従者一号
祐奈は廃墟と化した元牢獄だった場所から立ち上がった。
(割と後先考えずに能力使っちゃったけど大丈夫だったかな……)
咄嗟に「やり過ぎた!」と思い、メイを庇うことは出来たが、他の奴隷達はどうなっただろうか……。
奴隷商の男達は揃って気絶していた。
祐奈は奴隷商達を蹴飛ばして瓦礫の中にいるであろう他の奴隷達をを探し始めた。
「私も手伝うよ、お姉ちゃん」
「うん、じゃあメイはあっちをお願い」
手分けした方が効率がいいだろう。流石にあの奴隷商といえども人間を殺すのは良くないと思って加減したとはいえ、奴隷達はこの劣悪な環境で生活していたのだ、何が起こるかわからない。
死なないにしても大怪我をしている可能性はある。
「お姉ちゃん!こっち!」
メイが奴隷達を見つけた。檻が頑丈だったからか、殆どの人が無傷だった。
「よかった……怪我してたらどうしようかと思ったよ……」
「もう、お姉ちゃん!私が1番危なかったんだからね!」
「ご……ごめんね、メイ」
「助けてくれたからいいけどさ、お姉ちゃんはもうちょっと周りを見ないとね」
不思議なことに、何だか日本に残してきた自分の姉の様だった。
メイは自分よりかなり年下なのに。
「メイはしっかりしてるねー」
「お姉ちゃんがしっかりしてないんだよ」
て、手厳しい。
瓦礫は勇者の怪力でどかして、無事に全員を救出した。
数人が(祐奈の所為で)怪我していたので治療魔法で治してあげた。
勇者は基本的に万能ジョブなので何でもできるのだ。
祐奈が勇者だと告げるとみんな感激していた。
「本当にありがとうございます……!勇者様……!」
「勇者のお姉ちゃん!ありがとう!」
「勇者様!どうも有難うございました!ご健闘をお祈りしております!」
「勇者様……」
めっちゃお礼を言われた。そりゃあ当人にしてみれば奴隷になる寸前だったんだから当然か。
悪くない気分だけど、大人にこんなお礼を言われたら祐奈も恐縮してしまう。
「いえいえ、そんな……これも勇者の務めですから……」
なんて調子のいいことを言ってしまう。
「お姉ちゃん、勇者だったの?」
「そーだよー、凄いでしょ?」
「いや、凄さがよく分かんないけど……でもお姉ちゃん!格好良かったよ!」
「いやー、そう言ってもらえたら嬉しいなー」
何だか軽い勇者な祐奈だった。
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その日の夜は元奴隷達と奴隷商の食料で宴会をした。
もちろん主役は祐奈だ。
祐奈は未成年だが、この世界では15歳以上は飲酒しても問題ないらしい。祐奈は今年で18歳。この世界では飲酒しても捕まらない。
郷に入っては郷に従え、だ。祐奈も初めてのお酒に挑戦してみた。
お酒なんて初めて飲んだが、中々イケる。
(体がポカポカしてきて……何ていうか……)
祐奈はぶっ倒れた。
「お姉ちゃん⁉︎」
祐奈は下戸だった。
一杯も飲んでないのに酒が回ったらしい。
「勇者様もまだまだダメねー、まぁ何かしらの上戸よりましか」
周囲の大人の女性陣は完全に出来上がっていた。
結局その日は早々に戦線離脱した祐奈に代わってメイが絡んでくる女性の相手をしたのだった。
翌日
祐奈は珍しく、早くに起きた。
基本的に起こされないと起きないタイプの人間な祐奈だが、今日は自然と目が覚めた。
周りでは多くの人々が雑魚寝していた。
瓦礫で滅茶苦茶になった場所で雑魚寝とは……異様な光景だ。
よし、行こう。
(これ以上ここに居たらまた何日も宴会してしまいそうだ)
そう思って祐奈は装備を整えて立ち上がった。
(お金はもうちょい置いておこうかな……こんなに要らないよね……)
そう思って荷物をゴソゴソしてたらメイを起こしてしまった。
「どしたの?お姉ちゃん」
「へ⁉︎い、いや……あの、もう行こうかなー、なーんて思ってさ……」
「行っちゃうの?お姉ちゃん……」
「ま、まぁ……私、勇者だし……」
祐奈はバツが悪そうに頬をポリポリかいた。
メイは俯いて手をギュッと握りしめた。
そして、意を決した様に言った。
「勇者様!わ、私も連れて行ってください!」
「へ⁉︎」
「絶対役に立ちます!弱音も吐きません!お願いします!」
いきなりそんなことを言い出したメイに祐奈は目を白黒させた。
「ちょ、メイ?どうしたの?いきなり……」
「私……もう家族が居ない……行くところがない……もう、信じられる知り合いがお姉ちゃんしか居ない……だから!お願いします!」
祐奈は考え込んだ。
確かに祐奈は楽観的だった。だがそれは、自分の戦闘能力が高いからこその楽観だったのだ。
確かに大人の獣人族は強い。だが、まだメイはせいぜい10歳程度で、成熟した獣人族に比べると戦闘能力はかなり低い。
旅とは危険なものだ、普通は連れて行かないだろう。
だが……
「危ないよ……?死ぬかもしれない……それでも、いいの?」
祐奈はこの獣人族の少女を放っておけないと思ってしまった。
(後になって連れてきたことをを後悔することになるかもしれない。でも、今この子を連れて行かなかったら絶対に後悔する!)
メイはこくりと頷いた。
「それでも良いのなら……一緒に行こう」
祐奈はメイにそう、告げた。
メイは俯いていた顔を上げて、笑った。
いつの間にか、周りで寝てた人達が起きていた。
「おめでとう!メイちゃんは勇者様の従者第1号だ!」
「メイちゃん!勇者様を頼むよ!」
皆は口々にそう言った。
「ねぇ最後!逆じゃないの⁉︎」
「勇者様はちょっと抜けてるからねぇ」
「ちょっと!失礼な!」
「いやいや、勇者様は抜けてるよ」
こうして祐奈はメイと行動を共にすることになった。
メイは最初魔王の仲間になる予定でした。どうしてこうなった……