完全修復
「でも、なんだってこいつらはこんな魔女狩りみたいな事をしてんだ?」
『殺された三人はこの街の領主一家。……だったはず。そしてここの領主は旧政権派の人』
「成る程……。それで殺されたのか……。しかし……自分達にとって都合の悪い人間を殺す、なんて事をしてたら自分たちの旗頭の旗色が悪くなるのが分かんねえのか?」
『さっきのジジイが無能だから致し方ない』
「お前結構根に持つタイプなんだな」
まだ怒ってやがる。
俺はそんなに気にしてないのだが……。いや、それは違うのかもな。
俺が少しでも馬鹿にされると過剰に反応する配下がいるので俺としては怒る必要がなかったのだ。
だから少々悪く言われたぐらいでは全く感に触ることはない。
『この街で暴れることに意味なんてないハズ……。だからこいつの行動は多分独断専行』
「お前って機械の割に『ハズ』とか『多分』ってワード多くない?」
『絶対独断専行』
「適当なこと言うんじゃねえよ」
なんだか人間臭い機械だ。やはり元人族のローグが設計し、製造したからなのだろうか?
取り敢えず一部とはいえ街の一角を廃墟にしてしまったので申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
民家も壊してしまった。敵がやったことにして仕舞えばいいのだろうが。
「これ、直せるか?」
『可能。私の兵の中には修復兵と言うのが存在する。おいで、修復兵』
マキナがそう言うと次の瞬間、突然小さな機械兵が目の前に出現した。
「うおっ、コレがか……」
小さなボール型の機械兵でプロペラのようなものでブンブン宙に浮かんでいる。
サイドから出ているアームの先からは少しだが魔力が漏れ出ている。
『見てて、マスター。すぐ修理する』
マキナの声とともに修復兵達はすぐに修復作業へ着手した。
みるみるうちに破壊された民家が再生されて行く。神様マジチート。
「凄えな」
『これは本来、破壊された私の兵装を修理するためのもの。無機物なら損壊前の状態へと戻すことができる』
言いながらマキナは役目を終えた修復兵を異空間に格納した。
一応街の外観だけは元に戻った。マキナがまさに一瞬で修復してしまったのだ。
「結局此奴らに話聞けなかったな……」
『ごめんなさいマスター。ついカッとして……』
「お前って結構人間臭いよな……。まぁもう少し冷静になってもいいと思ったけどな。俺個人としては嬉しかったよ。怒ってくれて」
『そう……?マスター怒ってない?』
マキナが少し不安げな表情で俺に向かって尋ねる。本当に人間臭い機械だ。
「なんで俺が怒るんだよ」
『だって、マスターに「抑えて」って言ったのに私が抑えられなかったから……』
「怒らねえよ。ま、ちょっとは我慢しような」
怒ったって仕方がないしな。本人が反省しているのなら今度は上手くやるさ。
しかし、機械だ機械だといっても表情と自我のある機械は本当に機械なのだろうか?それはもうすでに人間なのではないだろうか?
と、そんなことを考えている場合じゃなかったな。
避難させたアクア達と落ち合おう。
「さて、避難したアクア達の所へ行こう。もうここは安全だしな」
『了解、マスター。捕まって』
フオォォンと音を立てながらマキナが宙に浮き上がる。
「え、ちょ」
何をするのかわからなかったが、嫌な予感だけはした。
そして次の瞬間、マキナが俺の腕を掴むと突然体が異常な推進力を得て前方へと投げ出されるように飛んだ。
「ちょおおおぉぉぉぉぉぉぉ………‼︎」
ドップラー効果のせいで俺は声をエコーさせながら飛んでいった。
俺の体は無尽蔵に再生するので身体的には特に問題ないのだが……。俺は絶叫系マシンが苦手なのだ。
『大丈夫、マスターの腕がちぎれない程度の速度に留めている』
「全くもって大丈夫じゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ‼︎」
俺の悲痛な声が響き渡った。
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「どうしたんすか……?リュート様」
「い……いや……。ぜぇ……ぜぇ……、な、何でもねぇ……、はぁ……」
俺たちがアクア達と合流した時、俺は半ば放心状態で荒い呼吸を繰り返していた。
だから、無理だって言ってるのに……。
「リュート、大丈夫……?お水飲む……?」
「あ、あぁ……、た、頼む……」
「……分かった。『水弾』」
パシャン!と音を立てながらアクアの手に持った容器の中に水が満タンに入る。
「どうぞ」
「すまん」
グビグビと飲み干す。
何だか普通の水に比べて美味いような気がする。多分気のせいだろうが、まぁだいぶ気分は落ち着いた。
「はぁ……。マキナ、今度飛ぶときはもうちょい速度落としてくれるか?」
『状況にもよるけど……概ね了解した、マスター』
次回あたりにはすでに忘れていそうなんだが……。不安だな……。
「リュート様、ルシファーが既にこちらに向かっているそうっす。アイツの能力ならぼちぼち到着する頃合いっすよ!」
「そうか。じゃあルシファーを待って魔王城へ向けて出発するぞ」
多分この後も何かしら襲撃やらがあるだろう。
俺の命を狙っての行動もあるだろうが、それとは別に旧政権派に対する粛清も始まっているようだ。
「全くもって許しがたい」
ベルが憤慨した様子で呟いた。
気持ちは分からなくも無い。ここはベルとアスタの故郷の街だもんな。
「魔王城へ行くのなら一泊していかないっすか?」
「そうだなぁ……。ま、ルシファーが帰ってきて話を聞いてからだな。魔王城の方がどうなっているか分からねえ……」
「そうっすね」
俺たちは出発出来るように準備だけ整えてルシファーを待つのだった。
マキナが便利キャラ過ぎる。ルシファーも大概だけども。