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転生魔王の異世界征服  作者: 星川 佑太郎
十一章 魔界編 其の二
203/220

覚悟


「戦争です……。ですが、コレは領地をかけたものではない……。ですから、敵将を討つまで終わる事はありません……。この戦は権力を争うものなのですから……」


アリスは1人つぶやいた。

誰しもが興奮し、聞こえてなど居ないだろう。

アリスはそれでも自問自答するかのように呟く。


「内乱とは名ばかり……。これでは国が二つに分かれたも同じですね……」


自嘲気味に笑い、遠くの空睥睨した。

朧げに見える巨大な建物。アレがゼクスの根城のハズだ。ならば、その場所に自らの主が今、向かっている。


「この戦、勝たねばなりません!」

『うおおおおおおおおおお!』


アリスの呼びかけに兵達は鬨の声を上げた。

左隣には主であるリュートが遣わしてくれた機械の神、マキナ。

右隣には昔から長い付き合いであり、魔王軍三将の1人、ベル。

問題ない。そう、自らに言い聞かせながら前を向く。


「アリス。私達は細かい事は気にしなくていい。ただ、リュート様に勝利を届けることが出来れば」

「突然どうしたのです……?」

「別に……」


ベルがアリスから視線を外しながら唇を尖らせた。


「アリスの事だから……また色々考え事してドツボにハマっているのかと思っただけ」

「……余計なお世話ですよ。さ、ベル。あなたにも役割があるハズですよ」

「分かってる……。アリス、気を付けて」

「はい。どうか貴方もご無事で」


そう言葉を交わし、2人は別れた。

ベルは前方にて敵兵を蹴散らす役目がある。彼女は女性の身でありながら魔王軍の将軍だったのだ。戦場をいくつも経験している。あまり心配はしていない。


「ふふ……。貴方は優しいですね。恥ずかしいので面と向かっては言いませんが……ありがとう」


自分の小さなところにまで気がついてくれる友人の存在に少しだけ表情が緩んだ。

しかし、すぐにその表情を引き締める。


『アリス。私も前線へと向かう。機械兵はマスターのところへ向かったから私1人だけど』

「いいえ、貴方がたった1人だとしても、その戦力は十分に期待できるレベルですから。どうか、よろしくお願いします」

『任された。マスターの国を奪い返す戦。ならば、手は抜かない』


短く答えるとマキナはその場から消えた。

主であるリュートから聞いた話によるとマキナの突飛な行動はいちいち突き詰めて考えると体力を使うだけでロクなことがないとの事だ。


マキナとベルは前線へも向かった。ならば、指揮する役目を持つ自分も然るべき場所へ向かう必要がある。


「私も、行きましょうか……」


そして、アリスは旧政権派の本陣へと向かうのだった。


---


ある男が走っていた。

戦う訳でもなく。

ただ、戦場を走り周っていた。男は逃げていたのだ。


戦いからではなく、死から。


そこはまさしく地獄だった。


様々な種類の魔法が四方八方から飛び交い、何人もの命が容易く失われる。

規模こそ国家級のものではないが、これはまさしく『戦争』だった。


焼け焦げた大地。そしてその近くには大地と同じ色に焦がされた死体の山、山、山。

ゴロゴロと転がっている多くの死体は焼死の他、感電死、凍死、溺死など様々。

打撃、刺突、斬撃、死因はまだまだ存在する。

そして、それらは全て魔法による攻撃だ。


「うっ……!」


男はツンと漂う刺激臭に顔をしかめる。

近くに目をやるとそこには炎魔法で焼け死んだ死体が積み上がっていた。

誰かが焼いてから積み上げたのだろう。悪趣味な奴がこの戦場には居るらしい。そう思うと新政権派に対して怒りが湧いてくる。


むせるような血の匂いが周囲に充満し、空にはピカッと閃光が迸る。

これは巨大な魔法攻撃の予兆を告げる光だ。

数瞬後にはまた多くの命がこの世から消え去る。

男は危険を感じ、その場から急いで離脱した。


走りながらも何度も何度も男は危険な目にあった。

剣を持った武人風の男。巨大な杖を持った魔道士の女。それ以外にも沢山の人に殺されかけた。

そして沢山の人が目の前で死んだ。


「はぁっ……!はぁっ……!」


男は息を切らして走る。

周囲からは人々の叫び声、魔法による砲撃音、ザザザザッという無造作な足音。

それらが混ざり合い、奇妙な音が生まれる。しかし、それはこの場でのみ、不自然ではなかった。寧ろ、それが自然な状況なのだ。


戦争に身を投じる人々はその異常な状況に慣れていく自分に気がつかない。

どちらの陣営も1人残らず殺す腹づもりで広範囲に魔法を放つ。


一つ、また一つと爆破の魔法陣が広がり、その場の空間を一瞬にして粉砕する。


その時、目の前にゴロリと生首が転がってきた。なんとその首は知り合いのものだった。

特段仲が良かった訳でもなかったが、知り合いの首が目の前に転がってきたとなると精神は正常ではいられない。

ついに男は胃の内容物を思う存分吐き出した。


「ぅげぇぇぇええ!うぉえぇ……!」


その時、男は吐きながら両膝をついてしまった。


「ぁえ……?」


気がつくと自分の体からも大量に血液が噴出していたのだ。知らない間に全身が傷だらけだった。

それを自覚した途端に意識がぐらりと揺れる。

痛みを感じていなかったのだ。あまりにも悲惨な状況と周囲の空気に犯され、感覚器官が麻痺していたのだ。


既に体は動かない。

男はその場に力なく倒れ伏して小さく呟いた。


「リュート様がいなくて……良かった……。ここは……地獄だ……」


そしてその時、突如として男の頭上に巨大な魔法陣が発生した。

発する閃光の色から察するに雷属性の魔法だろう。数秒後には自分もこの世からおさらばだ。

全身がズキズキと痛み、今すぐにでも発狂しそうだったが、そう思うと少しだけ気が楽になった。

男は口元に軽く笑みを作った。


「はは……、エス……テリオス家……、万歳……!」


次の瞬間、男は数ある命と共にこの世から消えた。


---アリスside---


「『獄炎爆熱波(ヘルフレイムバースト)』!」


ベルの広範囲魔法が敵兵を一瞬で焼き焦がす。

相変わらずの攻撃力だ。コレを食らって仕舞えば一兵卒などひとたまりもないだろう。

全員が例外なく消し炭になる。それほどの火力を秘めた攻撃なのだ。


「ベル、このまま続けて下さい……」

「了解」


アリスは正直言って何度も目をそらしたくなった。

だが、淡々と、まるで普段の仕事をこなすような気安さで敵兵を爆殺していくベルを見て居るととてもそんな事は出来なかった。

今は代理とはいえこの軍の将なのだから。自分だけは目を逸らしてはいけない。

そう、自らに言い聞かせながら必死で前を向く。


「『獄炎焦熱砲(ヘルフレイムバスター)』!」


ベルの作り出した炎の極太の魔力砲が敵兵の密集地隊を焼き払う。

どう見ても同士討ち(フレンドリーファイア)をしている。

ベルは少数ならば味方もろとも焼き殺しているのだ。


「ベル!そこには味方が……!」

「アリス。少数ならば仕方がない。割り切らなければならない。ここは戦場。敵だけ殺すなんて出来ない。遊んでいる場合じゃない。相手よりも多く殺さないと勝てない。それが戦争」


アリスを遮るように淡々と短い言葉を何度も紡ぐベル。

コレが戦争を何度となく体験して、尚且つ何人もの敵兵を屠ってきた歴戦の将の言葉だ。

アリスは自身が甘いことを言っていることなど分かっていた。

それはそうだ。ずっと内政や、防衛ばかりを担っていたアリスには戦争の経験があまり無い。

だからこそ、『味方諸共殺す』という選択が出来ない。


「アリス。貴方は慣れていない。でも、慣れなくていい。私は……慣れてしまった。だから私が殺す。アリスは下がってて」


ベルはアリスの前へ立ち、再度魔法を詠唱する。


「『瀑布槍撃(カタラクトランス)』!」


上空に突如現れた魔法陣から巨大な水の槍が敵兵を一挙に襲った。

あまりの衝撃と破壊力に大地すら突き穿つ激流の槍だ。


「アリス……」

「ベル。私は……今はこの軍の将です。ですから、甘えは許されません。覚悟なら出来ています……。命を賭する覚悟だけでなく……命を奪う覚悟も……!」

「分かった。だったら……下がって無くてもいい。覚悟……信じてる」

「はい」


そして2人は前を向く。

相も変わらず周囲からは焼けた肉の匂いが漂ってくる。

その中で2人は互いを信じ合い、死ぬ覚悟を決め、殺す。

躊躇しては殺される。この命は主の為に使うもの。ここで死ぬことは許されない。


「さぁ、かかって来なさい。1人残らず引導を渡して差し上げます……!」


戦場へ、凛とした声が響き渡った。

血生臭い話になってしまった。

それと、最近執筆ペースが落ちてます。何とか改善はしているのですが。

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