停戦
前回から間が空いてしまいました。
昨日投稿するつもりだったのですが……。
---ゼクスside---
「戦況は?」
「はっ、現在は……恐れながら、押されている状況です」
部下のその言葉にゼクスはあからさまに顔をしかめ、大きく舌打ちをする。
「チッ……!ファルファレルロとアザゼルは何をしている!」
「ファルファレルロ様とアザゼル様は現在戦場にて……」
「ええい、戦場に赴いていることは知っている!各々仕事をしろと言っているのだ!」
「はっ、申し訳ございません!」
部下はそう言って一礼すると、部屋から去っていった。
「くそッ……!奪われてたまるか……!今更『帰ってきた』だと……⁉︎巫山戯るなよ……。この国を支え続けたのは俺だ……ここは俺の国だ!」
1人、ゼクスの声が部屋の中に虚しく響いて居た。
「ゼクス様!拠点から連絡が!」
「今度はなんだ!」
「お、恐れながら……。メフィストフェレス様が敗れ……拠点が完全に凍結し、陥落したと……!」
「……ふ」
その言葉を聞いたゼクスは目の前が真っ白になって居た。
「巫山戯るなァッ!」
「がっ……!」
一瞬、部屋の中を閃光が包み込んだ。
冷静になったのは癇癪に任せて報告に来た部下に重傷を負わせてしまった後だった。
部屋の中もメチャクチャだ。
「す、すまん……!すぐに治療しなければ……」
「う……」
ゼクスは慌てて重傷を負った部下に治療を施す。
なんとか息を吹き返したのでゼクスは安堵の息を漏らす。
イラついたからといって部下に当たるのはクズのやる事だ。
コレでは国を支える事など出来ない。
この国をこれからもより良くし続けなければならない。それは自分の使命だ。
ゼクスはそう考えて八年間を過ごして来たのだ。今更帰って来た魔王など、ゼクスにとってはなんの意味もない。
寧ろこれからも魔王は勇者に狙われ続けるとすれば邪魔以外の何者でもない。
「すまない……、俺が悪かった」
「いえ、ゼクス様のご期待に添えるよう……精一杯我々も精進いたします」
部下はすっかり怪我が治り、持ち場へと戻っていった。
この戦いも一旦休戦しなければならない。
拠点が陥落したと言うことはメフィストフェレスが敗れ、アクアが奪還されたことを意味する。
「くそッ……!俺の計画が……!」
アクアを王妃として娶り、子を産ませる。
その前に旧政権派を黙らせる。その為には死んでいると公に思われているリュート・エステリオを完全に、確実に殺さなければならない。
反乱因子であるその子供も部下も、同じく殺す必要がある。
そこまでやってようやく新政権が樹立されるのだ。これではその目的は夢のまた夢だろう。
「諦めてたまるか……!この国は俺のものだ!だが……今は引かねばなるまい……」
ゼクスはいっときの停戦を決意し、新政権派軍はと通告した。
---アリスside---
「停戦……ですか……」
「うん。ゼクス達が一時停戦を要求してきた」
「今は押している状況ですから引く理由はありません。と言いたいところですが……リュート様達の無事を確認しておりませんし、ここはその提案を飲みましょう」
アリスは冷静に言った。
深追いしてはロクなことがない。
確かに、敵が停戦を要求してくるほどに切羽詰まっているとするならここは攻め切るべきだ。
だが、リュートとアクアという旧政権派にとって最も重要な存在の安否確認が取れていない。
「ベル、停戦の提案を飲みます。返答を」
「今のあなたの命令はリュート様の命令。承知した」
『マスターの元へ飛ぶ。良い?』
「構いません」
アリスがそういうや否や、マキナは目の前から消え去った。
マキナはリュートの元へ瞬間移動していったのだろう。
「元より奴は裏切り者。リュート様の安否の確認が終了し次第、再度攻撃です。今度こそ徹底的にねじ伏せます」
「了解」
そう言ってベルはアリスに背を向けた。
アリスはそれを慌てて呼び止める。
「べ、ベル!」
「なに?」
「その……。ぎ、犠牲者は?」
「予想していたよりは少なく済んだ。全体の15%程度」
15%。
決して少なくはない。
元々文官であるアリスは吐き気を催していた。
「そうですか……。敵側は?」
「約30%といったところ。結果は快勝」
「そう……ですね……」
敵兵のしたいなら目の前で何度も見た。
ベルに守られているばかりではいけないと、大将らしく振舞わねばならないと、己を奮い立たせて殺戮へ身を任せた。
その結果何人もの敵兵をその手で屠ったのだ。
「あまり……気分のいいものではありません……」
「勝った。少なくとも今回、リュート様がいない中で勝った。それは誇っていいことだと思う」
「貴方は……いつ慣れてしまったのですか?この光景が……貴方にとっての日常だったのですか?」
アリスはそう質問せずにはいられなかった。
無粋な質問だ。無遠慮な質問だ。
だが、聞かずにはいられなかった。
「……細かいことは覚えていない。でも……私は初めからこうだった。人を殺しても特になにも感慨が無かった。それが正当化される場所でしか生きてこなかったからかも知れない……」
ベルはアスタ、ルシファーと肩を並べ、常に先代魔王バゼル・エステリオに付き従って行動していた。
乱れていた魔界を平定し、人間界との戦争に明け暮れた。
10年前、ゲートに飲み込まれてしまったあの日まで、ずっとだ。
「私にとってリュート様は……バゼル様そのもの。顔もそっくりだし、魔力の質もほとんど同じだし……言ってることもどことなく似てる……」
「ええ……本当に……。生き写しです」
アリスとベルは顔を付き合わせて昔のことを思い出していた。
バゼル・エステリオという男は決して苛烈な王では無かった。
むしろリュートと同じで比較的穏便にことを済ませようと考える王だった。
人間界との戦争も……彼自身が望んだことでは無かった。しかし、自らの周囲を守ろうとするあまり、結果的に戦争へと発展した。
そして、勇者との最後の決戦にて……その命を落としてしまった。
「リュート様を一目見た途端に私はやるべきことがわかった。私に出来ることはバゼル様の代わりにこの御方を守ることなんだって……。だから誓った」
「私も……そう思っていましたとも。エレン様が息をお引き取りになった時に……我々も誓ったのです!」
『例え死してもあの方をお守りする、と』
2人が同時に同じ文言を唱和する。
それは偶然の産物だった。
だが、リュート・エステリオの配下として、それは当然のことと言えた。
「アリス。そのためには躊躇してはいけない。リュート様の障害となるものは全て我々が排除する。迷いは……主への危険を招く」
「……分かりました。貴方がそういうのならば……私はあの方のために非常に徹しましょう」
ベルは満足げな表情を浮かべるとアリスに背を向けた。
「傷兵の手当てをしなければ。ある程度なら直せるけど……アリス、深刻なものはお願い」
「分かりました。リュート様のお迎えは……マキナにお任せしましょう。私達が仕事をしていた方がリュート様もお喜びになるでしょう」
「違いない」
2人はお互いにそう言い合うと、負傷兵の元へと向かうのだった。
---リュートside---
俺たちがアリス達の元へと戻る道中で、目の前に突然にしてマキナが現れた。
『マスター、おかえり』
「うおっ!お前……いきなり目の前に現れんな!背後にしてくれ!」
「リュート様……背後は背後で問題っすよ……」
「いいんだよ、ルシファーで慣れてるから」
ルシファーは何度言っても俺の死角に現れる。
コイツが俺の命を狙っていた場合、俺は何回死んでいるのだろうか。数えるのもバカらしい。
「恐縮です」
「褒めてねえよ」
ぺこりと頭を下げるルシファーの脳天にチョップ。
このアホめ。改めろと言うのに。
隣にはアクアとジンがいる。
ジンは眠っている。知らない場所に居たのが一転していつものメンツに囲まれたから安心しているのかも知れない。
アクアの話ではずっと起きて居たらしい。
基本的に眠っているジンにしては珍しい。
「アクア、何もされてないんだよな?」
「うん。嫁にするとか、子を産ませるとか言われたけど」
「よし、あの野郎絶対ブチ殺す」
は?俺の嫁だぞ?舐めてんのか?
正直言ってアクアは超絶美少女だ。既に二児の母だが、年はまだ18だ。超絶美少女で普通に通る。
透き通るような綺麗な髪に、澄んだ瞳。きめ細かな肌や豊満な胸。
嫁補正入ってるだろうが、完璧だ。そう、完璧なのだ。だが、俺の嫁だ。だから誰にもやらん。絶対にな。
対して俺は普通だ。
身内の連中は色眼鏡で見やがるのでアテにならない。だから少なくとも俺自身は普通だと思っている。
水面に映る自分の顔は何度も見たが、ルシファーが美形過ぎて自分が霞んで見えるのだ。アレと比べればお世辞にもイケメンとは言えない。
しかし決して造形が悪いわけではないので比較的満足している。それに、親父と同じ顔だと言われて悪い気はしない。
長々と話したが、要するに何が言いたいかと言うと、ゼクスがアクアを欲しがる気持ちはよくわかる。
俺がゼクスの立場でも欲しい。
「アクアは俺の女だ。絶対渡さん」
俺はそう呟いてアクアの方を強めに抱いた。
「リュート……?」
「あ、すまん。痛かったか?」
「ううん。でも、最近あんまり触ってこなかったから久し振りだなって……」
「嘘だろ、マジ?」
「うん。まじ」
おおすまないマイワイフ。
寂しい思いをさせてしまったらしい。
「取り敢えず俺たちの前でいちゃつかないで下さいっすよー。帰ってから屋内でやって下さいっす」
をおう、悪い」
アスタがうんざりした声を出す。
しばしば俺はアクアと自分たちの世界を作り出す癖があるのだ。
「魔王城ならヤりたい放題っすよ。なんせリュート様の城っすから」
「ど直球なセリフだな、おい。お前はどうなんだよ?」
「いやぁ、相手なんて居ないっすよー」
居ないらしい。
ベルなんかは脈アリだと思うんだが、それは俺の脳みそがラノベ脳だからだろうか?
「ま、いいけどなぁ。それより、ジンの魔力は……」
「……大丈夫。でも一回だけ針さした。私の体調が悪くなったから……」
「無理しなくていいんだ。変わるぞ」
「……うん、ありがと……」
アクアがジンを俺に手渡す。
ジンは一瞬身をよじったが、直ぐに安らかな表情で再度寝息を立て始めた。
ちなみに、ジンの顔は俺の赤ん坊の頃によく似ているらしい。
将来俺みたいな顔になると言うことだ。髪の色もまんま俺だし、見分けがつかなくなるかもしれない。
いや、でも目つきは俺よりもう少しマシになるんじゃないだろうか。何故って?目がアクアと同じだからだ。
投稿が遅れた理由としましては、活動報告にも書きましたが耳を大きく切ってしまい、さらに悪い事に傷口が化膿し、小説書くどころじゃなかったのです。
少し状態はマシになって来ているので久し振りに投稿です。
体調が万全に戻るまで投稿が不定期になりそうです。毎回読んでくださっている方々には申し訳ありません。




