの魔法が爆発を起こしているのが目に入った。
「すぐに……向かわなくては……!じきに参ります!魔王様!」
ルシファーはそう言ってその場から駆け出した。
またもや1週間お待たせいたしました。
ちょっと書溜めが少なくなっておりまして、流石に書いてるギリギリまで投稿するわけにもいかず、こうして遅れてしまいました。申し訳ありません。




