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転生魔王の異世界征服  作者: 星川 佑太郎
十一章 魔界編 其の二
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忘却の彼方

THE・I☆NA☆KA


「どうして私は置いてけぼりなんですかーっ!」


出発直前になって祐奈が駄々をこね始めた。

もう出発するんだよ。今更いうな。


「だぁから、ジルの捜索に回れって言ったろーが!魔界の内乱は俺個人の問題だって言ってんだろ!だからだ!」

「嫌です嫌です!私も行きます!」

「お前は勇者だから話がややこしくなるんだよ!来んなって言ってんだろ!」


俺が魔界へ向かうメンバーを発表すると祐奈が怒涛の勢いで噛み付いてきた。

納得してくれるものだと思っていたのだが、祐奈はそんなにも俺について行きたいらしい。


「うぅ……、私も行きたいです……。リュートさんの隣で戦いたいです……」

「はいはい、そう言ってくれるのは嬉しいけど今回だけはパスだ。アスタだって渋々だったけど獣人界行きを断念しただろ?今回はお前が我慢する番だ」

「はい……、分かりました……」


父親に怒られた子供のような態度の祐奈の頭を撫でながら何とかなだめる。

精神年齢の成長が完全に滞っている。お前今年で25じゃなかったか?


すると、祐奈はすっくと立ち上がりグッと拳を握った。


「だったら、リュートさんの留守の間に絶対にジルを見つけてやりますよ!私なら人間界は顔パスですし!」

「よし、よく言った!頼んだぞ!お前には期待してる!」


丸め込みやすい性格で助かった。


「そうと決まればすぐにでも出発だ。妖精王のおっさんにも急かされてんだよ」

「では魔法陣の中に入れ。転送する」


フェリアの作り出した少し大きめの魔法陣に俺たちを身を押し込める。

今回は割と大所帯だが、フェリアの魔力は大丈夫なのだろうか?


「では、転送開始だ。行くぞ」

「おぅ」

「3、2……」

「あ、帰りってどうすれば……」

「1、0。『転送魔法(テレポーテーション)』!」


ヒュンッ!


一瞬だけ視線が真っ白になったかと思えば目の前には妖精界のミストレア城の中ではなく、だだっ広い草原が広がっていた。


「ちょっと待てぇぇぇぇぇ!帰りどうすんだ⁉︎帰りは⁉︎」


その場に俺の叫びがこだました。


---


「ま、まぁまぁ、魔王様。帰り道は『音信魔法(コール)』を使用すれば……」

「そ、そうだよな……。は、ははは……」


俺は乾いた笑いを漏らした。

大丈夫だ。前もって連絡してもう一度ここに転送魔法の経路(パス)を作って貰えば良いんだ。


「よし。落ち着いた」


俺は少し息をついて周囲の景色を睥睨する。

懐かしい空気だ。

ジェイドの家に来るのは初めてなのだが、妙な既視感があった。


「……ジン、エマ……。ココがパパとママの故郷だよ……」


アクアが抱き抱えている双子に語りかける。

2人はアクアの言葉が分かっているのか周囲を興味深げに眺めている。

今まで住んでいたところとは些か毛色の違う場所だからな。

ずっと獣人界の森に住んでたし。


「ひっさしぶりっすね〜!ずっと薄暗いゲートの中にいたからホントに久し振りっすよ〜!」

「本当に……、私たちも帰ってこれてよかった」


アスタとベルも久しぶりの魔界を懐かしんでいる。

2人とも10年以上ゲートの内部にいたのだから魔界は本当に久し振りだろう。

しかし、いつまでも感傷に浸ってもいられない。


「さてと、まずはジェイドさんを探さないとな」


と、俺がその場から振り返った瞬間。


バビュン!と風を弾く音と共に何者かが目の前に現れた。


『マスター、置いてくなんて酷い』

「な、な、なっ………!」


デウスエクス・マキナだった。


ちょっと待て。確かに置いてきたが、俺がデウスエクス・マキナを置いてきたのはミストレア城だぞ⁉︎


「お、お前……瞬間移動が出来るのか⁉︎」

『勿論』

「何で勿論なんだよ……」


この規格外の機械型神様は大概のことは出来るらしい。

デウスエクス・マキナは周囲をキョロキョロとしながら瞳を赤く光らせた。


『魔界のマップデータ照合を開始。……完了。ココは魔界の街、アストレア近郊の村、アトハ村』

「へ、へぇ……。流石だな。デウスエクス・マキナ」

『長いのでその名前は非効率。マキナで構わない。愛称で呼んで、マスター』


デウスエクス・マキナがあざといポーズをする。

しかし、俺は冷静だ。


「分かった。じゃあマキナ。ジェイドさんの家分かるか?」


ダメ元で聞いてみる。

分からなかったとしてもまぁ探せば良いので、分かれば儲けものだ。


『分からない。ごめんなさい、マスター』

「いや、謝る必要はない。俺もダメ元だったしな」


頭を下げるマキナをフォローしつつ辺りを見渡すが、民家は少ない。

農地や草原、畦道が広がっており、ザ・田舎みたいな村だ。いや、田舎だからジ・田舎か?まぁ、どっちでも良いか。

しかし人影が少ないな。田舎だし、こんなもんか?


「しゃあねぇ、取り敢えずその家に入ってジェイドさんの事聞くか。この村ならそんなにでかくもないし、人に聞けば分かるだろ」

「そっすね!流石はリュート様!名案っす!」

「誰でも考え付くだろ……」


こうやって俺の部下たちはすぐに俺の事をヨイショする。

アスタは特にその傾向が強い。


コンコンと民家の玄関扉をノックして声をかける。


「ごめん下さ〜い」

「はい?」


ガラッと扉を開けて出て来たのは何とジェイドだった。

昔と何も変わっていない。


「誰だアンタ?」

「久しぶ……、だ、れ、だ、アン……タ?」


久し振りです!って言おうとしたら「誰だアンタ?」って言われた。

え、俺忘れられてる?忘れられてるの?もしかして?いや、もしかしなくても忘れられている。


「い、いやいや……、俺だよ、俺。忘れちゃったのか?」


後から思い返すとオレオレ詐欺みたいだなぁと思ったがこの時の俺は気が動転していた。

フェリアは一発で見抜いてくれたのにまさかジェイドに限って忘れてるなんて……そんなはずはない。


「りゅ、リュートだよ。覚えてないか?」

「いや、分かんねえな。誰だ?」

「がはっ!」


バタッ。チーン。


普通に忘れられていた。

しかも名前すら覚えていない。

ジェイドの中では俺たちは忘却の彼方に飛んで行ってしまったのだ。


「いや……、そんなはずはない。そうだ、俺が成長してるから忘れているのに決まっている。そうに違いない。名前を忘れているのも何かの間違いだ」


俺は目の前にジェイドがいるのにも関わらずブツブツとうわ言のように呟いた。


「……ジェイドさん。私たちの事忘れちゃった……?」


アクアが少しいつもより小さな声で不安げに尋ねる。


「あ……?いや、すまねぇ。俺はジェイドじゃねえよ。俺の名前はジーンだ。ジェイドは俺の弟」

「ぅえ?」


ジーンと名乗った男の言葉に俺は素っ頓狂な声を出す。

ジェイドの兄貴……?


「おーい!ジェイド!お前に客だぞ!」


ジーンが家の奥に向かって大声を張り上げる。


「んだよ……、俺に客ぅ……?」


ジーンの声に応えて1人の男が家の中から出て来た。

今度こそジェイドだ。

目を疑うほどにジーンとそっくりだ。並べてみると少しだけジェイドの方が若い。


「ジェイドさん!」

「ん……?なっ、あ、兄ちゃんじゃねえか!それに嬢ちゃんも!ひっさしぶりだなぁ!元気にしてたか!?」

「……ジェイドさん……」


ジェイドは俺たちの事を覚えていてくれたのだ。

8年経って成長しているはずの俺たちを一目で見抜いた。


「あぁ、なんか……忘れられていなかったと思うと……涙出て来た」

「……ジェイドさん……!久し振り……!」


俺とアクアはジェイドとの再会を喜びあった。

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