絶対零度
---ルシファーside---
「あーっはっはっはっは!白髪のオマエ!言っとくけどワタシは強いわよ!オマエなんか一瞬で滅殺よ!」
「そうか」
「むがーっ!そうやって余裕こいてるのがカッコいいとでも思ってんの⁉︎カッコイイわね!ワタシも今度から真似しよっと!あーっはっはっはっは!」
「…………そ、そうか」
ファルファレルロのテンションについていけないルシファー。
だが、その目は油断なくファルファレルロを見据えていた。
「んじゃ、オマエ!ワタシの力を見せてやるわ!一瞬で方が付くから分かんないかも知れないけどな!あーっはっはっはっは!」
「今の俺が……そう簡単に御せる相手だと思うな……!」
「ふふん、その余裕顔……今すぐびっくり顔にしてやるわ!『大地掌握』!」
ファルファレルロが両手を前へと突き出し、魔力を放出する。
同時にルシファーも動いた。
「『大地凍結』!」
ビギッ!ビギビギビギッ!
大地と氷の砕ける音が鳴り響く。
ファルファレルロの魔力が大地を砕こうとする中、ルシファーの魔力が大地を凍結させようとし、お互いの力がせめぎ合っているのだ。
「あーっはっはっはっは!オマエ!中々やるわね!」
「フン……!貴様も中々だ。だが、無駄話が多いぞ。『時間凍結』」
時間を停止させ、ルシファーは素早くファルファレルロへと接近する。
しかし、止められる時間はせいぜい数秒だ。
完全に接近する前に時間凍結は強制的に解除されてしまう。
「なっ……!しゅ、瞬間移動⁉︎そ、そんなのずるい!」
「瞬間移動ではない。時間凍結だ」
「一緒じゃん!むがーっ!『岩石砲撃』ぉっ!」
「くっ!『氷結壁』!」
ファルファレルロは接近されたが、素早く岩の砲撃を発射し、対応する。
しかし、ルシファーはそれを氷の壁で防ぎ、ファルファレルロへと肉薄した。
「『氷結連剣』!」
「むふふ、ワタシが接近された時の対策をしてないとでも……?くらえーっ!『岩石崩壊』!」
「何……ッ⁉︎」
ルシファーはとっさに上空を見上げた。
なんと、上空から無数の岩石がまるで隕石のように降り注いで来ているのだ。
「潰れてくたばれ!そして、絶対避けられないようにしてやるわ!『岩石要塞』!『岩石龍』!」
更に、ファルファレルロはルシファーが逃げられないように四方を岩石の壁で囲みこむ。
その岩石の壁からは『岩石龍』の首が生え、その牙はルシファーを狙い、食らいつく。
確かに逃げられない。
時間凍結を使っても止まる時間は数秒だ。この岩の壁に阻まれた場所から外へと逃げるほどの時間は停止できない。
だが、
「……この程度の状況を切り抜けられなくて……何が側近か‼︎ファルファレルロ……貴様は俺を見誤ったな……」
ルシファーは言った。
打開策ならある。
どうな状況であろうと、想定していない状況であろうと、主であるリュート・エステリオを守るのがルシファーの役目である。
「冷静に対応しなければ主諸共全滅だ。だから常に冷静であれ……。その昔、ある方に教わった」
「死にかけだから現実逃避かー⁉︎だったらさっさとあの世に送ってやるわ!いけーっ!『岩石龍』!ソイツを喰い殺せ!あーっはっはっは!」
四方から四つの龍の頭が、そして上空からは無数の岩石の流星が、ルシファーへと迫る。
そして、ルシファーは厳かに告げる。
「『絶対零度』」
全ての動きが止まった。
そう、ルシファーの魔法により、周辺の全てが凍結したのだ。
「なっ……なんで……!」
「確かに強力な攻撃手段だ。普通なら今ので決まっていただろうな」
ルシファーはそう言いながらゆっくりと歩いてファルファレルロへと近づく。
しかし、ファルファレルロは動けない。
あまりの冷気に身体の動きが固まっているのだ。
『絶対零度』。
それは、ルシファーの持つ魔法の中でも絶対の攻撃力と防御力を持つ魔法だ。
周囲の物体の温度を奪い尽くし、まるで時を止めたかのような現象を引き起こす。
魔力すら凍結させ、魔力によって動くもの全ての動きを停止させる。
その圧倒的な冷気はどんなものも動くことを許されない。
「貴様は何度も『舐めるな』と言っていたな……。だが、貴様は俺を舐めていたようだな……?」
「あ……、あ……」
ファルファレルロは口すらまともに動かなくなり、言葉を上手く発することが出来なくなっていた。
言い知れぬ恐怖がファルファレルロの全身を包み込む。
『絶対零度』とはまた別の底冷えする様な冷たさがファルファレルロの背筋の辺りに走った。
「ファルファレルロ……。貴様は強かった……。だから私は最悪を想定して戦うことができた。礼を言うぞ」
ルシファーの背の漆黒の翼が純白へと色を変えた。
輝く様な魔力がルシファーの全身を包み込む。
「『氷結領域』」
ルシファーがファルファレルロに触れると同時に、彼女は完全に動きを止めた。
---リュートside---
「ルシファー!」
「魔王様……」
急いでルシファーへと駆け寄る。
アクアは現在アスタの治療中だ。
「申し訳ありません……。強敵でした故……少し力を使い過ぎました……」
「そんな事より、怪我はないのか?」
「はい、魔力の枯渇が心配ですが……いざとなれば奇跡の運用で何とかなりますので。今の所は特に問題ありません」
言うとルシファーはその場に膝をついて恭しく首を垂れた。
「おい、無理しなくても……」
「いえ、無理などしておりませんとも。アザゼル、ネヴィロス、ファルファレルロを撃破しましたが……疲労困憊の我々でメフィストフェレスを倒せるかどうか……」
「信じるしかない……。マキナ達を……」
その時、俺たちの目の前に何かが飛来してきた。
「な、なんだ……!」
「これは……⁉︎」
それは何と、人だった。
いや、正確には人ではない。
人の形をした神造兵器。
デウスエクス・マキナだったのだ。
『ごめん……なさい……、マスター……。停……止、す……る……』
壊れた電子音の様な声を漏らしながら、マキナは完全に停止した。
「壊れてしまったか……。よく耐えた方だ」
「メフィストフェレス……ッ!」
最後の一人、メフィストフェレスが不敵な表情で姿を現した。




