やり過ぎな配下
「アリス、敵の動きが活発化してきている。十分に注意しろ。我々はすぐに魔王城へと帰還する」
「新政権派としては私達の元へリュート様が戻ることは面白くないでしょう。ならば敵は全力でリュート様を消しに来る。私達も全力でサポートします。ですが……」
「魔王様の守護は私の役目だ。命をかけて遂行する」
そう言うとルシファーとアリスはお互いに背を向けた。
「それでは……」
「ええ、魔王城で」
そして2人はその場から忽然と姿を消した。
---リュートside---
飯を食い終わった俺たちはやる事もないのでボンヤリとルシファーを待つ。
ルシファーが帰ってきたらまずルシファーの『用事』とやらを聞き出さねばならないしな。
今後の方針を決める為にルシファーは知人に会いに言ったそうだが……一体どうなることやら……。
「もし魔王城へ帰るんなら絶対に刺客が来ます。でもでも!俺が絶対に守るっすよ!」
「はいはい、そうなりゃ頼むぜ。ま、俺たちの動きがバレてるって前提で動いた方が安心かもな。ちょっと神経はりつめる事になりそうだが……」
正直言って子供を連れて来たのは失敗だったかもな。明確な足手纏いになっている。
だが、魔王城に到着しさえすればあれ以上に安全な場所もないだろう。それまでの辛抱だ。
実際俺がいない間に獣人界にいたアクアを含めた俺の仲間たちが襲撃されてしまった。そまぁ、今はその犯人は俺の仲間なわけだが。
妖精王のおっさんがいるのだから基本的に心配はしていないが、あのおっさんはよく昼寝をしているので万が一があるかもしれない。
だからジンとエマを連れて来たのだ。
その時、家の外から轟音が響き渡った。
ゴオオオオオオオオオオ‼︎
「な、なんだ……⁉︎」
俺の驚愕した声と同じタイミングでデウスエクス・マキナが俺の真隣に転移して来た。
『マスター、敵が暴れている。戦闘の許可を』
「まずは何が起こってんのか短くでいいからちゃんと説明しろ。話はそれからだ」
『数十人の戦闘部隊がこの街で暴れている。「旧政権派を許すな!」とか何とか言ってた。どうやらこの街は旧政権派に傾いているらしい』
「成る程な……。一応聞いとくが、敵は普通の魔族だな?」
『多分。少なくとも神や天使の気配は感じない』
「なら良い。戦闘を許可する。俺も行くぞ!」
俺は立ち上がり、指示を出す。
「アクア。ジンとエマを抱いて安全地帯まで逃げろ。アスタ、ベル、アクアと子供達を頼む」
「ちょ、リュート様はどうするんすか⁉︎」
「俺なら問題ない。マキナがいる。それに、アクアは子供を2人も抱えてるんだ。絶対に守れ。良いな?」
「で、でも……、リュート様を守るのは俺の……」
理由を説明したが、アスタは釈然としない様子だ。
ルシファーに俺の護衛を頼まれていたからな。だが、ここは兵力と攻撃力が必要な場面だ。
俺の意図を汲んだベルがアスタの首筋を引っ掴んで引きずり始めた。
「了解した、リュート様。どうかご無事で。行くぞアスタ」
「あ、ちょ、ベル!話せ!分かったから、走るから!自分で走る!」
「悪いな、アスタ。命は賭けるな。絶対だぞ」
「リュート様こそ!無事でいて下さいっすよ!」
そして俺はアクアに向き直って短く言った。
「怪我だけはしないでくれ」
「リュートは……、心配いらないよね……?」
「当たり前だろ。後で落ち合おう」
「……うん」
そうして少しアクアが顔を上げた。何をして欲しいのかはまぁ大体分かる。
俺はアクアのひたいに軽くキスをした。
「これで良いか?」
「……うん。リュート、後でね」
そう言ってアクアはベルと共に家の外へと出て行った。
外は逃げ惑う人々でごった返していた。
事態は思った以上に切迫しているようだ。
怪我人も見受けられる。コレなら重傷者も沢山居ることだろう。
何が原因かわからんが……、すぐに黙らせてやる。
「よし、行くぞ、マキナ。アスタ、行け!」
「はいっす!」
『了解、マスター』
俺たちは二手に分かれ、行動を開始した。
---
「マキナ!アレか⁉︎」
『そう。アレ』
俺たちは新政権派の暴れて居る場所へと急行した。
大きな屋敷を取り囲んで居る。一体何が……。
「……ッ!?」
俺は息を呑んだ。
そこにはまるで魔女狩りでもするかのように壮年の男性が磔にされていたのだ。
しかも、よく見ると壮年の男だけではない。その妻であろう女性とその息子であろう若い男まで磔になっていたのだ。
既に絶命しているようでぐったりとしている。
いくつもの槍を突き刺されたり、足元から焼かれたりしたのだろう。その痕跡がありありと残っている。
まさしく外道の所業だった。
「彼奴ら……外道め……!」
俺は胸の辺りにメラメラと怒りの炎が湧き上がるのが分かった。
『マスター、今は少し抑えて。奴ら、何か言ってる』
「わ、分かってる……」
マキナに言われて少し平静を取り戻した俺はマキナと共に物陰に隠れて様子を伺う。
磔にされた三人の前で年寄りの男が大きな声で演説している。
どうやら奴がこの集まりのリーダーのようだ。
「此奴らは我らがゼクス様に逆らうような行動を取り続けてきた!旧政権派に与する者には須らく死を与えるのみ!」
さらに男の演説は続く。
早くも俺は此奴らを全部ぶっ飛ばしてやりたくなってきた。
さっきもマキナの話に出てきたが、そのゼクス様ってやつが新政権派の頭か。
「魔王城が破壊され、魔王は死んだ。その時、誰が魔界を護り、支えたのか⁉︎それはゼクス様だ!ゼクス様こそが時期魔王にふさわしい!」
俺はそこで動きが止まった。
此奴らは俺がいない間に魔界で生きてきたのだ。その間ずっと人族と戦争をしてきた。
そしてその時、国民を支えたのは俺じゃあない。そのゼクスという男だ。
俺は唇を噛んだ。
「それが旧政権派の者共は死んだ王子をまだ生きていると主張し、権力の座にしがみついている!そのような害悪はこうして分からせねばならないのだ!」
男は両腕を広げ、さらに大きな声で言い放った。
「魔界を滅亡の危機に貶めた無能な王子なぞ、生きていようとも魔王の座はゼクス様のものだ!」
それはその男の運のつきた瞬間であった。
気がつくと俺の隣に居たはずのマキナが消えて居た。
瞬間移動をしたのだろう。空中へと身を躍らせたマキナは静かに自身の兵力を展開させる。
『兵装展開。殲滅砲撃』
そして次の瞬間、光が一帯を包み込んだ。
ゴオオオオオオオオオオッ!
マキナの放った破壊の一撃は悲鳴すらあげることを許さず、全てを破壊し尽くした。
焦土と化した広場に幽鬼のように立つマキナはゆっくりと口を開いた。
『誰が……、無能だと……?』
ザシュッと何かを踏みつけるマキナ。
既にそれは生き物の形を保っては居なかった。言われなければ元々生きて居たものだとは分からない程に崩壊して居た。
『私のマスターは無能じゃない。無能って言う方が無能。だから、私に殺される。マスターなら今の一撃を食らっても死なないし、多分避けれる。だから貴方の方が無能。QED』
どうやら俺が罵倒されたのに苛立ったらしい。
「おい……、やり過ぎだろ……」
焦土というよりもクレーターというか……、磔にされて居た家族たちも消し飛んで居た。
どう考えてもやり過ぎだ。
『マスターを罵倒するということは私に対する敵対行動。其れ相応の覚悟をしてもらう必要がある』
「アスタもそうだがお前もかよ……、あぁもういいや。どうせ言っても無駄だ」
多分この件に関しては俺のいうことなんて聞かないだろう。
それにちょっとスッとしたしな。
リュートの謎の人望