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転生魔王の異世界征服  作者: 星川 佑太郎
一章 魔王城編
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俺の生まれた日


次に俺が目覚めたのは薄暗い明かりの灯る大きな部屋だった。

全くもって見たことの無い景色だ。

それだけでも物凄い違和感なのだが、それとはまた別の違和感。


体が思うように動かないのだ。


不審に思って自分の体を見回すと……、


何と体が赤ん坊になっていた。


(なっ⁉︎)


しかし、声が出ない。

まだ声帯が発達して無いからか、「あー、うー」などと間抜けた音が喉から絞り出される。

まさかこんなリアル名探偵コナ○を体験することになるとは夢にも思っていなかった。


しかし、まぁ、声すら出ないなんて難易度高過ぎだろ……。


なんて冗談を考えてる場合じゃない。

冷静に考えてあり得ないが、さっき死んだハズの俺は赤ん坊として今生まれたという事だ。しかも前世の記憶を引き継いでいる。

動けない以上、どうすることも出来ない。


さっきまでの出来事は克明に覚えている。2度と思い出したくもないが……。

あの時俺は通過列車に轢かれてミンチになったはずだ。

あの女の子の無事を確認出来なかったのは心残りだな……。まぁ、多分大丈夫だろ、ちゃんとプラットホームに押し上げたしな。


俺はうまく動かない首を限界まで動かして周囲の様子を伺った。


あたりに並ぶのは高そうな調度品。

タンスとかドレッサーとかがあるのを加味するとここは誰かの部屋だな。生活感がありありと滲み出ている。

しかし、あるものと言えばそれくらいだ。殺風景な部屋である。

部屋に設えてある大きな扉からは多くの人々が押し合いへし合いして中を覗き込んでいた。

白衣を着た人がそれを必死で押しとどめている。


うん、見る限りどう考えてもここは病院じゃない。

今時家で出産する日本人なんてかなり少ないだろう。

つまりここは日本じゃない……と思うが、周りの人の身なりからしてたぶん先進国だ。かなり良い服を着ている。

にもかかわらず家で出産している。

そして周囲の人々の服装だ。武装している。


ということは……、


(パターン的に異世界転生ってやつだな……)


前世でいいことしたから異世界に転生とか!夢みたいだな!


後から考えると俺ははちょっと順応能力が高すぎた。


俺は嘆息しながらやれやれと首を振った。

異世界転生は嬉しいが、こういう仕草がしたくなるものなのだ。

すると近くに立っていた1人のメイドがギョッとした目でこっちを見てきた。


やべっ!


愛想笑いをしながら誤魔化した。ちゃんと誤魔化せたかどうかは分からんが。

というか、赤ん坊は愛想笑いなんてしないぞ。

赤ん坊っぽくない行動は今の所NGだな……。


しかし、メイドが居るってことは中々お金持ちの家なんじゃないだろうか……


扉のそばにいる人々の格好を見ると、鎧やローブを装備して、剣や杖などの武器っぽいものを持ってる人が大勢いた。

どうやら剣と魔法のファンタジー異世界という認識で大丈夫そうだな。

俺は大体の状況を想像(妄想)で把握し、無理な体勢を楽に崩した。

ふと、横に視界をずらすと母親と思しき女性が優しげな表情で俺の顔を見ていた。


(この人が俺の母さん……?)


周囲の状況の把握に気を取られていて気がつかなかったが、 控えめな表現をしてもかなり美人だ。

しかし、何だか弱々しい印象を受ける。


(もしかして、出産の所為で体調が悪いのか⁉︎)


「エレン様!エレン様!」


俺の母さんの名前はエレンというらしい。

周りの人々は心配そうに母さんの名前を連呼している。

母さんは名前を呼ばれるたびに「大丈夫、大丈夫だから……」と気丈に呟く。


「おい貴様!何とかならんのか!」


髭もじゃのおっさんが扉の側の人々を押しのけ、医者らしき人に掴みかかっていた。

医者らしき、というのはこの人が白衣を着ていないので医者かどうかが分からないのだ。


おっさんが掴みかかったところを見るとこの人がこの場で1番立場が上の人なのだろう。


「しかし、もうエレン様には魔力が……」


魔力……?そんなものもあるのか……。こりゃ、本格的に剣と魔法のファンタジー異世界だな。


(でも、魔力が無いなんてもしかして相当ヤバいんじゃ……)


「クソがッ!」


おっさんは歯噛みしながら手に持っている大斧を地面に突き刺した。

地面がゴッ!という音と共に穿たれる。

事態はかなり深刻な様子だ。

だが、俺には訳がわからない。


「もう良いのです、良いのですよ……」


母さんは俺を抱いて、弱々しく体を起こした。


「エレン様!寝ていなければ!」

「この子を残して逝ってしまうのは心残りですが……皆、この子の事を頼みましたよ……」

「そんな……」


(あれ……?)


俺も気付いたら涙を流していた。

もう母の命は残り少ないのだ。何か言いたいが、俺はまだ言葉を話せない。

まだ会ったばかりだが、やはりこの女性は俺の母親なのだ。

俺は母さんの頬を撫でてみた。

自分の意思が伝わると思った訳ではないが、何かしたかった。

母さんは目に涙を浮かべながら俺の頬を優しく撫でてくれた。


「優しい子ね……。よくお顔を見せて……?あの人にそっくり……私とあの人の子供……」


母さんは俺を精一杯の力で抱き締めて続けた。


「あなたの名前はリュートよ……リュート・バゼル・エステリオ……あなたはお父さんのように強くて優しい魔王なるのよ……」


何の因果か、それは俺の前世の名前と同じだった。


「エレン様っ!」


1人の女性が泣き始めた。部屋にはひたすらすすり泣きが響いた。

母さんは微笑みながら、ゆっくりと息を引き取った。


俺は生まれたばかりだったが、この母の言葉だけは鮮明に覚えていた。

この後の自分の思考も……、


(え、魔王……?)


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