ある提案
「なんだ、やっぱ結婚したのか」
「やっぱりって……、こうなると思ってたのか?ジェイドさんは」
「そんな気はしてたって事だよ」
俺たちはジェイドの家でくつろいでいた。
別れてからの出来事を掻い摘んで話し、子供も紹介した。
「しっかし……あのガキどもがこんなにデカくなって……子供までこさえてやがるとはなぁ……」
ジェイドは昔のように俺とアクアの頭をガシガシと撫でる。
アクアは久々の感覚に目を細める。
「ちょ、俺もガキじゃねえんだしやめろよなー」
「ははは、悪ぃ悪ぃ兄ちゃん。で、ジンとエマだっけか?いやぁ、嬢ちゃんに似て可愛らしい顔してやがる……」
ジェイドはジンとエマの頭を交互に撫でる。
2人とも不思議そうな顔をしてジェイドを見上げる。
ジンの顔が俺に似ているのかと聞かれればまだ分からない。まだ3歳にもなっていないのだから当たり前だが。
確かにアクアに似て可愛らしいと言われればそんな気もする。
「ジェイド殿。幼少期のリュート様とアクア様の件。心からお礼申し上げます」
ルシファーは事あるごとにジェイドに頭を下げている。
アスタやベルも同じだ。
三人とも俺に対する忠誠心のパラメータが振り切れてるからな。
「ホンットに!ありがとうございましたっす!」
「感謝する。我が主を守ってくれた事」
「いやいや、やめてくれ。守ったなんてよ……俺は大したことしてねえんだ。旅の仕方は教えたが、俺は戦闘はからっきしでな。昔から俺よかリュートの方が強かったんだぜ?」
「それでも、今のお二人があるのは貴方のお陰でございます。切に、御礼申し上げます」
ルシファーは礼儀正しく深々と頭を下げる。
俺とアクアはと言えばそんな雰囲気に流されずに子供達のご機嫌取りだ。
そういえばジェイドは戦いはからっきしだったよな。盗賊に蹴られて悶絶してたし。
ジェイドは少し真面目な顔をして背筋を伸ばした。
「しっかし、兄ちゃんよ。ちょいと戻ってくるのが遅かったぞ。今や新政権派は少しずつだが優勢になりつつあるんだぜ?」
ちなみに俺は旧政権派だ。何たって先代魔王の実の息子だからな。
「それについては言い訳のしようもねえな。内乱ってのはそんなに酷えのか?」
「あぁ。新政権派によるテロ行為なんて日常茶飯事だぜ。旧政権派もそろそろダメなんじゃねえかって専らの噂だ」
事態は思ったより深刻な様だ。
俺は居住まいを正し、問う。
「なんとか内乱をおさめたい。俺が魔王として名乗りを上げて……どうにかなる問題だと思うか?」
「8年も魔界を放ったらかしにして魔王じゃあ国民が何ていうかなぁ……」
「すまん……」
「あ、いや。責めてるわけじゃねえんだ。俺はお前を支持してるぜ?兄ちゃん」
しかし、俺が長いこと魔界を放ったらかしにしてたのが結構デカイ問題として立ちはだかってやがる。
こうなるのが分かっていれば帰っていたものを。
「まぁ、今日はくつろいで行ってくれ。狭い家だがよ」
「あー、いや。こんな大所帯で世話になるわけにもいかねえし俺たちはここらでもう行くよ。今回は城の方に用があるんだ」
「そうか。じゃ、兄ちゃん。また暇だったら寄ってくれや」
「ありがとう」
俺は小さく礼を言ってジェイドの家を出た。
もう少し話したいところだが、問題が浮き彫りになってしまった。一刻も早く行動を起こさねばならない。
ジェイドは家から少し離れた場所まで俺たちを見送ってくれた。
ジーンは仕事があるとかで出て行ってしまった。
「……ジェイドさん。また、来るね……。ほら、ジン、エマ。バイバイして……?」
「ばいばーい」
アクアはジンとエマの手を握って手を振った。
しかし、ジンはむっつりと黙ったままだった。
「あぁ、嬢ちゃもガキ共も元気でな」
ジェイドは機嫌よく手を振った。
俺たちはそうして、ジェイドの家を後にするのだった。
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「しかし、俺がもっと早く帰ってこれば……」
「ですが、魔王様は当時8歳。8歳の子供に国家の重責を担う力はありません。ですから、今日まで力を蓄えていたと言えば……」
ルシファーが俺に耳打ちする。
「おいおい、嘘つくってのか?」
「いいえ、嘘ではありません。これは真実を含んでいます」
いや、確かにそうだが……。
力を蓄えていたのは事実だ。だが、それは国のためにじゃない。自分の為にだ。
それに、それなら何故成人した時に戻らなかったのか?と聞かれておしまいだ。
「成人したときに国に戻らなかったのは奴隷の身分に落ちていたと言えば良いのです。事実アクア様は三年間奴隷の身分に落ちておりました」
「ジルんとこでな」
確かに。それなら過去の記録を改竄すれば何とかなる。
まぁ、次期国家元首ともあろうものが記録の捏造なんてスキャンダルをあまりしたくはないが……、汚い事でもやらねばならないだろう。
「世論を味方につけねば我々の勝利はありません。先代魔王の威光のお陰で未だ旧政権派は僅差ではありますが優勢と聞きます。ならば、それを利用しない手はない」
確かにルシファーの言うことはもっともだ。
それに、新政権派はテロという手段にも出ている。それを逆手に取り、平和な魔界を謳えばなんとか主導権を握ることが出来るだろう。
「そうとなれば敵を国家に対する反逆として討伐する建前が出来ます。ならばそこから戦争に持ち込むことが出来ます!」
「国内で水面下にて起こってる内乱を全面的に押し出すのか?そりゃ俺たちにとっちゃ好都合だろうよ。でも国民はどうなる?そんなことしてみろ、罪もない人が死ぬことになるぞ」
「しかし!今ここで新政権派を叩かねば我等に明日はありません!リュート様、あなたが即位する為には手段を選んではいられないのです!」
普段感情を表に出さないルシファーが珍しく声を荒げる。
「くどいぞ。俺はそこまでして即位したいとは思っていない。確かにジャード達は内乱を鎮めねば同盟は無しだと言っていたが、俺はその為に国民を命の危機に晒すつもりはない」
俺は長いこと魔界を放置し続けた。それは俺自身の選択だ。戻ろうと思えば戻れた時もあったのに。
だから今のこの状況は俺の自業自得なのだ。なのに、そのツケを関係ない国民に払わせるわけにはいかない。
「出来ればテロは未然に防ぎます。しかし、屈してはなりません。貴方は魔王なのですから」
「わざわざテロを激化させる必要は無い。だが……、まぁ、このままテロを放っておくのも考えものだ……」
テロには屈してはならない。それは前世の地球では常識だった。
相手は革命のつもりなのだろうが、新政権派は暴力によってこの国を奪おうとしているだけなのだ。
ならばそれに対抗するのは暴力しかない。
「だが、テロに対する対抗策を待たない俺たちはどう足掻いても国民を危険に晒してしまう……」
「ならば、魔王様。私に一つ提案が……」
ルシファーが俺に小さくその提案とやらをを耳打ちした。
それを聞いた俺は一応了承した。
確かに一般市民を直接危険な目に合わせるという事態は避けることが出来るかもしれない。
「良いだろう。まぁ、出来ればおまえ達にも危険な目にはあってほしくないが……」
俺は遠くに霞んで見える魔王城を見つめた。
そこには昔、先代勇者に破壊された無残な姿はなく、悠々と聳え立つ魔王城の姿があった。
ふぇぇ、作者は難しいお話は苦手なんだよぉ……。ツッコミ所が多いかも知んない