表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生魔王の異世界征服  作者: 星川 佑太郎
十一章 魔界編 其の二
186/220

調和者


さて、尋問開始(しつもんタイム)だ。


男達はしっかりと縛り付けられており、抵抗はできない。


「くっ、殺せ!」

「なんでくっころなんだよ、懐かしいな」


フェリアを思い出した。初めて会った時は彼奴もくっころしてたな。

しかも男のくっころなんて誰得なんだよ、やめろ。


目の前の5人はなかなか思い思いの表情をしている。

2人ぐらいは俺の顔を不敵に睨みつけているし、2人は下を向いている。今後に絶望しているのか?

もう1人に至ってはゲロ吐いてやがる。


「おぇええぇ」

「きたねーなおい」


あーあー、びちゃびちゃだ。ここが馬車の中だったらブチ切れるところだぞお前。

ゲロを吐くほど怖がらなくても良いじゃないか。友達になろう。


「さぁてと、夜は長いっすよ〜。もちろん生かさず殺さずっす」


アスタが凶悪な笑みを浮かべながらにじり寄る。

俺から見ても怖いのだから、コイツらからするとそれはもう滅茶苦茶怖い事だろう。


「お前達、覚悟を決めよ」


人質の1人が意を決した表情でそう言うと、残りの4人が頷いた。

ゲロを吐いていた奴も頷いた。そしてその後また吐いた。


「うぅぅぅぅぅうぅぅぅ……うえぇ」


吐き気止まんねーな。


しかし、吐いていた奴もしっかりと顔を上げる。

意を決した表情だ。観念したのか?


そして、全員が背筋を伸ばして、こう唱和した。


「ゼクス様、万歳!」


1人がそう言って奥歯をグッと噛み締めたかと思うとバッタリとその場に倒れた。


「あ……?」


声が漏れる。

何を……しているんだ……?


「ゼクス様万歳!魔界万歳!」


ドサッ。


1人、また1人と倒れていく。


一体……何が起こって……、


「ど、毒……ッ!」


いち早く動いたのはアスタとルシファーだった。


「アスタ!すぐに解毒をかけよ!はやく!」

「わ、分かってるっすよ!で、でも……」


ルシファーの言う前にアスタが既に解毒魔法をかけていたらしい。

しかし、アスタの努力もむなしく人質にしていた5人全員が死んだ。


自殺したのだ。


奥歯に毒薬でも隠し持っていたのだろう。

吐いていた奴は気持ち悪かったのではなく死にたくなかったから吐いていたのか……。

まさか即死するほどの毒薬を隠し持っているとは……。


「くっ……!即効性の毒薬……。こんなものを使ってまで口封じを……!」


ルシファーは普段の態度とは打って変わって悪態をつきながら石を蹴飛ばした。

アスタはギリギリと歯噛みする。


「ちっくしょぉぉ……!俺がもっとはやく気づいてれば……ッ!」

「外道め……、部下をなんだと思ってやがんだ……!」


俺は吐き捨てるように言った。

こんな事が……あるのかよ……。こんな、ただの駒みたいな……。

この五人にも家族がいたかもしれないのに……、『捕まったら自殺しろ』と命令したのか?ゼクスという男は……。


「申し訳ありません、魔王様。情報を聞き出せず……」

「今のは仕方がない。未然に防ぎようがないからな。だが、次があれば頭の片隅には置いておこう」

「はっ」


こうなってしまっては敵の末端からでも情報を聞き出すのは難しいだろう。

それに、これは俺の予想だが、アイツらは特に目ぼしい情報は持っていなかったに違いない。

これほどに非情な男があの程度の実力の奴らに細かいことを教えているわけがない。


「つまり、情報統制は完璧に敷かれているって事だ……。敵の実態がつかめねぇ……」


このまま暗礁に乗り上げた状態で実践を迎えるのはなるべく避けたい。

奴の手のひらの上で転がされているかの様だ。


「アリスとの合流地点まで行けばなんとかなるでしょう。彼女はずっとこの魔界に住んでおり、奴らと長く抗争を続けせてきた女性ですから」

「あぁ。情報については心配してねぇ。俺が心配なのはアリスの安否だ」

「と、言いますと?」


ルシファーは不思議そうな顔をしている。

俺の心配していることはアリスが命を狙われている可能性だ。

何故って?おれな殺しておくからだ。


「これほどの情報統制を敷く様な奴が、俺に何かを話す可能性のあるやつを生かしておくと思うか?」


俺の嫌な予感は今、まさに的中しようとしていた。



---アリスside---



「誰です?」


気配がした。

アリスは元々幹部格の魔族だ。昔は王の護衛を担っていた。見知らぬ気配には敏感である。


その気配の正体はわからなかったが、どうやら男の様だ。

努めて澄ました表情でアリスが問いかける。


「やはり、腐っても『七大罪(セブンス・シン)』と言うわけだね。アリス・アスモデウスよ……いや、アリス・エステリオ(・・・・・)と呼ぶべきかな……?」


アリスは声の下方角を振り返り、呟く。

アリスは一瞬だけハッとした顔をした。

アリスはアスモデウスの称号を得るまで長くグロウスの姓を名乗っていた。エステリオを名乗ったことなど一度もない。


何故それ(・・)を知っているのか……?


しかし、動揺を悟られてはならない。

最高潮に達した心拍を抑えながら、震える声をフラットに戻しながら、問う。

その男がどれほどの情報を持っているのか?藪蛇にならぬように。


「何のことです……?」

「フフフ……何、惚ける必要はない。既に君の血筋は見抜いている」


1人の男が姿を現した。


少し歳をとっているようだ。魔族に見えるので年齢的には百を優に超えているだろう。


男は確信の篭った目で続けた。


「君の娘夫婦のことも見抜いている……。この事が新政権派に知られると……誰が狙われるかわかるな?」


分かっていた。

この事実がバレてしまうと確実に狙われる者がいる。

自分の娘であるアクアだけでなく、主と仰ぐリュートまで危険に晒されてしまう。


そして、男の話ぶりからアリスは推測する。

この男は新政権派ではない。しかし、旧政権派でも無い。

ならば、一体この目の前の男は何なのか?


「だんまりかね?アリス・エステリオよ。君の父親の話でもしようか?」

「良いでしょう。何が目的なんです?」


アリスはこれ以上喋らせたくなかったし、自身の父の事を知っているとなればもう相手が全てを知っているとみて良いだろう、と考えた。

しかし、ここまで話を聞いてもこの男の目的が見えない。


「我々は何もしないさ。だが……そうだね。我々が望むものは『混乱』だ」

「傍迷惑な話です。たったそれだけのためにこのような面倒な事を?」


何故かはわからないが、この男は危険だ。

普通なら知り得ない事を知っている。

『我々』ということは、この男が何らかの組織に属しいる事が分かる。

どのような組織に属しているのかわからないが『混乱』が目的とは……これではテロリストではないか。


「その混乱を呼ぶために、我々は知り得た情報を君たちに開示する。勿論それは、君たち旧政権派だけでなく新政権派にも渡す」


成る程、と内心頷くアリス。

本来お互いが知り得ない情報を開示することで意図的に混乱を引き起こそうと言うのだ。

確かに、この情報がお互いに渡ると、男の思惑通りに魔界の内乱は悪い方向へと向かうことだろう。


「情報を渡すことは決定事項ですか?」

「あぁ。これから私はこの情報を新政権派にリークする。その代わり、君に一つの情報を提示しておこうと思ってね」

「『この情報をリークしない』と言うわけにはいきませんか?」


リークされては困る。

それに、そんな事をされてしまっては折角生きていたリュートの命が危ない。


「ダメだね。我々の計画に支障が出る」


無理だ。この男は意見を曲げない。

ならば寧ろ、ここはこの男から情報を得る必要がある。

口ぶりから信用に足る根拠が無いのだが、そこはまぁ聞いてから判断しよう。


「さて、では君に伝える情報だ。聞くかい?」

「聞きます」


こう言うしかなかった。

この情報は漏れる。ならば、それは諦めよう。

この男を消すと言うことも考えだが、組織立って動いている以上、この男を消したところで事態は好転しない。

それに、アリスがこの男に勝てると言う保証もどこにもない。

今は『加護』が無い状態だ。先ずはここを穏便に切り抜ける必要がある。


「では、奴等の薬の入手ルートを教えよう」


薬。強化薬(ブーストドラッグ)の事だ。

確かあれは先代魔王であるバゼル様があまりに危険だと現存する薬全てを破壊した筈……。


「奴等はアレの製造法を知ったのさ」

「……バゼル様でも知らない筈ですが……、何処でそれを?」

「そうだね……、まぁ、知ってる奴がいただろう?それに、何故リュート・エステリオのいる場所がわかったんだろうね?奴等はとても正確に彼を襲撃した」


そこでアリスは得心した。

この男は裏切り者の存在を示唆しているのだ。

ゼクスが台頭する前にまず誰かが裏切った。

そして、未だ裏切り者がいると言っているのだ。


「まさかとは思いますが、貴方が……?」

「勿論、その件に関しては我々は関わっていないよ。ま、そんな訳で今は少し新政権派が有利だから……君たちにも情報を分けに来た次第だ」


仕事が増えてしまった。

今からリュート達と合流すると言うのに裏切り者の炙り出しまでせねばならない。


「それと、コレは助言だけど……。『彼女』から目を離してはいけないよ?我々としてはどちらでも構わないんだけどね。君の立場としては……だろう?」

「分かっています。有益な情報をありがとうございます。出来れば二度と会いたくないですが……そう言う訳にもいかないのでしょう?」


アリスは素直に頷いた。

情報が有益だったのは事実だ。


「そうだね。また来るよ。それじゃ、幸運を祈っているよ」


終始慇懃無礼な態度を崩さなかった男はクルリと踵を返した。


「貴方は……どちら側なのです?」


少し気になってしまったのだ。

アリスはそう問いかけた。


この男は一体何者なのか?


自問自答しても答えは出ない。


「そうだね……、便宜的に『調和者(バランサー)』とでも名乗っておこうか。どちら側か?という問いに関してだが……ご想像にお任せしよう。言う必要のないことだからね」


混乱が目的なのに調和者?何の冗談だろうか。

しかし、やはりと言うか何と言うか、肝心なことは何も喋らないらしい。


「貴方自身も『混乱』が目的なのですか?」

「フフフ……、野暮な事を聞かないでくれたまえ」


その時、アリスと調和者(バランサー)の目の前にドンッ!と言う音と共に数人の人影が現れた。


「今度は誰です……?今日は来客が多いですね」

「フム……、これはこれは……」


アリスも調和者(バランサー)も冷静そのものだった。

目の前に現れた屈強な魔族達は全員が全員殺気を放っている。

確実にアリスの息の根を止めに来たのだろう。


「くっ……、早かったですね……」


アリスもここに追っ手が来ることは予想して居た。

だが、調和者(バランサー)との会話に夢中になっており、気がつかなかったのだ。

もう直ぐやって来ることはわかって居たと言うのに。


「アリス・アスモデウス。テメェに恨みはねぇが。死んでもらうぜ!」

「「うおおおおおお!」」


刺客がやって来る。

なにぶん人数が違う。

それに、アリスは接近戦では少し分が悪い。


しかし、その刺客達の攻撃がアリスに届くことはなかった。


キンッ!


という鋭い音がしたかと思うと数人の屈強な魔族の男達は全員地面に倒れ伏して居た。

全員の意識を瞬時に刈り取ったらしい。調和者(バランサー)……。恐ろしい使い手だ。


「計画通りの行動では無いからね。邪魔させてもらうよ、新政権派の諸君」


慇懃無礼な態度で調和者(バランサー)は小さな笑みを浮かべながら言った。


強い……ッ!


アリスは驚愕の表情を浮かべた。


勝てない。この男には自分は勝てない。


僥倖なのは調和者(バランサー)と敵対しているわけではないと言うこと。

それに、調和者(バランサー)の目的はアリスを殺すことではない。アリスはその事実に内心で胸を撫で下ろした。


「さて、アリス君。君の無事は確保した。先ほどの情報はしっかりとリュート・エステリオに伝えたまえ」

「礼はいいませんよ」

「勿論、必要無いさ。私は今から君達にとって不都合な情報を新政権派にリークするのだからね。それでは、またあおう」


そう言って調和者(バランサー)はその場から忽然と姿を消した。

最後までよくわからない男だった。


「不思議な男です……調和者(バランサー)。二度と会いたくありませんが。さて、私もここで立ち止まっている訳にも行きませんし、早くリュート様の元へ向かいましょうか」


そう言って立ち上がり、少し歩いたところで振り返る。


「あ、そうでした。一つ仕事が残って居ましたね」


アリスの見据える先には倒れ、意識を失っている刺客達。

しかし、まだ息がある(・・・・・・)


そう、まだ一つこの場でやらねばならない仕事が残っている。


『追っ手を消す』という仕事が。


「『激流槍撃(トレントランス)』」


ズシャァァッ!


アリスは刺客達に対し、無慈悲にトドメを刺し、返り血を拭き取りながらリュートとの合流地点へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ